第10回 将来の夢
ユズ(以下、ユ):今回のテーマは「将来の夢」です。夢を持つことの大切さってやたらと強調されますよね。
ミカン(以下、ミ):学校でも、学校以外でも、子どもは、若者は夢を持てってよく言われるよね。
レモン(以下、レ):むしろ脅迫的なまでに夢を持つことを強いられているような気もするな。
ユ:果たして「夢は持たなければならない」のか、疑問に思うこともあって当然でしょう。
ミ:物心ついた時から自然と「夢」って言葉は使われるけど、実はあまり「夢」って何かって考えたことないかも。
ユ:夢については「夢を持てなくしている社会が悪い」とか色々語られます。しかし、そこにも夢を持つべきだという前提があります。今回は、そもそも「夢を持たなければならないのか」考えていきたいと思います。
1.「夢」って何だ?
ユ:学校で「将来の夢」、言ったり書いたりする場面結構あったと思います。
ミ:新学年はじまった時とか、卒業とか終わりの時とか、節目節目であったね。
レ:周りが色々言う中で、「夢はない」っていうのすごい嫌だった。
ミ:何かあって当然みたいな雰囲気あるからね。
レ:ないものはない。・・・って小さい頃はきっぱりとは言えなかったからな。ところがな、小学校高学年とかそのくらいになってくると、周りも「ない」が増えてくるんだ。それにこっちも少し賢くなってな、「ない」じゃなくて「決まってない」って言い出す。すると、夢を探し求めて日々頑張っているって格好がつく。
ミ:なるほど。
ユ:言い方ひとつで印象は変わりますね。
ユ:そもそも夢ってどういう意味でしょうね。他の言葉で言い換えるとどうなりますか。
ミ:うーん、願いとか、望みとか、目標、かな?
レ:自分の行動じゃなくても「世界から争いがなくなってほしい」とかも夢っていえるか。
ユ:そうですね。ですが、おそらく将来の夢には「自分の」っていう前提があるでしょうから、今回は能動的な夢として考えていきましょう。
レ:「フィギュアスケーターになりたい」も「オリンピックで金メダル」も夢だけど、「猫に囲まれて暮らしたい」とか「世界中のケーキを食べて回りたい」もだな。
ミ:今実現してたらそれは将来の夢とはいえないよね。自分のしたいこと、だけど今はできないことが「夢」なのかな。
レ:そうだな。まあ、現状維持は「未来に今の状態があって欲しい」ってことで、未来はどうなるかわからないからそれも夢になるな。「このままゲームができる毎日をこの先も過ごしたい」みたいな。
ユ:現状を維持していくことは意外と難しいですからね。
2.将来の夢とは
レ:でも「夢」とか「将来の夢」っていうと、現実には、特に小さい時は大体職業を言うよな。・・・それなりに年齢を重ねたら理想とか行動目標を語っても格好がつくけど。
ミ:確かに。小学生で「歌手」はいても、「世界中の人たちに自分の音楽を届けたい」と書くかといえば、文集の方には書くことはあっても、将来の夢の欄には文じゃなくて単語が書かれることが多い気がする。
ユ:「歌手」だけじゃないですからね。歌わなくても、作曲でも楽器でも音楽を届ける手段は沢山ありますし、どれか1つに絞らないといけないわけではないですからね。
ミ:小さい頃は、単純に言語力的に単語レベルじゃないと表現できないからと、そんな複雑に考えてないだけかもな。
ユ:実現可能性がなくても言うことは簡単ですからね。
ミ:まあ、単純に好きって思えたものになりたいって思うことはいいんじゃないかな。私も「パティシエ」「運転手」「先生」「おみせやさん」、いろんなことを言った気がするよ。
レ:「おみせ」って広すぎるだろう・・・。雑貨屋か?
ミ:そりゃ細かいことは考えてないよ。
ユ:でも、広く接客業または商業に関心があるって捉えることもできるかもしれませんね。仕入とか裏の作業というより、単純に「いらっしゃいませ」とかするのが好きで「おみせ」、単に現実味のない空想上のものではなく、現実の事象から引き出されたものの可能性は十分あります。
ミ:なるほど。
ユ:まあ、関心はすぐ変わることが多いですから、そこまで考えることもないかもしれません。興味はすぐ消えてすぐ現れての繰り返しでいいんです。
ユ:逆に、関心を職業に結びつけることを強制してもよくないでしょう。
ミ:野球が好きだから=野球選手なわけじゃないよね。好きなものはいっぱいあるだろうし、さすがに安直。
ユ:1つエピソードを紹介しましょう。小2の男の子は、幼稚園からずっと将来の夢に「やきゅうせんしゅ」と書いてきました。でも、小学校に入ってサッカーに興味がでました。でも、将来の夢には何か書かないと。彼は、将来の夢に「やきゅうせんしゅ」、好きなスポーツの欄に「サッカー」と書きました。自分でも変だと思いながら、でも何か書かないとと思い書きました。それを見たクラスの人たちにすごいバカにされたそうです。
ミ:う~ん。別に職業と好きなことは一致しなくてもいいから矛盾じゃないんだけど、本人も将来の夢の欄を無理矢理埋めているから、そこを突っ込まれるとつらい。
レ:「将来の夢」という欄が書けないと、何も意欲なし関心なしみたいに捉えられて、悪いことみたいな感じはある気がする。
3.夢を育む場としての学校
レ:夢を持つことはいいことです。ですが、夢を持たないことは悪いことではありません。
ミ:多分、学校の場で大切なのは、「夢を持つこと」じゃなくて「他人の夢を尊重すること」なんだと思うな。
レ:「夢を持て」とゴリ押しされると、夢なしの人はすごい劣等感をもつ。すると、夢自体や夢を持ってる人を「どうせ自分とは違う世界だ」「なんだあいつら」って拒絶するようになる。
ユ:そうして考えることをやめてしまうと、自分の可能性を狭めますからね。気持ちもすさみます。
レ:そして、他人の夢をバカにして一蹴することで、他人の可能性を閉ざすこともある。
ミ:他人の夢を応援、とまではいかなくても、他人の夢をバカにしないってことが広まれば、自分の将来の夢がバカにされたり拒絶されたりして自分を可能性を閉じてしまう人が減っていくと思うな。
レ:夢を育みたいなら、夢を与えるんじゃなくて夢を潰すなってとこか。
4.将来設計としての「夢」
ユ:確かに「夢」は極端に美化されてゴリ押しされてますが、学校でのゴリ押しは現実的な側面からなされている面もあります。
ミ:というと?
