第七話 銀閃の戦姫
荒い大地がある。
緑豊かとは
その大地で、剣を振い、生きようとしている数多く者たちの姿が目に映った。
と言ったところで、数は生きているモノよりも、人とは決して言えない化け物の方が多かったが。
剣を刺し、化け物から抜きながら、後ろを見る様に顔を後ろに向けながら、声を大にする兵士がいた。
「おい!!! 撤退の指示はまだか!!?」
そう訊く声に、声を大にして応える声がある。
「バカを言うな!!! まだ姫様が、」
大きく振り上げられた切っ先を剣で防ぎ、弾いてから、
「前にいるだろうが!!!」
突き刺した。その声に、
「ああああ、クソッ!!! なんで城にいないんだよ!!! 普通お偉いさんってのは城にいるもんだろ!!! なんで戦場に来るんだよ!!!」
「俺が知るか!!!」
剣戟の音が鳴り渡る戦場で、そう言い争う様に声を大にしながら話す兵士たちを他所に、生者を食らわんとする化け物たちは生死を賭けようが賭けまいが、気にすることなく、己の腕を振るう。
その腕を振るうのは、生者を
それは、生者足りうる兵士たちには分からない。
だが、一つ、
一つだけ分かることがあるとすれば、それは、
「・・・・・・っ。 爆発!!? ちぃ、新手か?!」
遠く、とは言ってもそれほど遠いわけではなく、ここらは遠くの位置からという意味での遠くであった。
その爆発におおよそが分かっているのだろう、熟練そうな容姿をしている兵士が化け物に刺した剣を抜くと同時に、笑う様に、
「なんだ、知らんのか? あれはな、」
「あれは・・・・・・?」
あれは、何だと問う声に、訊く声があった。
だが、その声に応えるよりも早くに、
「私よりも遅いとは・・・・・・。貴様ら、流石に遅すぎやしないか?」
化け物が一閃されると同時に、一人の女性が現れる。
髪が風揺れるのを防ぐためだろうか、髪を後ろでまとめ上げながらも、顔横で流れる銀色の煌めく長めの髪を手で払うその姿に、熟練そうな外見をしている兵士が声を掛ける。
「お嬢。あっしらは元は其処らにいる農民でさぁ。いくら何でもお嬢より早くに終わらせるってのは無理ってもんでさぁ。」
「だとしても、どうにかするのが貴様ら、帝国の兵士たる役目だろう?」
遅すぎると言われたことに反論するが、そんなことは分かっているという様に、彼女は答えながら、
「まぁ、なんだ。・・・・・・あとは任せろ。
こちらもまだまだ暴れ足りんからな。」
暴れ足りんと言われたことに兵士は肩を竦める。
だが、何も分かっていないのだろう、新兵だという様な年若い兵士は口を挟んだ。
「で、ですが、姫様!!! 我等とて帝国の兵士!!!
と言われた言葉に、
「だったら、付いて来るか? 」
何、
「付いて来れんのであればただ死ぬ、それだけの話よ。」
と言いながら彼女は自身に振られる刃を受け流し、刃が抜けたと同時に剣を振い祓った。
「で? 付いて来るのか、来ないのか?
あまりここで問答をして時間を潰したくはないのだが?」
うん? と訊く様に言いながら、刃を振るって迫る化け物から身を縫う様にすり抜けると、剣を振り、人間でいうところの首元を払った。
周りの人間に有無を言わない、その対応に新兵は何も言えなくなる。
その光景を見て、なんだかなぁ、と思いながらも、
「お嬢。ここは我々が引き受けます。」
と言っても、
「お嬢が連中を食い潰す方が先かと思われますがね。」
皮肉交じりに呟かれた言葉に、彼女は口元を歪め、鼻で笑いながら、
「だったら、貴様らが連中を食い潰すのが先か、」
それとも、
「私が連中を食い潰すのが先か、賭けようか?」
普通であれば、ほとんど冗談に聞こえないが、彼女にしては比較的まともな冗談で、その冗談に大抵は新兵の様に顔を引きつらせる。それと対照的に、熟練そうな外見の兵士は肩を竦めることで返事とし、
「お嬢。笑おうにも、あんたの冗談は笑えないんで。」
刃を剣で弾きながら、そう応える。そう言われたことに、彼女は兵士と同じく肩を竦め、
「なんだ、他愛もない。付き合いが悪いにも程があるぞ?」
「いや、知りませんよ。」
そう話しながらも、また一体の頭を斬り払う彼女が人間なのかどうかを怪しむような視線を向ける。人間・・・・・・、うん、人間、認めたくはないけど一応、人間であるはずだ・・・・・・。でも、同じ人間なのかなぁ・・・・・・。出来れば、認めたくはないなぁ・・・・・・。嫌だなぁ・・・・・・。
と思いながらも、剣を振う。
もう何体を倒したのか、それすらも分からなくなってきたことを自覚すると同時に、
「お嬢、すいません。疲れてきたんで、とっとと潰してもらえませんか?」
と言われた彼女は、
「おいおい、なんだ。この程度で根を上げるのか、貴様?
面白みがないな。」
つまらん、と言外で呟きながら、退屈さを語る様に化け物の頭を斬り払った。
「だが、その願い、私が叶えよう。」
何故なら、
「私は、フィアルス帝国が第一王女、バルト・フィアルスだからな!!! 」
ああ、
「国を守る民であるのなら、兵士と言えどもその願いを聞き叶えるのが帝国の長たる役目よ!!! 」
と、バルトと名乗った彼女が口にした直後、紅蓮の火炎が周囲に吹き荒れた。
ラグナロック 田中井康夫 @brade
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