神戸まつりの楽しみ方

那由多

神戸まつりの楽しみ方

 兵庫県神戸市の五月は熱い。

五月のど真ん中にある土日に、同じく神戸のど真ん中である三宮と元町を大規模に区切って神戸まつりのメインフェスティバルは行われる。

 神戸らしく、様々な国の料理が屋台で立ち並び、ジャズの演奏が聞こえたかと思えば、京町筋ではサンバチームが熱気を振りまく。市役所の裏手では大道芸人たちが素晴らしい芸の数々を見せてくれる。

 そしてメインストリートであるフラワーロードでは中央分離帯を取っ払っての華やかなパレード。阿波踊りによさこい、何でもござれの大パレードはいつまでも終わりが見えない。

 そんな神戸まつりを味わい尽くすには、ほんのちょっとコツがある。

 まず、電車で行った方が良い。いや、行くべきだ。この日の三宮近辺は人で溢れ返る。交通規制も大規模だから、当然のように道が混みあう。車で近づけば、多大なストレスがその身に降りかかる事は間違いない。確かに電車は混むが、少なくとも会場には間違いなく辿り着く。

 さて、その電車で目指す駅にもコツがある。メイン会場なのだから、と三宮で降りたいところをぐっと我慢して元町で降りると良い。JRで来る場合、新快速が止まらないので気が進まないかもしれない。だが、次に新快速が止まる神戸駅では祭りの熱気がいささか遠すぎる。この元町という場所は、祭りの会場で言うと裾の部分に近い。熱気をすぐそばに感じながら、その中心にじわじわと近づく楽しみ方ができる。

 電車で降りたら、まずは南に下って大丸を目指す。横断歩道では人の整理のために警官やあるいはボランティアの方が声を張り上げている。高ぶる気持ちは当然だが、ここはぐっと抑えるべきだ。そうしたメリハリもまた、祭りを楽しむにあたって欠かせないものだ。

 さて、横断歩道を二回渡り、南に向いて大丸を正面に見る。その左手から祭りに入っていこう。

 まず待っているのがキッズダンサー達。親御様達が必死の形相でカメラを構える中、華麗に踊る子供たちの姿で祭りは始まる。

 しばらく歩くと、聞こえてくるのがジャズの音色だ。神殿を思わせる柱が立ち並ぶ神戸朝日ホールの玄関口で、ジャズコンサートが行われている。パワフルな歌声や演奏にしばし耳を傾けるのも良い。

 ジャズの音色とともに鼻をくすぐる良い香りも漂ってくる。通り沿いに屋台軍の登場だ。数々の料理が鼻孔と胃袋を刺激するだろう。ここで腹を満たしてもいい。屋台はほかにも出ているから、ここを先送りにしても食べ損ねる心配はない。だが、メインパレードにたどり着くまでに、食事は終えておきたいところだ。隣の人のジャケットに、アメリカンドッグのケチャップをつけてしまうのは嫌だろうから。

 食べ物と同時に様々な酒もある。ビール、ワイン、日本酒などなど。成年以上であれば、ここで軽く飲むのも良い。周りの屋台にはアテとなるものが束になって売られている。気分が高揚し、祭りに溶け込みやすくなるだろう。酒の力を借りて、などと固い事は言いっこ無し。ただし、酩酊はいただけない。あくまで、祭りを楽しむためのささやかなスパイスとして活用するのが良いだろう。何しろ、決して安くはないのだから。

 そうしてスパイシーになった心を揺さぶるのはサンバのリズムだ。色とりどり、華やかなサンバチームが踊りを披露するサンバストリート。五月の神戸の陽気も手伝って、思わず体を動かしたくなるかもしれない。ただし、ダンサーにはおさわり禁止である。

 そうしてサンバのリズムに身をゆすりながら通りを進めば、祭りの中心はすぐそこだ。そこへ駆けつけたい気分を抑え、一つ手前の通りに入って欲しい。市役所のすぐ裏にあたるこの通りでは、日ごろ目にする事の無い素晴らしい大道芸の数々が披露されている。

 思わず笑いが零れてしまうような滑稽な動きから、息をのむ緊張感あふれるパフォーマンス、目を奪われる優雅な動き。そして最後の大技が決まり、大道芸人が一礼する。その瞬間にしか味わえない感動が確かにある。

 いよいよ祭りのメインイベント。フラワーロードから始まる大パレードだ。三宮のど真ん中をぶち抜く大通りの、道幅全てを舞台にして繰り広げられるパフォーマンス。華やかの一言に尽きる。これは是非じっくりと堪能すべきだ。パレードを追いかけて歩いていくうちに、気付けば最初に来た元町駅の近辺に戻ってきている事に気付くだろう。

 神戸まつりを無事に一周したのだ。これだけ堪能すれば、時間も経つ。昼間に入ったならそろそろ日も傾き始めているのではないか。お疲れ様でした。

 年に一度、神戸の街ががらりと姿を変える、街を挙げてのお祭り騒ぎ。

 ただ通り過ぎるだけでも華やかな神戸まつりだが、その中にとっぷりと身を浸し、徹底的に楽しんでみてはどうだろうか。

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