デーモニックブレス短編集
パンプキンヘッド
彼女の事情
黒くそびえるビル群が落とす影の中を、それは白い姿を激しく揺らしながら、奥へ、奥へと走っていく。
亜麻色の髪を振り乱し、息も絶え絶えに、その整った容貌からは恐怖というよどみを滲ませながら。
白い姿はこのものがまとう服の色だ。丈が長く、やや厚手のその服をまとうに相応しい晩秋の中、そのものは必死になって走っている。ただ前へ、前へ、と。
時折、後を振り返る。
『まだいる……!』
その恐怖だけが、そのものの足をひたすら進ませる。
息が上がる。心臓が弾けるように踊る。
『でもここで止まったら……』
その恐怖だけが急がせる。ただ後から迫る影を恐れ。
だがしばらく走ると、ふと周囲の様子がおかしいことに気づく。何かが……変だ……
『ここ、前も通った……』
その違和感がそのものの足を止めた。
次の瞬間、そのものに白い影が舞い降り、そして押し倒す。滾る欲望に満ちた深紅の瞳と声にならない絶叫!
そして、すべては闇に包まれ、消えた……
Ber『カーマ』
Y市の繁華街の片隅にひっそりと建つ、十年前に開業したバーだ。明度が抑えられた間接照明とこ洒落た内装、ジャズ系の音楽を中心としたBGMに、定期的に開催される生演奏。そしてオーナーにしてマスターの提供するカクテルを楽しみにする常連客を、すでに幾人も獲得しており、その経営は順調ともいえる。この界隈でもすでに中堅ともいえる地位を獲得している店だ。
時折お手伝いで女の子を雇うこともあるが、大きさが十坪しかないバーなので、オーナーであるマスター一人で切り盛りしていることも珍しくない。
今その店には一人の人物が、カウンター奥で手慣れた手つきで開店作業をしていた。手にしたグラスを指定位置に置き、そして色々なものの在庫確認を行っている。
右分けにした亜麻色のショートボブに、袖口が大きく開いたワインレッドのプルオーバー、藍色のタックパンツに大きめの緋色の石をはめこんだネックレス。
だが特筆すべきはその180cmに届きそうなスリムな長身と、彫りの深い繊細にして美しい容貌だ。白人を思わせる美貌に薄い紅を唇にまとうアラフォーの美女。
狩部玲(かりぶ れい)。
彼女を一目見たものは、その美しさに心を奪われるものも少なくない。だが多くのものは失意とともに去る。
そう、ただ一つのある要素のせいで……
カランコロン……
軽い鳴子の音と共に店の扉が開く。
「あら、いらっしゃ~い」
野太い、いや、どちらかというと非常に男らしい、渋い声が店内に響き渡る。
そう、この声の持ち主こそ、狩部玲その人であった。
彼女は……その……アレなのだ。
店に入ってきた白髪混じりで銀縁眼鏡をかけた黒スーツ姿の真面目そうな男が、ふと違和感を感じたのか顔をしかめるが、カウンター席に座るなりニヤリと笑い、
「ああ、きちまったよ」
そういって挨拶をする。だが玲は、
「……誰も呼んでないわよ」
そういって男から背を向けて、再び作業をはじめる。
「そういうなよ、俺たちの仲だろ?」
「どういった仲よ?」
「だからぁ、そんな仲だよ」
「私はあんたとそんな仲になった覚えないけど」
「玲、お前どんなの想像してんだよ?」
「あんなのよ」
玲の一言に男は不味いものでも食べたかのよう顔をしかめる。そして聞こえよがしに一息吐き、
「俺とお前がいつそんな仲になったのかは知らんが、少なくとも俺はノンケだし、お前はいい仕事仲間だと思っているよ」
「元、仕事仲間、でしょ」
男の言葉に玲がピシャリと釘を刺す。
「いや、まぁ、そうだが、まぁ、俺の話を聞け」
男が低い声でそう言葉を吐き出す中、玲がクルリと男の方に振り返り、一つのカクテルを差し出す。
青みを帯びたジンベースのそれは、グラスにレモンを添えられ、周囲の照明に照らされ、美しい色彩に輝く。
ブルームーン。
「青い月」の名を持つカクテルは、「完全な愛」、「叶わぬ恋」という言葉を持つが、もう一つの意味もある。
「できない相談」。
そのカクテルを目の当たりにし、男は渋面を一瞬作るが、すぐに冷静さを取り戻し、
