第6話実はARは体力勝負な件
「---で、どうしてこうなった?」
「いやぁ、運命って数奇ですよねぇ……」
右左見から家に呼ばれて、何かと思えばリビングのテーブルに見覚えがあるようなないようなガジェットがあった。
俺の目に間違いが無ければこれは……。
「これ、スイッチか?」
そう。某大手花札メーカーから新発売された売り切れ必至の何となく曖昧な立ち位置のゲーム機に似ている。持ち運べるしテレビにも挿せるというあのアレだ。
妙な違和感を覚えたのは見たことの無い微妙に気持ち悪いカラーリングにある。素っ頓狂な悪夢に出てきそうな配色だ。
「そうです、スイッチです」
「……中国から輸入でもしたんじゃないだろうな」
ジロリと目線を向けると右左見は慌てたように顔の前で手をブンブンと振り回した。
「ち、違いますよ、正真正銘の正規品です! 今絶対色を見て偏見でそれ言いましたよね!?
マイニンテンドー会員には先行予約枠があって、そこでオプションとか色々カスタムできるんですよ。 運良く枠が取れたんで配色にこだわってみたんです!」
「お、おう……」
正規品と念を押された目の前のスイッチは、コントローラーが黄色と青で構成されている。……されているのだが、持ち手のジョイントパーツが左右逆なのだ。
左は本体が黄色でパーツが青。右は本体が青でパーツが黄色なのである。
「これ、左右間違えて発注したとか送られてきたとかじゃないのか?」
「違いますよ。むしろ最大のこだわりがここです。せっかくカスタムできるならオリジナリティを出したいじゃないですか」
「……お前って典型的な『オリジナリティと奇抜をはき違えるタイプ』だったんだな」
「ちょっ、何ですかその憐れむような目は! カッコいいじゃないですか!!」
いやいや、どっちも蛍光色だしチグハグな分目がチカチカするだけだからな。あとパーツ装着する時絶対間違えるだろこれ。どうしてこうなった。流石にこれは眉間を押さえるに相応しい議題である。
とはいえそういった趣向は持ち主が良ければそれで良い。深く追求はしないでおこう。
「さて。先輩はスイッチの最大の特徴が何だか知ってますか?」
「あ? 最大の特徴? ……本体を1つ買えば2人プレイができる事か、据え置きでも携帯でもプレイ可能のどっちかじゃねぇの?」
確かCMではコントローラーをシェアしてパーティーで盛り上がっていた気がする。
「まあ、普通の人ならそう答えますよね」
得意気に鼻を鳴らす右左見。控えめに言って殴りたい。
「ゴメンナサイニラマナイデクダサイ」
右左見はそう言って一歩分の距離を取りつつ両手を突き出してガードを図った。
「で、特徴って?」
顎で先を促すと、右左見はコントローラーを渡してきた。自身もコントローラーを構えている。
「スイッチ最大の特徴はHD振動です。このコントローラーには振動機能が付いているんですけど、それがとてもリアルだと評判なんです。実際に振動だけで遊ぶゲームとかもあるんですよ! 物は試しです。そういうミニゲーム集を買ったんで一緒にやりましょう!」
そう得意気に右左見がコントローラーのボタンを押すと---始まったのは初期設定画面だった。
「エッ!?」
「お前なぁ……」
本体の横に未開封の説明書群があったから嫌な予感はしていた。が、まさか初期設定もやっていなかったとは……。いやゲーム機に初期設定がある事には若干俺も驚いたが。
「すっすいません! すぐ終わらせますんで!」
「焦らなくていいからちゃんとやれ」
未開封の説明書の束を渡すと、右左見は「うぅ……」と小さく唸りながら開封を始めた。
「そもそもさぁ、PSVRはどうなったんだよ」
あれから何回か付き合わされたが結局購入できずじまいだった。スイッチも店頭に長蛇の列というPSVRと同じ現象が起きていたはずだ。が、スイッチに関しては何も頼まれていないところを見ると1人で田代砲をやっていたのだろう。
しかし個人的に気になるのは付き合わされたPSVRの方である。
「あー、PSVRはですね、少し前に新型が出るって噂が出回って、実際に新型出しますってアナウンスもあって、今は様子見です。この短期間で新型を出してくるってことは以降も新型を出していくはずなのと、ソニ〇が正式にVRコンテンツは今年末には充実させると発表したのでそれに合わせようかなーと」
「なるほど。その差分でスイッチを買った訳か」
「あ、それは……ええっと……」
途端に右左見の歯切れが悪くなる。いや、PSVRは5万弱だったしスイッチは3万しない感じで安かった筈だから、普通に年末までの間に埋められる額って理由が妥当だろう。口ごもる理由が分からない。
「あの……笑わないで聞いてくれますか?」
「は?」
「あ、やっぱりいいです。聞かなかったことにしてください」
「分かった、笑わねぇよ。笑わねぇからさっさと言え。気になるだろうが」
「……先輩と、やりたかったから、です」
「---は?」
ちょっと目の前の光景と言われた言葉の意味が色々と追いつかない。あまりにも予想外の回答過ぎて、多分今の俺は目が点だと思う。何なら珍しく感情のこもった言葉を吐いた自信すらある。
目の前の右左見は、何故だか耳まで真っ赤にして。
