第3話
「えー……水魔法は微妙な結果に終わってしまいました」
「とりあえず次は外でやって」
「さーせん」
慌てて水浸しになってしまったリビングを掃除したわたし達は、疲れてソファーでぐったりしているなう。
……いかん、脳みそも疲れている。
「紫はもう少し考えてから行動しましょう」
「へい」
「夢叶ちゃん夢叶ちゃん」
「どした、桂花」
「投擲覚えた」
「お前も軽率だな!」
ダイニングテーブルに出しっぱなしだった投擲は桂花のモノになっていた。
別にいいけども!
「んー……えい」
ぐったりしていると、何度か桂花から棒読み調の掛け声が聞こえてくる。
顔を上げて桂花の方を見ると、ゴミ箱に向かって何かを投げている様子だ。
「……なにしてんの?」
「ティッシュ丸めて投げてる」
「無駄使い!」
ゴミ箱の周りに無惨にも丸められたティッシュがいくつか落ちている。
「投擲って的に確実に当たる、とかじゃないんだね」
「命中率補正なのかな?……にしても何割アップとかわかんないね」
「でもノーコンの桂花がゴミ箱にシュート出来てる……」
「そんなに酷かったの?」
「狙った所に飛んでいったことがない」
「おう……」
言葉に詰まったのを誤魔化すようにソファーから立ち上がり、ダイニングテーブルの方へ移動する。
テーブルには開かれたままの本があり、そこには低級魔力回復薬ときびだんごが残っている。
「説明文読むと、きびだんごも回復アイテムなんだよね」
「もーもたーろさんもーもたーろさーん」
「おっこしにつっけたーきーびだーんごー」
「ひっとつーわったしーに」
「くーださーいなー」
「やらん」
「なんでだあああああ」
交互に歌い出した紫と桂花を一刀両断しつつ、本からきびだんごを取り出す。
出てきたのは皿に乗ったきびだんご(3個)と湯呑み(お茶入り)である。
「お腹空いた」
「きびだんごだー!」
「お茶が足りない……」
「食う気か、そうか」
お茶を用意するから待ってろ、と告げてお茶を淹れる。
戻ると桂花と紫は物欲しそうにきびだんごを見つめていた。
「おあずけされた犬か」
「わんわん」
「ばうわう」
「……まあいい、食べよっか」
「いっただっきまーっす」
「いただきます」
「いただきます」
1人1個しか食べられないのが惜しまれる程、きびだんごは美味しかった。
「んー、おいしー!」
「ん、んま」
「これはおやつに丁度いいね!」
「でもこれさー……回復アイテムなら急いで食べないとダメなやつだよね?」
「あー……」
「喉詰まる」
「戦闘中なら厳しいな」
「『ちょっと待って、回復タイム!』とかって通用するのかな?」
「『おーけー、こっちも休憩するわ』もしくは『だが断る』」
「戦闘ってなんだっけ」
3人でカラカラ笑っておやつ休憩が終わる。
魔力回復薬は使わずに取っておくことにした。
魔法使ったのは紫だし、あれだけしか用途がないのなら使い道もない。
ガチャのメンテ終了まで家事をして、晩御飯の用意を終わらせることにした。
※※※
18:03──
待ちに待った……わけでもないが、漸くガチャが回せる時間になった。
アプリを更新し、スマホをテーブルに置く。
そして3人で見下ろす。
『新装開店!!』とちょっとズレてる気がしなくもない文字が目に飛び込んできて笑う。
『ガチャろう』アプリを開くと、今までとは一新されていた。
まず、今まで一纏めにされていた内容が分けられていて、ガチャの中身で選べるようになっている。
『スキルガチャ』
『装備ガチャ』
『アイテムガチャ』
『1日1回無料ガチャ』
『換金所』
それぞれがボタンになっていて、試しにスキルガチャをタップしてみる。
福引のガラガラだったものが、イマドキのガチャに変わっていた。
ガチャポン形式になっていたのだ。
そしてその下に『1回300円』と『11回3000円』になっている。
1回にかかる金額が減り、10連が1回分おまけ付きになっていた。
どちらにも『1日1回のみ』というのは変わらないみたいだが、11連の方には吹き出しがあって、そこに『SR以上1個確定』と書いてあった。
10連を回せば11個出てきて、更に1個はSR以上が確定している。
「お得になってるよね?」
