第4話
僕らの世界は、二人だけだった。
外に出て色んな人に疎まれて、帰宅する事をただただ望んだ。
Ωを獲物か邪魔者だと認識しているαが怖かった。
匂いの本当の恐ろしさを知らないβの陰口で嫌いだった。
誰も僕らの事を解っちゃいない。
勿論、僕らだって皆の事なんか解りやしない。
早退して、ベッドに篭って眠り、目を覚ますと、何時もりゅう兄ちゃんが居た。
りゅう兄ちゃんの方が早く帰っている時もあった。
りゅう兄ちゃんは、僕を何時も優しく抱き締めてくれた。
「りゅう兄ちゃん、僕テストで一番だったよ」
「凄いな!マサは頭が良い」
「そんなこと、無くもない」
「いい子だ」
「ふふふ」
二人で布団にくるまって、内緒話みたいに話すのも好き。
優しく頭を撫でてくれるりゅう兄ちゃんの手は、大好き。
発情期が来たら、りゅう兄ちゃんの部屋に篭った。
「んぅ、ふぅ…!」
「マサ…、泣かないで、唇噛まないで…俺をみて…」
「りゅうにいちゃ…」
「うん?」
「りゅうにいちゃん…」
「…ん、く…」
熱くて欲しくて堪らなかったけど、ぼろぼろ泣きながら二人で居た。
僕は彼の目元に舌を這わせる。
ねぇ、りゅう兄ちゃん。
涙って、何だか甘いね。
僕らにはαなんて、要らない。
欲しくない。身体がどんなに望んでいても、此処に来てほしくない。
だって此処には、僕らが居る。
「……ん、んぅ、まさ…」
「……っ、あ、いっ…!」
項に歯が突き刺さる。
僕はじんわりと広がる痛みに、顔を歪めた。
項を噛めば、番の印。
離れない彼の歯に、僕は更に涙を零した。
Ω同士では番になれない。
そう言って、笑えば良い。
滑稽な事をしているって、笑えば良い。
誰かに理解されようなんて、思ってないんだから。
Ωはαと結ばれる?
其処には稀に、運命の番が存在する?
だとしても、だとしてもだよ。
運命なんか知らないよ。
「りゅう、にいちゃん」
「まさ、まさ…」
あぁ。此処だ。
僕らは笑い合って、お互いを優しく抱き締めた。
僕らの幸せは、此処にあったんだね。
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