らしくもない小さな声で呟くように言って。
購入した動機が俺とゲームをしたかったから……? いやまぁ、『友人と遊ぶ為』自体は購入動機の選択肢には入ってそうだがちょっと双方の年齢と関係性が合わない気がしないでもない。職場の先輩を家に招いて遊びたくて話題のゲームハードを購入ってのは寝耳に水の回答だと思う。
「っごめんなさい! 僕、一緒にゲームやる人いなくて、その、先輩なら付き合ってくれるかなー、なんて……いややっぱりいいです聞かなかったことにしてください! PSVRの差分です、差分で買いました!」
目の前で勢いよく手を合わせて謝罪したかと思えば両手をブンブンと振りながら言葉尻を取り繕い始めた右左見を無言で見ていたら何だか色々と複雑な心境になってきた。……まぁ、細かい事はとりあえず置いておくか。
「解った、訊いた俺が悪かった。まさか一緒にやるリア友がいないとは思わなくてな……。心配しなくてもちゃんと付き合ってやるから初期設定終わらせろ。俺は公式の動画でも観とくからWiFiのキー寄越せ」
「あ、ありがとうございます! キーはルーターの横に付箋で貼ってあるんでそれを使ってください!」
そんなMMOですれ違い様に蘇生されたかのような顔をされましても若干引きますがそれは。
……しかし本当に、見れば見る程小動物だな。絶対心拍数とか体温が高い系だ。ハムスターとか良くてもリスだ。忙しない。忙しないがまぁこれはこれで飽きはしないかもしれん。
何となく自分の口角が上がった気がして、そんな事も久しぶりだという事に気が付いた。若いって凄ェな。そして俺は老いてたんだな……。
新しいゲームハードなんて触るのはいつ振りだろうか。ついでに誰かと顔を突き合わせてゲームをやるなんてそれこそ10年は平気で遡れかねない。仕事して、空いた時間でソシャゲして。何となくガチャを回して何となく進化させて。それでもそこそこ楽しんではいたんだが。何て言うか、このちょっとしたwktk感はいつの間にか忘れていた気がする。
「お待たせしました、設定終わりましたよ!」
「お、いよいよか」
合図の様に振動したコントローラーと久しぶりに見るテレビ画面でのゲームのOPの新鮮さに、今日は乗せられてやろうと腹をくくった。
------
オマケ。
実際にプレイしてみた。
「どのミニゲームやりましょうか?」
「どうせならそのHD振動とやらを活かせるヤツが良いんじゃねーか?」
「あ、じゃあこれやりましょう。箱の中にボールがいくつ入ってるか当てるゲーム!」
「えーと、コントローラーを箱に見立ててボールがいくつ入っているか揺らして当てる……? いや無理だろjk」
「それができるのが売りなんですよw よし、始めますよ!」
(コントローラーを傾けるとボールが分かるとかマジ鼻で笑うれべr……!? 何だこれ、本当に中にボールが入ってる感覚だと!!! まさかそんな……!!)
「んー、僕の方は2つですかねー。そっちはどうですか?」
「……こっちも2---いや3つだな」
『正解は3個です!』
「ああ!! 3つだったのか!!」
(って先輩さり気なく小さくガッツポーズしてるwwww なんだかんだ言って乗り気なんじゃんw)
「あ、見てください、真剣白刃取りとかもありますよ!」
「白刃取りとか懐かしいな。昔カービィのミニゲームでやってた気がする」
『それではプレイヤー同士、腕がぶつからない距離で向き合ってください。
先手はプレイヤー1です。上段の構えをしてください。プレイヤー2は膝を立てて構えの姿勢を取ってください』
(えっ。それは流石に……)
(えっ。それは流石に恥ずいだろ……)
「っいきますよ先輩!」
(ここは俺が勢いを出さなきゃ!)※プレイヤー1
「えぇ……」
(コイツメッチャマジで構えてるじゃん……)※プレイヤー2
『振動したタイミングで、先手はコントローラーを振り下ろし、後手はコントローラーを手で挟んで剣を受け止めてください』
---突然の振動!!
「せいっ!」
「うおっ」
『守り成功。プレイヤー2の勝ちです』
「マジか!」
「っし」
『攻守交替、プレイヤー2は立ってください』
(これはこれで恥ずい……しかしここで目を逸らしたら負けだ)
(ヤバい、ただでさえ目つき怖いのに見上げたら先輩ムチャクチャ怖い……!!)
---突然の振動!!
上下無言で振り下ろす。
「!!!!!!」※右左見声にならない叫び
『攻め成功。プレイヤー2の勝ちです』
「どうした若造。サマになってねえなァ?」
「っ高々2連勝したくらいでいい気にならないでください。次は本気で取りにいきますよ?」
その後白刃取りはどちらも譲らず白熱のバトルとなるも……
「ちょ、先輩、そろそろ先輩らしく負けてくれませんか?」
(ゼーハー)
「いや、後輩なんだから、先輩を立てろよ」
(ゼェハァ)
普段の運動不足が仇となり、地味な運動でヘロヘロになった2人であった。
ちなみに翌日お互い二の腕が筋肉痛で苦笑するしかなかったとか。
本日もゲーム日和 ビス @vis0501
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