第二話

 無事手錠が外れて綾菜から解放された頃に、列車は駅に着いた。

 女の子はさっさと出て行った。

 んっ?

 何か落ちてる。

 金色の光沢の桜の代紋。

 これってテレビとかでよく見る警察手帳ってやつじゃない?

 パカッと開くと中にはやっぱりあの子の写真と個人情報が入っていた。

 っていうか僕らと同じ駅で降りて行ったってことは、同じ高校?

 外交区にあるのあそこだけだし、きっとそうだろう。

 「途乖―行くよー?」

 おっと、綾菜が呼んでるから行こう。

 さっきの子が学校にいると信じて、この手帳を持っていく。

 

 はぁ、なんで私はうち(警察)を壊滅させかけた男に頭下げて敬語なんて使ったんだろ。

 私は藍鎖護 由華。

 今回ある少年を社会的に抹殺するために、遠いところから、電車で移動していたが、無事成功するか、というところでミスをしてしまった。

 とりあえず、学校に向かうついでなので今は学校に向かって歩いている。

 不幸な事故とはいえあんな風に胸を触られたのショックだったな。

 でも、何だか少しドキドキもする。

 いわゆる、吊り橋効果ってやつなんだろうか?

 共通の恐怖を感じると脳が恐怖心からくるドキドキと恋心からくるドキドキを勘違いしてしまうとか。

 確かにあの時彼の幼馴染がものすごい形相で彼を怒ってて怖かったけれど、それだけでなっちゃうものなのかな?

 っていうか、あんなにひ弱そうな彼に警察組織を壊滅させることは出来なさそうなんだよね。

 

 この時彼女は気づいていなかった。

 自分が既に警察組織を壊す一手にされていることに。

 ・・・そもそも壊す本人も一切気づいていないのだが。

 

 ここ最近、色々なことがありすぎませんかね?

 警察のトップ、警視総監のスキャンダルが国民の目に晒され、警察は信頼を失いつつあった。

 外交区に国際的テロ組織が入ったのが確認されたとか。

 僕個人だけでも、いろいろあったよ?

 学校に爆弾設置されるのを目撃したとか。

 逮捕?されかけるとか。

 ・・・謎すぎる。

 まともな人だったら、こんなこと二日で起きないはず。

 僕って至極まともだよね?

 

 こんな風に彼は自分をまともだと勘違いしているのだった。

 

 ホームルームちょっと前の事。

 僕は綾菜と別れて、自分のクラスに入り少々ぼけーっとしていた。

 すると、誰かに肩を突かれる。

 振り向いたら面倒くさそうだから無視することにした。

 ツンツン

 ・・・尚も無視する。

 「ッおい!」

 遂に耐え切れなくなったのか声をかけてきた。

 「・・・ん、何?」

 声をかけられたからには一応反応する。

 「何?じゃねえよ。」

 「?」

 「そこで不思議そうな顔をするな!。」

 「・・・耳元でぎゃあぎゃあ騒がないでくれないか?」 

 「じゃあ無視するなよ。」

 「で、何か用でもあるの?」

 「いや、別に?」

 じゃあ、ただ僕をからかいたかっただけなのかよ。

 「・・・そういえばお前ってさ、いつも女子と一緒だよな?」

 綾菜の事かな?

 「あれはただの幼馴染みだよ。」

 「ふぅん、そうなんだ。」

 何か訝しむような表情をしているが、僕は嘘なんて言っていない。

 そういえばコイツの名前なんていうんだろう?

 確か、四月にクラスの人の名前が載った名簿をもらったはず。

 バッグの中にファイルがあって、その中にその名簿を入れていたはず。

 おっ、あったあった。

 僕の後ろのコイツは、縫和 玄亜。

 いかにも裁縫とかが得意そうな名前だなぁ。

 「おいおい、クラスメイトの名前ぐらい覚えておけよ。」

 そういうのは苦手なんだよ。

 必要があれば覚えるけど、必要なければ覚えなくてよくね? 

