番外編Ⅰ第3話「晴れ舞台に向けて」

白矢は、改めてトマサホの破損状況の確認と整備期間の算出を行う。そして上司である田辺の元へ出向き、作成した書類を提出する。


「期間的には可能だと考えます。予算に関しても、リゾート特急新造よりも安くつくと考えています」


「だが、白矢君。修復の予算が新造よりも安いとは言え、ランニングコストを考えていくと安く済むとは言えないのでは?」


田辺は予想通りの反応を返してきた。


「ですが、このまま新造の件で國鉄と揉め続けて國鉄の車両を長期にわたって借り続けて運行するよりは、トマサホを修繕してしまい自社での運行を再開した方が中長期的には安上がりかと」


「それは、確かにそうだが……」


田辺は上層部の揉め事という急所を突かれ、そのまま渋々了承することとなった。廃車の手続きの撤回も、田辺が掛け合うことになる。斯くしてトマサホの廃車は撤回され、解体線から工場の方へと移動させられた。


「ここからが勝負だ」


白矢には大きく破損した窓ガラスの修理と、車体の板金が振り分けられた。白矢の班とは別に制御系統の修理を任せられた職員は、あまりの惨状に卒倒しかけたという。修復途中のある夜、業務を終えた車掌の大野が工場にやってきた。


「白矢君、毎日ご苦労様です」


「お、大野車掌、今日はどうされたんですか?」


「いや、僕もあの事件の日は砂川駅まで乗務していたからね。トマサホがどうなったのか気になっていたんだよ。白矢君は入れ替わりで砂川駅からトイレ設備の修理に乗っていたんだよね」


「あの日は大野さんが乗務されていたんでしたね。まさか乗務終了後にあのような事件にトマサホが巻き込まれるとは思わなかったでしょう」


「本当に驚いたよ、また僕もこの車両に乗務したい。是非、トマサホを綺麗な姿によみがえらせてくれないかな」


大野車掌はそう言うと前面の曲面を撫でた。


「もちろんです、絶対に直します」


白矢はより一層決意を固め、「トマムサホロエクスプレス」の修理に力を込めた。


日夜、通常業務の合間に作業が行われ、トマサホは元通りの美しい車体を取り戻すことに成功した。突然、仕事を増やされたことに不満を抱いていた職員も少なからず居た。しかし長年扱ってきた車両、次第に不満を言う者も減り、現場での愛され方を証明した形ともなった。


「白矢君、ご苦労様だった。君が率先してトマサホを救おうと努力した結果、トマサホには再び命が吹き込まれたようだね。今回のプロジェクトのリーダーは君だ。よって無限軌道国際会議への出展に、君にも同行して貰いたい」


社長の久北から直々に労いの言葉を頂き、それだけでなく白矢は国際会議への同行を命じられた。廃車が決まっていたトマサホに晴れ舞台を用意することの出来た白矢、彼にとって自らが率先して行ったプロジェクトは今回が初めてだった。そして白矢が無限軌道国際会議の行われる東京へ向かうのは、また別のお話・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砂川鉄道物語 久北嘉一朗 @sunagawarailway

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