第3話





皆みんな、敵。

でも、僕だって皆の敵だった。



学校に居る顔の綺麗な奴らは、僕を毛嫌いする。

皆αなんだろう。

αはΩに欲情してしまい、逆も然り。

それは、理性ではどうにも出来ない。だってそういう人種なんだから。

運命が、ぞっとする笑みを浮かべるんだ。


僕だって、彼等の匂いを嗅いではただただ身体を欲するだなんて。

そんなのは嫌だ。凄く怖い。

向こうも同じだ。

訳も分からず、欲望のままに行為をするなんて嫌で怖いに決まってる。


だから僕は、この仕打ちを理解し、受け入れる事にした。



「先生。お腹が痛いので早退します」



そんな毎日が増えていった。









————————————————————









ん…何か、温かい。


なに…?



「……うわっ」


「あ、起きた」



温もりを感じ目を覚ますと、目の前にはりゅう兄ちゃんが寝転んでいた。



「な、何でりゅう兄ちゃんが」


「マサ」


「…ん?」


「学校、あんま行ってないらしいな」


「…行ってるよ」


「早退ばっかしてるくせに」


「………」



りゅう兄ちゃんの言葉に、僕は目を伏せては布団をぎゅっと握り締めた。

兄ちゃんの耳にも入っちゃったんだ。僕がちゃんと学校に行ってない事。

やだ。恥ずかしい。みっともない。格好悪い。

こんな僕、格好悪い。



「…でも、ちゃんと学校に足を運ぶお前は偉いよ」


「…え?」



降って来たのは、そんな優しい言葉で。

布団の中で彼の胸に引き寄せられ、すっぽりとその場に収まる。


ぎゅっと抱き締めてくれる腕は、凄くすごく心地良い。



「偉い…?」


「うん」


「僕、偉いの?」


「偉いよ。俺なんか、しばらく引きこもっていただろうが」


「この仕打ちって…」


「うん?」


「…この仕打ちって、やっぱり酷い…?」


「………っ」


「受け入れなきゃいけないんだ。だってそう生まれちゃったんだから…仕方ない…。でも、僕…やっぱり嫌だよ…」


「…当たり前だ…」


「……っ」


「こんな仕打ち、酷いに決まってる。周りの奴らの言い分なんか、気にするな。…嫌な事は、嫌って言えよ…」


「……ふ…」



そんな腕の中で、僕は小さく泣いた。

真っ白なあのプリントを貰ってから初めて泣いたのが、その日だった。




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