十二話 赦しなんて乞いはしない(流血、残酷描写注意)
少女の目の前にいた兵の胴体が分断され、鎧がひしゃげる異様な音と共に地面へと崩れ落ちる。
「っらああぁ……がッ!?」
槍を突き出した兵士の懐に潜り込み、肺を炎で貫く。
暴れる兵を蹴り飛ばす勢いで槍を抜き取ると背後に迫っていた二人を横から串刺しに。そのまま槍を地面に突き刺し、少女は空へ跳躍する。
ガギンッ──と
空中で身を翻した少女は両腕に蒼炎を
軽やかなステップを踏みながら腕を振るといくつもの電流が夜闇を
みるみる内に増えていく
「兵が……退いていく?」
スイが呟いた。
フウは手を止め、武器を向けながら後退していく兵達をつまらなそうに眺めていたが、再び敵陣に
「流石は『
そう高らかに言いながら現れたのは、他とは異なる装飾が施された鎧を
「俺はダリウス、ルベルタ第四王軍第二部隊隊長だ。いやはや、こんな子供相手にここまで我が隊がやられるとは驚いた。だが俺としてもこれ以上部下や子供を傷つけるのは避けたくてな。どうだ、ここは俺とお前の一騎打ちで決着をつけるといのは」
「……なにそれ。お前ら軍人でしょ、死ぬ気で私達を追ってきてたんじゃないの?」
「ハハハッ、死ぬのが俺らの仕事だとでも思ってるのか。親の教育がなってないようだな」
ダリウスの発言にフウの表情が険しさを増す。
円形だった陣はいつの間にか正面に移動し、隊列が組み直されていた。
ダリウスの背後に整列する兵達の表情は先程とは打って変わり、威圧的な雰囲気をも
それを肯定と受け取ったダリウスが腰の大剣を引き抜くと同時に、双方が
蒼炎を
「っ!?」
ダリウスの背後に
炎を払いのけると宙に浮くソレを操り、前方へ浴びせかける。まるで意思を持った生き物のように、大量の砂がフウに襲いかかった。
「砂術っ!?」
スイの声と入れ替わるように次の瞬間には、爆風が砂の波を吹き飛ばした。
弾けたように
「まだまだだッ!!」
間合いを潰すべく走り始めたフウを迎え撃つかのように、いくつもの砂の塊がダリウスから撃たれ、飛び散った砂が地面からフウの足を絡め取ろうと襲い来る。
だが
フウが
焰の勢いが弱まった
「ぐぅっ……!?」
痛みに顔を歪めながらも辛うじて着地に成功したフウの左手首には、対術手錠が
どうやら砂術抑制に距離を詰めようとすることも読まれていたようだ。
「矢を放て!!」
ダリウスの声に顔を上げると、何百もの矢が迫ってきていた。
「……子供も部下も傷つけたくない、か」
一騎打ちの申し出はこの隙を作るための作戦、フウは
「ま、こちらも命張ってるんでね。悪く思うなよ、シロガネ」
ダリウスが口角を吊り上げたその時にはもう、
──全ての矢が空中で両断され、灰と化していた。
「……は?」
──
首が跳んだ。ただ、それだけ。
しかし
「たっ、退却だっっ!!」
そう誰かかが叫んだのを皮切りに兵達は一斉に逃げ始めた。
名誉、功績、誇り。かつては誰もが欲しがり持っていたであろうそれらを投げ捨て、生に
「……逃がさない」
冷たく言い放ったフウは辺りの木々に火を放ち、千以上もの兵からなる集団全てを瞬く間に炎の檻で囲い込む。
燃え
彼らは恐る恐る背後を振り返る。
そこには灼熱の
大量の血が流れ落ちる左腕をだらりと
細められた
***
植物一つ見当たらない赤く染まった焦土の中心に、少女はポツリと立ち尽くしていた。
血と肉が焦げる異臭の中で、明るくなり始めた空の端を虚ろな目で見つめている。
「フウ──」
その後ろ姿を見つけ無事が分かった時、頬が緩みかけたスイだったがそれは
フウは今にも消えてしまいそうな雰囲気を
家で流していた涙は
「…………」
腕に刺さった矢の痛みなど今はどうでもいい。スイは力任せに引き抜き、フウの元へ行くとそのまま後ろから抱き寄せた。
「フウ……ごめん。僕のせいで……」
小さくて薄い肩は少しでも力を入れれば、砕けてなくなってしまいそうだった。
「…………」
フウは何も言わずスイに背中を預けたまま
やがてその手が動き、首元に回されたスイの手に重ねられると、
「スイの……お兄ちゃんのせいじゃないよ。全部、私のせい」
青の瞳は何も映さないまま、まるで独り言のようにフウは呟いた。
自分が止められなかったから両親は死に、スイは一線を越えてしまった。
それは取り返しのつかないこと。もう戻ることの出来ない道へ踏み出すよう、自分の意志で彼の背を押してしまった。その喪失感と、気味の悪い達成感がフウの心を侵食していた。
──一方、自分に背を押されたスイを見て、フウは心底安堵してしまっていた。
──これで、
──これでもうスイ(かれ)は
それは偶然というよりむしろ必然のように、歓びさえ覚える心地。
「……ぅうっ、ぁぁあっ──はは、……あはははははははっ!!」
フウは空を仰ぎながら、血濡れた地面に膝から崩れ落ちた。
ただ、忘れてはいけない筈の分からなくなってしまった何かが、己の中から消えていくことだけは嫌でも分かってしまった。
「ごめんっ、フウ……」
己の腕から逃れるように倒れ込んだ少女へ、スイは立ち竦んだまま絞り出すように声を震わせた。
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