旅の女剣士アルコ・イリスが興味を惹かれたのは、
日がな一日、城の一角から堀をみつめる美しい青年。
彼は何者かと人に問えば、「魚のぞき」だという。
先祖代々、堀の主たる怪魚を観測するのが務めなのだ。
端正な文章で綴られる長編冒険小説の一節、のよう。
美しくも風変わりな白い城の景観や呪術の存在、
アルコの大太刀が討った敵や彼女の旅の履歴など、
奥行きのある世界観がうかがえて、もっと読みたい。
城の一室から出ることのない魚のぞきの青年リュと、
まるで正反対の生き方をする旅人アルコは語り合う。
運命と自由、安定と孤高、互いに相反する2人の間に、
やがて静かな雨が降る。その幕引きがとても美しい。