「お前が現場仕事にうんざりしているのはわかるが、この資料を見るくらいは見てもいいだろ」
そういって隣のイスにおいてあるカバンから、A4サイズの茶封筒を取り出し、その中身をカウンターに広げた。
「こいつを見れば、わかるか?」
それは一枚の写真だ。
その写真には一人の妙齢の女性が写されている。
だがベッドに横たわるその顔からは生気が失せ、見ようによっては生きているのかすら怪しい。
「これ、生きてるの?」
玲が神妙な面持ちで思いを声にする。
「生きてはいる。だがすっかり生気、というか生命力が薄れてな」
男の言葉に玲が眉根を寄せ腕組みをする。
「まだ何枚かある」
男がそう言い他の写真を見せる。
そのどれもが女性を写したものだが、皆生気がない。
「あとな、これは極秘にしておいてほしいものなんだが……」
そこで男は言葉を切り、玲の様子を見る。
玲はその真意を悟り、
「いいわよ……こんなの見せられて、まだ断るほど野暮じゃないから」
そうため息混じりに応える。男はニヤリと笑い、
「助かる」
そういってさらに封筒から一枚の写真を取り出した。
そこにはどう見ても何らかの犯罪の現場を写したとしか思えない光景が映し出されていた。
被写体は白いコートをまとった十代後半の女性だ。
髪は亜麻色だが、髪を振り乱し倒れているその顔からは血の気が失せ、生気が感じられない。
そしてその首筋からは、二つの血の筋が流れた跡がくっきりと残っていた。
「これは……やっぱり?」
玲の言葉に男は小さく首肯し、
「ああ、魔物だろう。特定できないが、吸血タイプのな」
そして男は玲の瞳を覗きこみ、
「だからお前に頼みたい」
ゆっくりと自分の想いを言葉にした。
玲は再び男に背を向けると作業をはじめ、
「でも若い子たちだっているでしょ。あの、ローズちゃんだったっけ? あの子でもいいじゃない」
だが男は首を少し曲げ、そして言い難そうに、
「あいつらも悪くはないが、経験が足りない。非常事態に対しての心構え、というか、経験が足りてない。最悪、ミイラ取りがミイラになりかねない」
その言葉に玲はフッと笑い、
「指導者が悪いからよ」
それを聞いた男の顔が一瞬歪み、そして意地の悪そうな笑みを浮かべ、
「いい女に逃げられちまうような奴だからかな?」
男の声に玲が声を殺して肩で笑う。その様子に男も口元に笑みを浮かべ、
「受けてくれるな」
その言葉に一つのカクテルが差し出される。
ブラッディメアリー。
言葉は「断固として勝つ」だ。
店が終わったその夜、玲は一つの箱をクローゼットの奥から取り出した。
「もう使うこともないと思ってたんだけどねぇ……」
そう独り言ちながら、直径3cm、長さ20cmほどの銀色に輝く筒状のものを手にする。
その筒状のものの表面には奇怪な文様が幾つも刻まれており、一種の魔術道具の様相を呈している。
「私が訓練中から使ってたものだもんねぇ……あんたとも長い仲だわよねぇ……」
そういって大事そうに床に置いた。
ふと、箱に入っている何かに目がいく。
それは写真立てに入った写真だ。
そこには玲も映っている。だが今よりも若く、そしてまだ妖艶さがなく初々しさがある、そんな昔の姿だ。
その横に一人の少女がいた。
身長はそれほどないが、均整のとれたプロポーションと、美人ではないが愛嬌のある可愛らしい少女。
その姿を見て、玲の顔がかすかに歪む。
しばしその写真を見つめ、玲は重々しく言葉を吐いた。
「もうあんたみたいな子を作らせはしないから……」
天頂に下弦の月が上る雲一つない夜、それはただかすかな星明かりと月の光のみを頼りに黒く広がる荒涼とした空の中を泳いでいた。
羽はあるが羽音すらしないその翼は、大気に乗って空を飛んでいるのではなく、魔力を放射しながら漆黒の中を飛翔していた。
その白い肌は死人を思わせ、深紅の瞳はまるで鮮やかな血の色さえも連想させる。
口元から覗く牙は乾き、瞳は獲物を物色するために絶えず周囲を見回すために動き回る。
それは知っていた。
自分が今何を求め、そして、それが近くにきていることを。
その気配を感じ、それは眼下に目をやる。
いた!