ユ:将来の夢には、自分のやりたいこと(自己実現)の面と、どうやって社会で生きていくか(社会生活の見通し)という面があります。
レ:後者は何をしてお金を得て社会で生きていくんだってことだな。「~したい」だけでは生きていけない。
ユ:そうですね。キャリア教育って言われたりします。
ミ:何をしてお金を得て社会で生きていくか、が「職業」ということになるんだね。
レ:まあ、考えないといけないことだな・・・。
ユ:そうですね。年齢が上がるにつれ現実問題として考えていかなければいけません。
レ:しかし・・・、現実的な生き方と、「~したい」を一緒の言葉にしていいのか?
ミ:確かに、幼稚園児の夢と、どう生きていくかっていう「戦略」とは違う次元だよね。
レ:ごちゃ混ぜにしてしまうと、「戦略」がなくて「~したい」だけ言ってても、将来のこと考えているっぽくなるわけだな。
ユ:わかりやすい例をあげましょう。将来の夢を「公務員」といった時に、「安定しているから」っていうのは生きていく戦略ですよね。一方で「地域の人々に貢献したい」という人もいるわけで、これは願望の方です。両者は同じ将来の夢「公務員」でも大きく違うと思いませんか。
ミ:安定させるという戦略を取る上には、「旅したい」とか「~したい」があるわけだね。この場合「~したい」をするためにもっと有効な戦略があれば「公務員」はそんなに重要じゃなくて、ほかに安定した仕事があればそれでもいい。
ユ:もちろん「~したい」ことを職業にすることも、「~したい」ことをする上での戦略の1つではありますけどね。
レ:ただ、現実としていくつも計画は持っておかないと、好きなことだけで生きていけるのは一握りの人だろう。スポーツだけで食べていける人がどれだけ希少か見ればわかるように。
ユ:まさに一人一人「戦略」が問われてきます。そこで体力・知力・技術いくつもの「武器」を持っていれば戦略の幅は広がるわけですね。
ミ:…勉強しようぜってこと?
ユ:それもありますが、それだけじゃなくて色々しようぜってことです。
5.関心を実践へ・技術へ
ユ:さて、「~したい」を職業にする気があるしてもないにしても、する力がなければ出来ません。特に、何かを作る力は経験なくしては身に付きません。
レ:楽器引けたり絵かけたら楽しいだろうなと思ったりはするな。
ミ:今からでも遅くないよ。
ユ:そうですね、可能です。でも、遅い。「もっと早くやっておけばよかった」これは多くの人が痛感していることではないでしょうか。現実として、今からミカンさんのバイオリンを持って、レモンさんがオーケストラに参加できますか。
ミ:うっ・・・やっぱり練習してもらわないと。
レ:「もっと早くやっておけばよかった」、そういうこと山ほどあるな。
ユ:大人はもうあきらめなさい、と言いたいのではありません。興味関心を持った時、それを行動に移して経験にすることが大切であり、子どもにそれを促すことが大切だということです。
レ:飽きたらまあそれはそれで経験だし、続いたらそれなりの技術を習得できるかもな。
ミ:生きる戦略と同じく、「~したい」願望の実現にも技術など「武器」が重要なわけだね。
6.まとめ
ユ:まとめると、将来の夢って言葉でまとめてしまうと深く考えないから、自分が「~したい」こととそれをするためにどう生きるか(かせぐか)を分けて、両方を考えようってとこですかね。
ミ:そして、少しでも「~したい」ことを見つけたら行動してみる、作ってみる。そうして「~したい」こととそれを実現する「武器」を育てていくんだね。
レ:「~したいこと」は尊重されないといけない。どんな小さなことでもよくて、その価値の大きさを他人がとやかく言うことではない。
ユ:…まあ、ここでは将来の夢という言葉自体を否定的に捉えてますが、現実的にはなかなか無くならないでしょう。ですが、この1点は強調させてください。
レ:夢がないことを認めろ。そして、他人の夢をつぶすな。
ユ:それでは、ここまでお付き合いありがとうございました。
レ:次回もぜひご覧ください。
ミ:またね!
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