第15回 九九・百ます計算

 ユズ(以下、ユ):今回のテーマは「九九(暗唱)」と「百ます計算」です。どちらも小学校低学年で行われる基礎計算訓練ですね。

 ミカン(以下、ミ):どっちも何回もやった覚えがあるよ。

 レモン(以下、レ):確かに同じ小学校算数だが、一緒に扱っていいのか。百ます計算はやってない人もたくさんいるだろうけど、九九は算数を勉強していく上で必要じゃないのか。

 ユ:一見そう思えますね。しかし、九九はあくまで簡単な掛け算の暗記方法です。考えていきましょう。



1.九九が言えなければ、算数ができない?


 ユ:ミカンさん、九九を言ってみてください。

 ミ:えーと・・・、いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん、いんしがし

 ユ:ありがとうございます。それでは、レモンさん五の段を。

 レ:わかった。・・・ごいちがご、ごにじゅう、ごさんじゅうご

 ユ:ありがとうございます。

 ミ:やったのはずいぶん昔だけど、意外と覚えているものだね。

 レ:何回も言わされて頭に染み付いているからな。


 ユ:なんだか久しぶりに「九九」使った気がしません?

 ミ:確かに。

 レ:そういわれると、普段かけ算する時に、3×5をいちいち「ごさんじゅうご」なんてもう唱えてないな。


 ユ:確かに、1ケタの掛け算は算数をしていく上で必要でしょう。しかし、必ずしも九九を暗唱できる必要はありません。

 レ:暗唱できなくても、計算できればいいからな。


 ミ:でも、私たちは小学生の頃から何回も計算しているから「九九」言わなくても1ケタの掛け算できるけど、最初は難しいんじゃないの?

 ユ:もちろん、「6×8・・・、ろくはしじゅうはち、48だ!」と手がかりになる人もいるでしょう。しかし、すべての人がそうではありません。

 レ:人によっては、「いんいちがいち」という文字面を覚える方が、数字で直接覚えるより難しい人もいるだろうな。

 ユ:例えば、こんな石を思い浮かべた方が楽な子もいるでしょうね。


 6×8

 ○○○○○○ ○○○○○○

 ○○○○○○ ○○○○○○

 ○○○○○○ ○○○○○○

 ○○○○○○ ○○○○○○


 ユ:一見「6+6+6+6+6+6+6+6」で遅いように思えますが、あの石の並びをみてもそんな足し算考えずに一瞬で48だと分かる子もいるわけです。

 ミ:色んな覚え方があるよね。四角い九九の表が覚えやすい子もいるだろうし、「十角形盤」なるものもあるみたいだよ。私にはよくわからないけど・・・。

 ユ:当然、ある人にわかりやすくとも、人によってはわかりずらいものもあります。算数の世界は特に考え方の得意苦手が分かれるものです。

 レ:大事なことは結果として計算できることだからな。文章を暗記するのが苦手で算数ができないとみなされても、本末転倒だ。

 ユ:算数は出来るけど暗唱は苦手って子なら、なんとか九九をクリアするために「6×8は48、だから ろくはしじゅうはち だ」なんて逆の思考をすることもあるでしょうね。

 ミ:人それぞれ苦手な考え方、得意な考え方がある、ということだね。

 ユ:暗唱させてみることは悪い事じゃありませんが、ダメなら別のアプローチを試すことは大切でしょうね。

 レ:いろんな考え方を試すことで、それぞれにあったやり方をみつけることができるからな。

 ミ:最初は自分が何が得意かなんてわからないもんね。



2.百ます計算は速記対決!?

 

 ユ:百ます計算とは、縦10×横10マスの計100マスに、左と上の数字を交差するところにたし算やかけ算など決められた計算をする、つまり簡単な計算を100回します。

 レ:文章で説明するの難しいな…。

 ミ:学校でやったことある人も少なからずいると思うね。

 ユ:小学校低学年だけでなく高学年でも結構行われることがあります。

 ミ:計算力トレーニングってことかな。


 レ:でも、これ正解か間違いかは二の次というか全問正解が前提で、「速さ」で能力の高さが決められる。

 ミ:単純計算を反射的にできるようにさせるってことだね。

 レ:そうなんだが、そのうち頭では計算出来ていても書く速さが追いつかなくなる。よって、書くのがうまい人がよいタイムを出す。

 ミ:あー。

 ユ:さらに、毎日タイムを競わせたりしますからね。

 レ:ただの速記バトルで、書き損じたり、鉛筆の芯が折れたらお終いのサバイバルレースになる。そうなると、もはや算数の領域ではない。

 ミ:なんかそのレベルに達するとやる必要性を感じないね。

 レ:実感としてわりとすぐそんな感じになる。


 ユ:タイムアタックのさらなる問題は、「速ければいい」もっというと「算数の力=速さ」という誤解すら生みかねないということです。単純処理能力は個人差がありますから、訓練しても遅い人は遅いものです。しかし、その人は文章題から式を立てることはできるかもしれません。

 ミ:計算が遅いだけで「算数出来ない」って思ってしまうのはもったいないね。

 レ:式が立てられるなら計算自体は電卓やコンピュータがやって構わないからな。本当は困ることはない。


 ユ:こう考えると「単純計算を反射的にできるように」ならないといけないのか、という疑問もでてきますよね。

 ミ:そこには「単純計算は一番簡単だ」という誤解があるんだろうね。だから、みんなできて当然だと、「単純計算すらできない人に、算数の他のことはできない」だと思う。「でも、実際は、ある人にとっては単純計算は式を立てるより難しいこともある。

 ユ:「12×4=48」ができるようになるより「1箱12本のえんぴつが4箱あります。えんぴつは何本ありますか。」から「12×4」を立式する方が簡単な人もいるわけです。

 レ:難しさのベクトル、つまり難しさの種類が違うんだな。



3.おわりに


 ユ:簡単な計算の必要性を否定するわけではありませんが、ある子にとってはわかりきったことを何回もやって速さも頭打ちでつまらない、ある子にとってはいつまでもうまくいかず算数が嫌いになる、これらの可能性は考えないといけないでしょうね。

 ミ:九九の暗唱も百ます計算もうまくできず人より遅い=算数・数学ができない、ということは全くない!

 レ:小学生の時に苦手でも、そのうち普通にできるようになるってこともあるからな。できないことをゴリ押ししても嫌いになるだけ、それより苦手なアプローチと得意なアプローチを見つけていって、できることをできるやり方でやっていった方がいいな。


 ユ:それでは、ここまでお付き合いありがとうございました。

 レ:次もぜひご覧ください。

 ミ:またね!

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