それからは人間の女特有の魂の波動を感じる。男の穢れを知らない純粋な魂。
それが求め、そして自らの力ともしている獲物の匂い。
それは獲物に狙いを定める。
獲物は今まさに、細い小路へと向かうところだった。
獲物の後を追尾しながら、それは音もなく虚空を飛ぶ。
獲物は、まったくそれに気づいていない。それは気配でわかる。
気づかれていれば魂の動揺を感じるはずだ。そのような動きはみられない。
獲物が細い小路に入る。それは高度を下げ、徐々に近づく。
獲物を子細に観察する。
髪の色はよく見えないが黒ではなく、そして短い。
服は茶色の服をまとっている。腰まであるだろうか?
下半身は緑のスカートだろう。膝下まであるものだ。
体つきは細い。だが……やや大きいか……
しかしその華奢な体つきならばいともたやすく力づくで襲えるだろう。所詮人間に魔物と戦うことなどできはしない。
それはほくそ笑む。そして舌なめずりをし、一気に獲物との距離をつめる。
獲物の動きに変化が起きる。不意に振り向き、そして急いで逃げはじめる。気づかれた!
だが振り向き様に見た顔は美しい。上玉だ!
獲物はヒールを履いているのか逃げ足がおぼつかない。
それは徐々にスピードを上げ、高度を下ろしながら獲物に近づく。嗜虐的に追いつめ、そして仕留める!
そして獲物が転ぶ!
必死に起き上がろうとするが、思うように起き上がれない。
それは急接近し、獲物の首に手をかける!
そのまま壁に叩きつけ、吊るし上げる!
「……た、助けて……」
獲物がしわがれた力ない声を上げる。瞳には恐怖が映り、その彫りの深い美しい顔が絶望に歪む!
それは喜びの声を上げる! 高く、耳障りな鳥のような鳴き声! その声は周囲にこだまし、
……そしてすぐに消え失せた。
『?』
それは不思議に思う。なぜ音が響かない?
「……と、言うと思ったか?」
獲物が渋い男の声でそう告げたと思った瞬間、それは強烈な一撃を腹にまともに受け、後方に吹き飛ばれた。
そこには獲物が、足を突き出した姿勢で立っていた。
「吸血タイプだからニャンプの類だと思ったけど、鶏ガラ野郎のガラドリスだったか」
獲物が手に持ったポーチから何かを取り出し、そう独り言ちる。手には、長さ20cm位の銀色の棒が握られていた。
それ……その外見は人間よりも一回り大きな鳥の骨格そのままの姿ともいえるガラドリスは、その顔に二つ開いた黒々とした双眸から覗く深紅の瞳で獲物を見据える。
180cmにも届こうというスリムな身長と、そして白人を思わせる彫りの深い美貌。先程と獲物の外見は変わらないはずだ。
だが今ガラドリスが感じている魂は別のものだ。
先程の乙女の魂ではなく、有り余る魔力によって自分を圧倒するものの魂。
それをガラドリスは知っていた。
そのものたちの名はデーモンハンター。彼ら魔物を狩る人間たちが生み出した対魔物用の戦士たち。
「あら、不思議と思っているの?」
デーモンハンターが言葉を漏らす。
ガラドリスは立ち上がり一歩退く。
「あなたの感じていた魂、それはここにあるわ」
デーモンハンターは首にしているネックレスを指さす。
その大きな緋色の石をはめられたネックレスに目をやると先程の乙女の波動を感じる。
しかしなぜデーモンハンターの魂を感じなかった?