 「お前は、樹相 途乖だったっけか?」

 「・・・そうだよ。」

 玄亜君も覚えてないんじゃん。

 「お前ってさ、ぼっちっぽいよな。」 

 余計なお世話だ!って言いたいけど事実だし言い返せない。

 「・・・うぅ。」

 「だったら俺が友達になってやろうか?」

 「いいの?」

 「勿論。友達はいくら居ても損は無いものだからな。」

 友達がいっぱいいる人はいうことが違いますねー。

 「で、友達になるにはどんな儀式をすればいいの?」

 「・・・友達になるのに契約書とか盃は必要ないんだぜ?」

 「えぇっ!そうだったの?」

 「そうだよ、世の中の人みんな契約交わしてるとでも思ってたのか?」

 「・・・確かにそれはないね。」

 じゃあどうやって、みんなは友達を作ってるんだろう?

 「だから、不思議そうな顔するなって。友達っていうのはお互いがそう思えばそれでいいんだよ。」

 「そんなに脆くて弱い繋がりでいいんだ。」

 「全然脆くも、弱くもないさ。」

 「そう?口約束なんて、守られない可能性のほうが高くない?」

 「それは、相手を信用していないからだろ。」

 ・・・確かにそうだ。

 「ところで、話は変わるんだが、お前どうして、魅音慈さんに話しかけられるんだ?」

 「それこそ僕は何にもしてないよ?」

 「じゃあ、お前は憐れまれてるのか。」

 「なるほど、・・・って、きっと違うからね?」

 そんなに僕、可哀そうに見えたのか?

 「だって、ぼっちだし。」

 ぐはぁっ。

 心にぐさぐさ刺さる言葉を玄亜君は僕に投げてくるよね。

 多分本人にはその自覚無いんだろうけど。

 「い、いや、そもそも誰も僕の事なんて見てないでしょ?」

 「・・・はぁ?」

 なんでそこで否定が入るのかな?

 「あんなに目立つことをしておいているんだから、誰がもお前のことを見ていると思うぞ?」

 目立つことなんて、僕した記憶ないんだけど。

 「なんでそこで不思議そうな顔をするんだ。まさか、自覚無いのか?」

 「・・・なんか僕凄いことした?」

 本当に知らないよ?

 「凄いで済まないだろ。」

 「例えば何をしたのさ?」

 それを聞けば僕も思い出すかもしれないからね。

 「校長を蹴り飛ばしたじゃん、それも全校生徒の前で。」

 ・・・確かにそんなこともあったねぇ。

 でもあれは事故であって、わざとじゃあないんだよ。

 「他にも、電車でごと学校に突っ込んできたり。」

 「それ、僕関係ないじゃん。」

 「・・・乗客はお前だけ、運転士は気絶してた。これ以上の証拠はないだろう?」

 そうだったの?

 道理であの後警察署に連れて行かれたのね。

 でも、警察の人と顔なじみにだったからかちゃんと僕の言うことも聞いてくれて、無事に帰してくれた。

 まあ、僕と顔なじみでなくても、妹が来てしまえば、言質を取られて結局帰ることができるんだろうけどね。

 ってか、今更だけど警察と顔なじみとか結構ヤバくないか?

 「・・・すまん、自分の異常さに今更気づいたって顔してるな。」

 「いいんだよ、僕はどうせ犯罪者予備軍ですから。」

 「そんなこと俺は一言も言ってないぞ⁈」

 それはわかってるけど、間接的には言ってるよね。

 そんなこんなで、朝のゆったりとした時間は流れて行った。

 

 授業と授業の間の小休憩の事。

 「樹相 途乖ッ!あなたに決闘を申し込みます!」

 「わっつ?」

 いきなり、教室に入ってきて、僕の席に一直線に向かってきた、一人の快活そうな少女。

 「だーかーらー!決闘を申し込むって言ってるんですッ!」

 「・・・何故僕に決闘を申し込むのさ?」

 「ッ!・・・それは言えません。」

 この切り返しは予想外だったみたいだ。

 っていうか何で、もうしこむ理由言えないんだろ?

 「そして、君は誰?」

 「そういえば、名乗ってませんでしたね。」

 人に決闘申し込んどいて、自部の名前名乗らないって、馬鹿なのか?

