占地茸スイッチ

 シメジだ。ホンシメジかブナシメジかはこの際気にしないでいただきたい。この発言で自分がブナシメジであると告白しているに等しいことは自覚している。

 さて、食材としてのシメジに期待されていることは何か。

 香りマツタケ味シメジとも言われる通り、味に期待する向きは多いだろう。それは良い。食材としての無上の喜びである。

 次に食物繊維。あるいは第一か。体内をキレイにする、とオブラートに包んだ言い方よりも、ウンコがドッサリでスッキリ、と言うほうが好みだ。

 これに続くのがビタミンやミネラルだろうか。それもいいだろう。

 ……のためにシメジを入れようと言う奴、表へ出ろ。食うな。水でも飲んでろ。シメジにはシメジの矜持がある。の代用品として扱われること、不愉快この上ない。

 わかってはいる。カサでは理解している。人はシメジのみにて生きるにあらず。むしろ無くても生きていける。だが。だからこそ。「ローカロリーでおなかいっぱい」などという扱いに甘んじてはいたくないのだ。


 食物として主役になれないのであれば、シメジは如何に生きるべきか。


 かつて、とあるWebブラウザの中止ボタンがシイタケに見えて困る、という話題が一部の界隈で盛り上がった。その時はあくまでも見た目の類似性のみが注目されていたが、いまシメジはその概念を拡張しよう。カサの形状、大きさ。弾力性。シメジ以外の何かに似ていないだろうか。

 テレビのリモコンの電源ボタン。あるいは、キッチンタイマーのスタートボタン。押し込むとフニっとした感触のある、黒かったりグレーだったりするボタン。

 メンブレンスイッチと呼ばれる電気部品である。

 ゴムなどのシートに電極を貼り付け、押し込むと基板上の回路がその電極で導通し……詳しくはインターネットで検索だ。とにかく、シメジはスイッチになるのだ。

 現代文明とはスイッチの文明である。スイッチがなければテレビのリモコンはただの電池ボックスだし、キッチンタイマーは時刻合わせもできない時計だ。スマートフォンは電源ボタンがなければ起動しない。温水洗浄便座の停止スイッチがなければ困る人も多いであろう。

 スイッチ、スイッチこそがこの世を支配するのだ。そしてスイッチとはシメジであり、シメジが世界の覇者であることは自明であり疑う余地もない。世界よシメジにひれ伏すがよい。


 でも本質的にシメジはキノコなのであんまり手荒に扱わないで欲しいです。

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可食メカニカル妄想 空想演算器 @fantasyprocessor

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