第3話

学校に登校すると、何時もと様子が違うのに気づいた。

チラチラとこちらを見る生徒。

怯えたように顔を背ける生徒。

ビクリと震えて頭を下げてくる生徒。

普通に登校してるのは半分くらいか・・。


「どういうこと?」


俺は後ろについてきている野上穂乃果に聞いた。


「ここに居る生徒は皆、航一郎様の権力の影響下に居るものばかりです」


「えーーと?」


「関連企業の子弟、その他、借金等つまり、航一郎様が犯罪行為を彼、彼女らに行っても問題にならない者たちが集められています」


「先生が・・」


「当然教諭は全て完全にコントロール下にある筈です」


「警察ってものが・・・」


「昨日説明した通り、この国に於いて問題を起こしても、少なくとも重要人物を狙わない限り、或いは大事件を起こさない限り、県警レベルで情報はストップしますので・・・」

「・・・・・殺人でも?」


「はい、この学園の中での事件なら全く問題ないかと・・・・・」


「・・・・・・・・そう」


「はい、先代様より、ご自由にするようにと、私はサポートするだけです」


「自由に・・・・ね。あーそう、うん、分かった」


「はい」


教室に入ると、何時もざわついている教室は凍り付いたように固まっていた。

それを不思議そうに何時も通り話しかけている生徒もいるがほとんどの生徒は俺が教室に入ると、背をピンと伸ばして緊張を示した。

最敬礼に近い行動をする嘗ての友人。

引きつった笑顔を向ける、ちょっと可愛いなと思ってた女生徒。

下を向いて、謝るようにぶつぶつ言ってる奴。

素敵な笑顔で近寄ってくる自称親友。

顔を背けるもの、笑顔と向けるもの、敬礼するもの、会釈するもの、それらを不思議そうに見るもの、それぞれが、俺の一挙手一投足に反応しているようだった。


「よう」

俺は出来るだけいつも通り、自称親友である近藤公彦に向ける。

「や、やは、ず、随分長い間休んだじゃないか?元気にやってた?」


「まぁ、大したことないよ」


後ろに居る、野上穂乃果に目を向ける。

野上穂乃果はこちらに頷くと目を廊下に向けて、出ろと目で言う。


俺は廊下にでると、


「ちょっとついて来て下さい」


と、野上穂乃果は言い、まるで初めて来た学校ではないかのように、先導して歩いて行く。


教科準備室の並び、その一室に野上穂乃果は鍵を開けて入っていく。


俺もついて入った。


中には男子生徒8人と女子生徒4人が居た。


「彼らを紹介します。こちらから・・・・・」


見たことのある奴ばかりだった。ただ、知り合いはいない。


柔道部や剣道部、要するに運動部の所謂エリート達だろう。


彼らは媚びた笑顔はしていなかった。


そして、一人一人自己紹介すると最敬礼した。


「彼らは、航一郎様のボディガードと言いますか、兵隊です。お好きに使って構いません」


「・・・ああ」


「そうだな!お前たち!」

野上穂乃果が声を上げると。


「はい!!」

と12人が同時に返事をする。

訓練されているらしい。


恐ろしい。

何なのだろう?

この状況は。


俺は、

何に巻き込まれつつあるんだ?

家に帰ってきても日常はなかった。

新たな変事に巻き込まれて、どうしたら良いのか、よく分からない。


何をすればいいのだろう?


「時計の事を知ってるのは?」


俺は野上穂乃果に聞いた。


「この者達は知っています。後、この学園内では自由にお使い下さい。その為の学校ですから」


「え?」


「ここは先代様が航一郎様の為に作られた、実験場なのですよ」


「は?」


「だから、ここで、何でも好きな事を試して下さい。と言うより、先代様はここであらゆることを試すことをお望みでした」


「あらゆること?」


「そうですね・・・・・・・・、例えば暴行、強姦、支配、拷問、・・・・・・殺人」


「ああ、なるほど・・・・」


「つまり・・・・・」


「もう、分かったよ・・・・」


「はい」


「一人にしてくれ」


野上穂乃果と12人の兵隊は敬礼なのか会釈なのかをして部屋から出て行った。


最後に出て行こうとする眼鏡の女生徒に


「コーヒー買ってきて」


と言ってやった。


「はい」


女生徒は走って去った。


「・・・・・・・・・・・」


ボケっと外を見ていた。


一時限目は既に始まり、この変な部屋にいるのは俺一人だ。


もしかしたら、兵隊とかボディーガードなる奴らの誰かがこの部屋の外に居るのかも知れないが。


「美沙子・・・・。どうしてるかな・・・。お兄ちゃん結構つらいよ・・」


「どうぞ」


眼鏡の女生徒・・名前は・・・長谷部さんか・・がコーヒー、缶コーヒーの好きなメーカーというかブランドを買ってきてくれた。


ああ、こういうところまで徹底してるんだ。


そうか・・・知らなかったのは、もしかして俺だけなのか・・・。


「失礼します」


長谷部さんは部屋から出て行った。


俺はコーヒーを飲んで、壁に寄りかかって・・・。


頭を整理しよう・・と。


酷く何かが嫌だ。


俺は竜頭に触れて時間を止めた。


そして、青空の下を、誰も動かない町を歩いて、何も音のしない道を家へと向けた。


ドアを開ける時まで時間は止めたままだった。


俺は急いで家に入るとおざなりに藤原さんの応答に応え、


俺は部屋に入り、


鍵を閉め、さらにドアが開かないように鉄アレイをドアにくっ付けた。


ため息が出る。


価値は無限か・・・・。


そりゃ、あれだけの人間を飼えるような巨額を作り出した元だ。


日本政府がどうのこうのってのもこれは嘘じゃないかも知れない。


少なくとも警察組織は大した事件じゃ動かないんだろう。


マスコミは?


どうなんだろう?


俺が数人を殺したとして・・・どうなるんだろう?


大体なんで、どうして殺す?


理由は?


そりゃ、気にくわない奴はいる。


殺してみるか?


試しに・・・・。


それとも、可愛い女の子を無理やり犯すか?


ゴクリと喉がなる。


想像してしまう。


この時計と権力を上手く利用しろとお爺様は言ってるのか?


それとも意図は別にあるのか?


血族?


大企業?


財閥?


よく分からん・・・。


何に価値が合って、何に価値がないんだ?


友達だと思ってた奴、親友だと言ってた奴、そいつらの顔が瞼の裏に浮かぶ。


違ったんだな・・・。


・・・・。


まぁ、仕方ないか?


これから、何をすればいい?

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