「デーモンハンターは気配を消す訓練を受けてるわ。それは音や姿から、魂の波動までもね」
デーモンハンターがガラドリスの心を読んだようなセリフを話す。ガラドリスがまた一歩下がる。
「この子ね……」
そういってデーモンハンターがネックレスに手をやる。
「魔物によってその姿を変えられ、怪物となってしまったの」
デーモンハンターが静かに近寄る。ガラドリスはその魂の波動に圧され、また一歩、後へと下がる。
「そして、彼女を倒したのは私……最初に退治した魔物……」
デーモンハンターの手に握られた棒が光る。
「でも魂だけは回収できた。だからここに封じた」
握られた棒の光が強くなり、周囲が冷えはじめる。
「だから……もう二度と……」
その言葉と共にデーモンハンターが腕を振り上げる!
ガラドリスは危険を察知し、一気に飛び上がる!
すると先程ガラドリスのいた場所を青く輝く光の帯が、輝く粒子をまき散らしながら通過した!
周囲が一気に冷えはじめる!
ガラドリスは周りを見回す。すると周囲の色彩の変化に気がつく。
碧い光に満たされている。暗く影でしかなかった場所ですら碧く輝いている!?
「これは碧力結界。この結界からは逃れることができないし、ここで起きた音も光も臭いも、あらゆる出来事も外に漏れることはない。つまりは、私たちの掌の中」
デーモンハンターがガラドリスを見上げながら話す。その姿には余裕すら感じさせた。
「だから逃げたいのなら、私を倒しなさい。この結界は、術者の意識が消えれば解けるから」
ニヤリと口元を歪めそう挑発のセリフを吐く。
ガラドリスは瞬時に高度を上げる。高度を上げ、そして急降下によって一撃で仕留めてやる!
ガラドリスの体が碧く輝く月に影を作ったと思った瞬間、すさまじい突風と圧力が周囲を圧する!
急降下に伴う衝撃波が、周囲で吹き荒れ、置かれているものを吹き飛ばす!
だがデーモンハンターは逃げない。その場でただ立ち尽くし、急降下に対処できない!
『見かけ倒し?』
ガラドリスが心の中で蔑みの笑みを浮かべる。所詮人間風情が!
そして激しい衝撃と共に獲物を捕らえ、大地へと激突させる!
確かに手応えはある。足の爪は、確かに獲物を捕らえた!
だが……
その足が捕らえていたものは氷の塊だった。人間大の氷の塊が、ガラドリスの足を覆う形で絡みついている。
『?』
ガラドリスは首をひねるが、後から声が飛ぶ。
「私の専門は氷結魔術。あなたの動きを封じるために、私の影を映した氷像を狙わせた」
だがその言葉にガラドリスは、身動きができる上半身で応える!
周囲に骨でできた薄く、だが鋭い羽をまき散らす!
上手くこいつに当たれば、デーモンハンターとて無傷ではすまない!
「往生際の悪い……」
その一言と共にデーモンハンターが手に握る棒を振う。
すると棒から生み出された氷でできた鞭が襲いかかる羽をすべて打ち壊す!
ガラドリスは驚愕する! 人間風情が!
だがデーモンハンターの行動はそれだけではすまなかった。
デーモンハンターは鞭状の氷でガラドリスの体を激しく打ち据える! そのたびに骨でできた体のあちらこちらにヒビが入り、そして弾け飛ぶ!