 「私は、義士乃 詩織。」

 「あぁ、あの義士乃さんね。」

 文武両道、成績優秀、etc…彼女を称賛する言葉を挙げればきりがない。

 それだけ、凄い人なのだ。

 でもなぜ、そんな人が、僕に決闘なんかを挑むのか?

 そもそも、決闘なんていう物騒なこと僕はしたくないんだけど。

 ・・・自分が、ひ弱で雑魚だから。

 喧嘩なんか一度もしたことのないもやし人間なのだ。

 対して、義士乃さんは、文武両道という言葉の通り、武道も修めているので、かなり強い。

 「とりあえず、その決闘は断らさせてもらうよ。」

 「何故ですか?」

 心底不思議そうな顔をしているので理由を説明させてもらう。

 「僕に今のところメリットが無いし、そっちの理由もわからないからね。」

 「・・・そういえば、貴方が勝った時の事について何も言ってませんでしたね。」

 ふーん、僕にもメリットがあるんだ。

 「あなたが勝った場合、言うことを一つだけ聞いてあげます。」

 何それ、凄く決闘するべきだと思い始めたんだけど。

 「とりあえず、次の授業が始まるから、教室戻ろう?」

 「そ、そうですね。日時は、今日の放課後でいいですよねっ!」

 僕は一言も、OKしたとは言ってないんだけど、流石に、行かないのも可哀そうなので、行ってあげよう。

 

 次の小休憩。

 「あ、あのー!」

 「・・・んぁ?」

 寝ぼけ眼の僕の目の前には一人の少女がいた。

 「お、お休みのところ申し訳ございません。」

 小動物じみて、か弱さそうで、おどおどとした印象を受ける、そんな少女だった。

 「い、いや大丈夫、うっかり寝ちゃってただけだから。気にしなくていいよ。」

 「そ、そうですか?それならいいんですけど。」

 「んで、何の用?」

 「ぶ、部活勧誘です!」

 そういえば、部活入ってなかったな。

 「何部?」

 「こ、好奇心探求部です!」

 ・・・なんじゃそりゃ。

 「わ、我々好奇心探求部は、各々好奇心を探求する部活です!」

 内容、シンプルで字面通りなのね。

 「何で、僕を誘ったの?」

 「そ、それは、あなた以外の方にお断りされてしまったり、他の部活に入ってらっしゃったので。」

 もしかして、この子以外部員いないのか?

 「い、一応、もう一人の方が、入部してくださると言っていました。」

 ほっ、他にもいるのね。

 「じゃあ、入ろうかな。」

 「そ、それでは、こちらに記入してください。」

 と言って部活申請の紙、・・・部活まだ成立してなかったの?

 「ぶ、部員さんが最低でも三人いないと部活として成立しないのです。」

 人数ギリギリで成立させるつもりなのか。

 「お、お願いします!この紙にあなたの名前を書いてください。」

 別に断る理由もないので名前をササッと記入する。

 「あ、ありがとうございます。この用紙をお昼休みに提出すれば、放課後までにはきっと通るので、放課後に一度集まりましょう。」

 「わ、わかった。」

 彼女は、鼻歌を歌いながら去っていった。

 そういえば、あの部長さんの名前なんだったんだろ?

 

 お次の小休憩。

 「・・・ぉい・・・おぃ、途乖、・・ろよ。」

 んぁ、玄亜君が、なんか呼んでる?

 「おいっ、途乖起きろ!放送で呼ばれてるぞ。」

 えぇっ、何で?

 「生徒会室に来いだってさ。」

 「僕なんか悪いことした?」

 「さぁ?とりあえず来いとしか言ってなかったぞ?」

 「はぁ?一体何なんだ?」

 「ほらさっさとしないと、次の授業が始まっちまうから、急いで行ってこい。」

 背中をドンッと押されたので、行くことにした。

 「・・・途乖はトラブルに巻き込まれやすいタイプだな。」

 後ろで玄亜君が何か言ってた気がするけど、気にしなくていいや。

 「・・・そもそも一年生しかいないこの学校に、生徒会なんかあったんだ。」

 そんなことも知らないなんて、僕この学校に関心無さすぎ・・・。

 っていうか、生徒会室ってどこだ?

