第3話




薄っぺらい背中を何度も撫でた。

泣いてほしくないと思った。

泣きたいなら泣けばいいと言う人もいるだろうけど、私は見ていられなくて。

それが自分の我儘だとしても、彼には泣いてほしくなかった。



「……せんせ」


「うん?」



溝原君の鼻声に、さっきよりも優しい声が出てしまう。



「シロはね、彼奴の猫なの」


「うん」


「でも、シロのせいで彼奴は死んだでしょ?」


「…うん」


「だからね、彼奴の家族はシロを捨てたんだ」


「…え…」



喉が、ひゅっと嫌な音をさせた。

そこまでとは、思っていなかった。

人が死ぬってそういう事なのか。猫は人を殺した。そう認識されてしまうのか。


シロは、多くの人の憎しみを背負った猫なのか。



「あの人達が捨てたシロをね、僕が拾ったんだよ」


「そっか…」



思わずほっとした。

いや、彼の最初の話しぶりからして、そうなんだろうけど。

でも、溝原君がシロを拾ったという事実に、何処かほっとした。


そういえば、彼の一人称がたまに変わるんだけど…それは何か理由があるのだろうか?

ふわふわとした彼の様子からすると、ただの気まぐれなのだろうか?



「シロはね、大嫌い」


「………」


「でもね、シロが死ぬ事は許さない」


「……え?」


「…だって、しずるが助けた命だもん」




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短い話 丹桂 @10s

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