「うん、10回が11回分になったし、1回500円が300円になった」
「おおお、待った甲斐があったね!」
それにプラスして、『SR以上1個確定』という部分が二重線で消されている。
そしてその下には『1回こっきり!SSR以上確率3倍!』と書かれている。
めちゃくちゃ惹かれる文字があって目が釘付けになる。
だがしかしそんな……いやいや今なら美味しい……いやいやスキル使えないじゃないか……いやいや……いやいや……。
他のガチャも見てみれば、スキル、装備、アイテムのどれもが『1回こっきりSSR以上確率3倍』らしい。
こうして見ると1日につきそれぞれ12個の何かがゲット出来るということだ。
+無料分の1個になる。
「300円で夢が買える!」
「だからってさっきみたいに蛇口じゃあどうしようもなくね?」
「庭の水やりは紫ちゃんの仕事になった」
「えええ、マジで!?」
とりあえずまず1日1回無料ガチャを回すことになった。
ガチャポンのハンドルの部分をくるりと回せば、ガチャポン本体が揺れ、なんかキラキラとエフェクトが煌めき、銅っぽい色のカプセルが飛び出してきた。
そのカプセルをタップすれば中から出てきたのは『アイテムバック(中)』だった。
本を開いて確認してみれば、レア度はHR。
バックの中に30個まで入れられるらしい。
ただし注意事項があって、生き物はダメ、重量制限もあるみたいだ。
重量制限は30kg。
それでも十分な容量だと思う。
本から取り出してみると、ただのショルダーバッグだった。
染められていない生成り色のショルダーバッグで、チャックはついていないがカバーが掛けられるようになっていた。
カバーを上げて中を覗いたら、何故かマスが出てきた。
マスというのはあれだ、アイテムウィンドウと言えばわかってもらえるだろうか。
横に5マス、縦に6マスのアイテムウィンドウが浮かんだのだ。
マスの右下には0/30kgと書いてあった。
「アイテムバックとか夢が膨らむね!」
「30kgも何持つんだよ」
「……お米」
「ああ、買い物の時は重宝するね」
「あたしにも貸してー!」
「はいはい」
アイテムバックが紫と桂花を行ったり来たりしている間に晩御飯をテーブルに並べる。
準備を終えて椅子に座ると桂花がアイテムバックを隣の椅子に置く。
席順を決めたわけではないが、わたしと紫が並び、対面に桂花が座るのが定番になっている。
「もう1個アイテムバック出てこないかな?」
「ガチャだしねぇ……いつかは被るでしょ」
「いただきます」
「あ、いただきまーす」
「いただきます」
マイペースな桂花の音頭から始まったご飯も、食べながら話すのはガチャについて。
どんな魔法がありそうか、だとか、どんな装備がありそうか、そんな話をしながら楽しく食事をする。
食後の一服にお茶を飲みながらまったりしていると、紫が真剣な顔でこちらを向いた。
「課金したい」
「それな」
「とりあえず1回!11回の!」
「3000円か……取り分は相談でもいい?」
「私もガチャしたい」
「じゃあ1人1000円でわけようか?」
「おねげえしますだお代官様!」
「お主も好きよのぉ」
「ほっほっほ」
2人で笑っていると桂花がじっとこちらを見ていた。
「どした?」
「ガチャ、『スキル』と『アイテム』と『装備』あるよ?」
「そうだった」
「忘れてた」
無料のガチャでスキルもアイテムも出てきていたからすっかり失念していた。
「でも装備か……いる?」
「ここでもし聖剣!とか出てきても使い道ないよ?」
「私カーディガンが欲しい」
「それが出るかもわかんないっていうね」
「まずラインナップが提示されてないのがねぇ……」
うーん、と悩むわたし達だがふと根本的な問題が浮かんだ。
「でもさ……どうやって課金すんの?」
「え?」
「さあ?」
さてどうしよう。
ドタバタかしまし娘! 冬生 羚那 @Rena_huyuo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ドタバタかしまし娘!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます