彼は、

@trill

第1話

気付けばここにいた


昨日のこと、明日のこと、生まれたこと、

なにも覚えていない、わからない


「また会ったね」


彼は、言う


ずっと隣にいるくせに、また なんて言うのは変なことだ、


私は いつも 彼と会っている


「でも君は目を閉じるじゃないか」

「その時僕はいない」


どんな顔をしているのか、これからどんな顔をするのか、なにひとつ読み取れない、

そんな彼を、私は好きだった

愛していた


わかったわ、もう目も閉じない、あなたを見ている


「それじゃあだめだ、君が壊れてしまう」


わかっていた返答に、用意していた通りの気持ちをあてがう


「また会えるといいね」


会えない、なんてことは想像もつかないことだ

彼はずっとそばにいて、私を見ていて、知っている


彼に会えないなんて、想像もつかないことだ


目を閉じた瞬間にいなくなるのだろうか、ちゃんと見ていたのに消えてしまうのだろうか、私の目の前で背を向けてしまうのだろうか、

どんな終わりがくるのか


考えたくもないことを、何度も何度も考える


「いつ会えなくなるかわからないからね」


どうしてそんなことを言うの


「だから会えているうちに、たくさんのことをしよう」


ずっとここにいればいいじゃない


「長いと、価値が薄れてしまう」


「その間、たくさんの出会いと別れを見てしまう」


仕方のないことじゃないか、私は理解ができなかった


「君は、君を愛する以上に、僕を愛しているようだね」


そんなことはないわ、私は誰よりも私を愛しているもの


「そうだといいね」


やっと、彼の顔が見えた、過去を背負うような、幾重にも表情の広がる顔


ああ、私は彼を愛している

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