 ・・・あ、そうだ。

 一階にこの校舎の見取り図的なものがあったはず。

 僕は一番近い階段に向かう。

 階段を降りようとしたその時。

 「あだっ、」

 「いてっ、」

 ・・・何でこっちが急いでるって時に限って、こんな風に厄介ごとに巻き込まれるわけ?

 「ごっめーん。大丈夫?」

 か、軽い?!

 「あ、君が樹相途乖君だね~。」

 ・・・何で人の上に乗っかったままこの人は会話しようとするのかな?

 「私はせーとかいちょーだよー。」

 「へぇ、・・・えぇ?」

 ってことはこの人が僕を呼び出したのか?

 「と、とりあえず降りてくれません?」

 そうなのだ、この生徒会長さっきからずーと人の上で馬乗りをしているのだった。

 「えぇーいーやーだー。」

 ・・・何でそこを拒否るの?

 「じゃあどうすれば僕は立てるんですか?」

 「・・・むむぅ。」

 悩ませちゃってるけどもしょうがない。

 ・・・この時僕はすっかり次も授業があることなど忘れていた。

 「答えは出ましたか?」

 「うんっ!」

 今思ったけれども、この人言動がいちいち子供っぽいよね。

 「肩車する―!」

 「はいはい、わかりました。」

 生徒会長さんを持ち上げて、肩の上に乗せる。

 ちっちゃいし、軽いからあっさりと持ちあがる。

 「で、生徒会室までの道教えてください。」

 「んとね、そこを右に曲がって、・・・」

 そんなことがあって、生徒会室についたのは、チャイムが鳴る直前だった。

 キーンコーンカーンコーン

 「ちょ、チャイム鳴っちゃいましたよ?」

 「だいじょーぶ、だいじょーぶ。」

 ・・・一体何が大丈夫なんだ?

 「そういえば、何で僕を生徒会室に呼び出したんですか?」

 「それはねー、なんとなくだよー。」

 「なんとなくですか・・・え、なんとなくなんですか?」

 「そうだよー、あと、私に一々敬語を使わないで。」

 ちょっと怒ると口調年齢が上がるのね。

 「はぁ、さいですか。」

 「よろしい、今後もその口調でお願いしますね。」

 あの幼い口調は自分を守るための殻的な感じなのかな?

 「それでねー本題に入るんだけど、君さー、生徒会入ってみない?」

 あ、口調戻ってる。

 「生徒会、ですか、具体的に何をするんですか?」

 「あぁ、うーんとね、特にすることはないよ。・・・本来はね。」

 「・・・本来は?」

 「君が起こすトラブルのおかげで、我々生徒会はかなり、仕事が増えてる。」

 「うぅ、道理で最近変な人たちに絡まれないのね。」

 「そーなのよー、だからー、私たちに感謝しなさい。」

 「・・・ありがとうございます。で、どうして僕に入ってほしいんですか?」

 「その理由は一つだけ、君を監視下に置けること、の一点に尽きちゃうねー。」

 「シンプルデワカリヤスイリユウダナー。」

 「なんで棒読みなのかなー。」

 それは、ナンデダロウネー。

 「あ、そういえば、君には、拒否権無いからねー。」

 「・・・じゃあ、なんで、僕に聞いたんですか?」

 「一応事前に知っておいたほうがいいでしょー?」

 そりゃそうだ。

 「んで、僕は、どうすればいいの?」

 「とりあえず、部活中にどこに行くか、教えてくれればいいよー。じゅぎょーちゅーは、君のクラスの子が見張ってくれるから。」

 「そうすればそこに、生徒会の人が派遣されてくると。」

 「そーゆーこと。」

 「なら、いっそのことうちの部活に入れればいいじゃん。」

 「そんな手があったのか!?」

 むしろ、こんな手も思いつかないなんて、生徒会は・・・。

 「・・・うちの学校の生徒会が心配になってきた。」

 そういえば、会長さん肩車したままだった。

 「そろそろ、降ります?」

 「あっ、そういえば、乗りっぱなしだったねー。」

 にしても、かなり生徒会長さん軽いなぁ。

 ずーっと乗せっぱなしだったのに全然辛くないし。

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