第22話
僕は朝、1時間目が始まる前にトイレから教室に戻ろうとした時、前の廊下をあの6人組の中の女子2人が通りがかり、話していたのを耳にした。
「橘芽依?」
「そいつが木部にイチゴパンを渡したらしいよ。この学校に木部の味方をするヤツなんていたのかよ」
「4人にも話して、ボコボコにして貰おうじゃん、そいつ」
その会話を聞いてしまった僕は、1時間目にどうしようか悩み、2時間目に呼び出しの手紙を書いたのだ。
“腕の一本ぐらい折りたい”などと恐ろしい言葉を聞き、僕がした行為は、少しは役に立った気さえもする。
教室内では相変わらず緊迫した空気が流れていた。まるで、町を支配する悪人と支配される住人達のような光景。
「何々?どうしたの?」
「あの先輩たち、また暴れてるみたい...」
騒ぎを聞き付けた生徒達のギャラリーが出来ていた。
「なぁ、2年生。橘芽依を連れてこい。それか...木部を呼べ」
ボクシング部の3年男子がギャラリーに言い放つ。自分の名前を呼ばれたことに、自然と僕の肩がはねあがる。そして、ギャラリーの生徒は一斉にこちらを見た。
僕は重い鉛のような足で、1歩ずつゆっくりと教室へ入っていく。
「何だ、いたのか。お前」
すると、女子2人に囲まれていた千春と呼ばれた女子が目を見開いた。
3年の6人は全員僕の方へ近寄ってくる。
「なぁ、橘芽依の居場所知らないか?」
恐怖で全身震えながらも、僕は返した。
「...し、し、知らな...い......」
「じゃあさ、橘芽依とどういう関係?仲良いの?」
最近できた妹だなんて言ったら、どうなるんだろうか。妹はきっと...僕みたいなのが兄だなんて恥ずかしくて周りに知られたくないだろう。
「...ぜ、全然...関係な...い......知らない...」
「え...さっき体育館裏に呼び出してたのに...?」
6人の後ろからのその声で、僕の精一杯の嘘は全て水の泡にされてしまった。
「体育館裏...?」
案の定、6人が反応する。もう少し頭を使って口を開いてもらいたいものだ。
「おい木部...嘘ついたのかてめぇ...」
「ひっ...」
ボクシング部の男子に胸倉を掴まれる。
「ねぇ、橘芽依の居場所は分かるの?」
3年女子が横から僕の前髪を掴み、睨み付けてくる。僕は圧に負け、思わず頷いてしまった。
こんな兄は、嫌だ。...だったはずなのに。 @p-san
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