そして氷の鞭は体を傷つけるばかりではなく、その粒子をガラドリスの体へと刻みこみ、徐々に体の動きを封じていく。
やがて、ガラドリスの全身は氷に絡まれ身動き一つできない姿へと変り果てる。氷のオブジェと化して。
氷に絡まれ動けないガラドリスは恐怖を覚える。今ここを襲われたら……
「あなた、召喚士は誰? まさか召喚したものもなく、現世に来れるとも思えないけど」
デーモンハンターが後から声をかける。その距離は近く、そこから攻撃されたらひとたまりもない。
「応えて。そのものは誰?」
その静かだが有無を言わせない声に、ガラドリスの頭は混乱の極みに達する。ここで召喚士の名前を言うのはたやすい。だが、もしこのことが召喚士に知られれば、自分の命は……!
「応えて!」
さらなる声が響く。ガラドリスが堪えきれなくなり、その名を口にしようとした瞬間!
「!?」
ガラドリスを中心に魔法陣が発生したかと思った刹那、唐突にデーモンハンターの前からガラドリスは消えた。
デーモンハンターはとっさに周囲を見回す。
『碧力結界が解除されてる!?』
その事態の異変を感じ、周りの気配を探る!
「あそこ?」
デーモンハンターが細い小路の先に見えるビルとビルの影に目を走らせる。
だが、そこから一瞬高い魔力を感じたと思ったが、すぐにそれは消え、そして気配すら感じられなくなった。
「瞬間転移……碧力結界を解除したり、瞬間的に魔物を退魔したり……A級召喚士か……」
デーモンハンターはその場を確認する。
確かに魔力の残滓はあるものの、決定的な証拠とはなりえなかった。
ただ、ガラドリスの退魔に使ったであろう小さな骨のかけらが、そこには幾つか散乱していた……
「この事件、ただの魔物による吸血鬼騒動で終わらないかも……A級召喚士がやることにしてはチャチすぎるし、それに目的が全く見えない……」
すでに天頂から降りようとしている月の光の下、デーモンハンターは深いため息とともに、周囲を一瞥した。
そこにはすでに魔物の気配はなく、日常の音と光が溢れていた。
事件が解決したのか? それはわからなかった……
「お前が言っていたやつな、あれだが……」
事件があった数日後の夕方、Ber『カーマ』の開店前の時間に、一人の客が訪れていた。
白髪交じりの頭に銀縁眼鏡の真面目そうな黒スーツの男は、腕を組んでカウンター越しに佇む玲に、静かな口調で話しはじめた。
「どうにも途中から調査が進めにくくなってな。いや、A級召喚士なんてそう多くないんだから、目星をつけようと思えばできる。できるにはできるんだが……」
ここで男は言葉を飲む。言い難そうな気配がそこからはひしひしと感じられた。
「続けて」
玲が先を促す。男は一息吐くと、
「政府の、一部の連中が召喚士たちを集めているという噂があってな。何が目的かは現時点では不明だが、その中に目星がついている召喚士が含まれている」
「政府?」
玲が怪訝な表情で問いただす。男は考えこみ、
「一部の、だがな。何が目的かはわからんが、召喚士や魔物を政府がどう使うか、それが気になる」
「まさかお金欲しさに錬金術を魔物から教えてもらおう、なんて?」
玲が茶化した口調で話すが、男は真面目に、
「ならいいが、魔物は使い方によっては下手な兵器を上回る。様々な魔術を駆使し、天候や運命を操作し、姿を消し、空を飛び海を泳ぎ地に潜り高速で走る。こんなものを政府が何の目的で使うかはわからん」
男の言葉に玲も沈黙で応える。しばらくすると男は、
「だから、こんな時期だから、お前の現場復帰をだな」
そういって鞄から一枚の書類を取り出す。
「復職願い届?」
「ああ。現場は確かに若い力がいるが、ベテランが不足している。現場指揮ばかりか後進の教育のためにも、お前が必要なんだ。受けてくれるな」
「ふふ……やっぱりこうなるのね……いいわ」
狩部玲。氷結魔術を得意とするデーモンハンター。
幾多の戦歴を持つ彼女のコードネーム。それは……
カルバンダイン。
彼女の事情(END)
デーモニックブレス短編集 パンプキンヘッド @onionivx10
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