第3話 始まりを告げる鐘

「・・・はぁ」


朝から溜息の大バーゲンである。

——原因は今朝だ。

馬乗りでボコボコに殴られた後、眠さが限界に来ていたおかげで

ハイエースに着くなりそのままベッドで横になっていたのだが、

なぜか起きると毛布が掛かっていた。そして毛布はモゾモゾ動いている。

・・・

怖いもんだ。幽霊でたかと思ったわ。


「・・・悪かったわよ・・・説明してなくて。」


―――そう、布団の中にいたのはだった。

マリー・アンゼルカ。

昨日俺が寝た直後、彼女も疲れ切っていたらしく

ハイエースに戻るなり倒れるように寝たのだという。

しかし、夜中に寒くなり毛布を出して再び熟睡。

そこへ寒くなった俺が毛布を引っ張ったおかげで

マリーも逃げる毛布にしがみつき、一緒に引っ付いてきた―――ということらしい。


「全くもって馬鹿らしい」

「アンタが言うか変態!?」

「俺は健常だ!てかそもそもなんで女のお前と男の俺が同じ車で寝泊まりするんだよ!?」

「もう空きがないのよ!仕方ないでしょ!アンタが変な気起こさなければいいのよ!別に!」


と朝っぱらから大ゲンカである。

ちなみに今日は作戦説明のミーティングがあるので早めに起きたのだが、

ケンカのお陰で絶賛遅刻寸前である。

とりあえずの支度は済ませたし、何とか走れば間に合いそう・・・



「――――で?今朝の作戦会議に遅れたと?」

「「・・・はい」」


間に合うわけなかった。結局隊長に叱られる羽目になるとは・・・

遅刻した分は仕方ないので今朝の会議の内容は隊長に教えてもらう事となった。


「今回は本島東南部に位置するグラニデの商会を鎮静化する。目標点は商会本部、作戦開始は3時間後だ。」

「敵勢力は?」

「確認できるだけで戦車が2台、機動兵装が15機。いずれも本部の格納庫からの反応だ。戦車にはAPSVを積んでいるという情報もある。油断するなよ」


マリーと隊長が作戦について詳しく聞いているが俺には全く分からない。

この勢力で勝てる相手かすら知らない状態なのだが・・・


「おい、フェリル」

「フィリルだ!」

「すまない。フィリル、お前にも仕事がある。今回は共同戦線だ。足を引っ張るなよ」

「共同戦線?」


常に共同戦線じゃないのか?同じ部隊だろ・・・?


「ああ。俺達は基本的に作戦行動を連携で行っている。しかし、ほかの部隊員と行動することは、まず無い。大方の作戦は全員、作戦内容に合わせた単独行動となる。」


つまり――助けてくれる者は誰もいないという事か。


「そこでお前には協力者が付く。オルドーだ。」


そう言うと俺の後ろから誰かが近づいていた。


「オルドー・ウィリアムスだ。よろしく頼む。アンタが噂の新入りだろ?期待している。」


背の高い男だ。

こいつもNFで出るのか。恐らく俺達二人で行動すると同時に別動隊がこっちと連携してくれるのだろう。


「俺とクレスが後方からバックアップする。

こっちの弾に当たるなよ。少なくとも射線には被るな、いいな?」

「はいよ・・・で?俺らは敵本部を制圧すればいいのか?」

「説明が途中だったな。ああそうだ。敵部隊を殲滅し、本部を制圧すればいい。・・・3時間後に開始するはずだったのだが、既に30分ロスしている。早く準備しろ。出発するぞ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「リニアカタパルト、推力正常。誘導テスト、オンライン。・・・誤差+0.0005㎜、正常範囲内」


準備に取り掛かって1時間・・・

NFの最終調整も終わり、システムも動作確認がもうすぐ終わろうとしていた。


「アンタのNF、仕上がったわよ。・・・でも本当にこの装備でいいの?バズーカに13㎜FAMG(フルオートマシンガン)、ハイヴリッドカーボンブレード・・・取り回し悪そうね・・・」

「敵がこっちより多いなら、弾幕で圧倒したほうがいい。無理に近接格闘すれば最悪蜂の巣だ。ウェイトオーバーはしてないんだろ?ならOKだ。」


変わってるね と言われたが俺はそうは思わない。このスタンスでゲリラを続けてきたからだろうか・・・

敵の戦力がどれだけのレベルかはわからないが、数が多いなら圧倒するのみ。

無駄に労力を割いた近接など、被害が増えるだけだ。

それに・・・それで救える命があるなら・・・



「警報!敵部隊、予想より早いタイミングで行動を開始しました。ポイントBまであと5000m!」


警報とともに報告が入る。

遂に来たのだ―――戦場が。そしてこれが長きに亘るわたる戦争の裏に埋もれる悪夢だと。誰も予期してはいなかった・・・引き金を引くまでは。



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A∩B-c/d ~碧キ魔獣~ @amane_killa

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