第2話




その後の兄ちゃんは、ずっと黙ったきりだった。

真っ白な顔で真っ白なプリントを見詰めて。

そんなに見たって、内容は変わったりしないのに。

僕は苦笑して、兄ちゃんの手から紙を取った。



「…また来るね」


「マサ…」


「りゅう兄ちゃん」


「………」


「御飯いっぱい食べてね」



閉じたドアが何時もより重く感じたのは、何でだろう。


部屋を出る瞬間。

ちらりと肩越しに見たりゅう兄ちゃんの顔は、何だか泣きそうだった。


可笑しいな。

お揃いなのに、何でそんな顔するの?











————————————————————











「お前Ω何だろ?寄るんじゃねーよ」

「そのちっさいケツに何本咥え込んだ?気持ち良過ぎて覚えてないか?」

「不細工な顔して善がってみろよ」

「汚ぇ奴」



なるほど。


あの日から少し経って、僕は全てを理解した。

Ωの立場。周りに与える不利益。

全部ぜんぶ、りゅう兄ちゃんは解っていたんだ。



全人口のほとんどが、平凡的な容姿や能力を持つβという人種に値する。

ごく稀にαという優秀の塊の様な人種が存在し、人々は彼等に心酔する。

媚びる様な目線を送り、αを求む。

そして、そんな彼等が理性を捨ててしまう程に手を伸ばす人種がいて。


それが僕達Ωだ。



「お前帰れよ」

「もう学校来んな」

「辞めちまえ」



彼等は、僕みたいな平凡の何を怖がっているんだろう。



「酷くない?男子達」

「うちの学年でΩってマサ君だけなんでしょ?」

「そんなに少ないの?」

「私はうちの学校でって聞いたよ」

「それ絶対嘘だって」

「でも田舎だし、人数少ないから有り得そう」



後ろからは女子達のヒソヒソ話。

どうやら僕の仲間は、居ないらしい。

皆寄って来てくれない。

何で。どうして。


だなんて事はもう思わない。



「榊君が言ってたんだけどね」

「榊君ってαの」

「あれでしょ。私も聞いた」

「なになに、私知らない」

「マサ君が通り過ぎた時、すっげー良い匂いって言ったらしいよ」



僕は禄に歩く事も出来ないのか。




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