第2話






「シロはね、人殺し」


「………」


「ないしょだよー」


「……うん」




さらりと言われた言葉に、一瞬頭が真っ白になる。

けれども溝原君が内緒話をする子どもの様に笑いながら言うもんだから、すぐさま考えを改めた。


人殺しだなんて、ある訳がない。

大体どうやって猫が人を殺すんだ。


所詮、子どもの戯言だろう。

私はそう片付けた。



「せんせー」


「うん?」


「頭撫でてー」


「良いよ」



強請られた通りに頭を撫でると、嬉しそうに目を細められた。

ツヤツヤとした黒髪。細くてサラサラともしている。


溝原君は、何だか猫みたいだ。

しなやかで気まぐれな黒猫。



「せんせー」


「うん?」


「俺ね、好きな人が居たんだ」


「うん」


「でも死んじゃった」


「………」



今日の彼は、よく喋る。

でもその内容は、全く穏やかではない。



「俺の好きな人はね、シロを庇って目の前で死んじゃったんだ」



小さく呟かれる言葉。

私は何と返事したら良いか解らなかった。



「彼奴とは幼馴染みだったんだ」


「うん」


「何時も一緒で、俺が一番彼奴と仲良かった。絶対そうだよ。俺、自信あるもん」


「うん」



泣きそうな彼の頭をゆっくりと撫でる。

すりすりと擦り寄る溝原君を見てると、どうしようもない気持ちになった。



「何であの時シロは道路に飛び出したの?何であの時トラックの運転手はギリギリまで気付かなかったの?なんで…っ」



そこ迄言うと、溝原君は言葉を詰まらせた。



「おれ、あいつと一緒に高校生になりたかった…」




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