第一話
東京都、外交区
「音楽室遠くね?」
こんな他愛もないことをつぶやく少年が一人。
少年の目は廊下のはるか先を見ていた。
「ってか毎回思うけど、なんで廊下めっちゃ長いんだろうなぁ。」
彼はこの井生形高校に四月に入学したばかりの高校一年生。
今は授業と授業の間で次の授業の音楽を受けるために音楽室へ向かわなければならない。
他の生徒はクラスメイトと会話をしながら音楽室に向かっている。
「この廊下もそうだけどこの学校なんかおかしいんだよなぁ。」
核シェルターがあったり、無駄なんじゃないかっていうぐらい敷地が広かったり、何なんだろうこの学校。
僕は普通の高校に入ったつもりなんだけどなぁ。
なんてことを廊下に突っ立ってぼーっと考えていると、
「途乖くーん、授業始まっちゃうよー?」
なんて声が廊下のかなり向こうから聞こえてきた。
きっと
あの人音楽の授業の時だけめっちゃテンション高くてほかの授業の時は普通なんだよなぁ。
音楽の授業があってテンションが高い時だけ僕に声かけてくるからな。
なぜかわからないけどほとんどの人が僕に話しかけてこないんだよなぁ。
やっぱりぼーっと考える。
しかし、授業に遅れたくはないので軽く駆けながら音楽室に向かう。
「ほらほら、あと三十秒!」
「えぇー絶対っ間に合わないよ!」
なんでここの廊下三百メートルぐらいあるのかな!
なんて思いながら全速力で走る。
キーンコーンカーンコーン ガラッ キーンコーンカーンコーン
「はぁ、はぁ、ふう、何とか間に合った。」
「いいえ、間に合ってません。」
先生からの期待していなかった返事が僕にグサッと突き刺さる。
・・・だったら走る必要なかったじゃん。
「残念だったねー。」
魅音慈さんは魅音慈さんで苦笑いとかじゃなくて満面の笑みで言ってくるし。
でも、これ嫌味とかで言ってるんじゃないんだろうな。
授業中の彼女は凄い。
天使の歌声と言われるだけあっていくら聴いても飽きない。
それにしても合唱なのにほとんど彼女のソロと化してるんだよなぁ。
「相変わらず凄いよねー、流石魅音慈家の人だけあるねー。」
「でも、それだけで男子にモテてるのはちょっとズルくない?。」
授業が終わり教室へ戻るときの、女子たちの他愛ない会話を右から左に聞き流しながら僕も教室に戻る。
魅音慈さんを知らない人はいないって言うぐらい有名なんだけれどもこの高校に入ることは知らなかったんだよなぁ。
井生形高校には、約四五〇人の生徒がいて、そのうちの八割がテレビやネットで話題になるぐらい知名度が高い人達、残りは一般生徒なのだ。
何故そんなに著名人が集まるかというと、言っちゃぁなんだけれども無駄にお金を使って、全てをそろえているからだ。
飛行機の操縦シュミレーターや射撃場(銃なんかなかったよ?)なんかがその一例。
けれども、こんな一般市民の僕も入れるのには理由がある。
それは、場所にあった。
東京都の外交区という地区にあるのだが、この外交区すこぶる治安が悪い。
なぜなら、日本国外の人が移住するのが自由なのだ。
政府が言うにはこの国のグローバル化の足掛かりなのだとか。
それゆえ様々な人が集まって来るのだった。
危険な犯罪者もやってくる。
そんな、場所が場所だけにあまり生徒が集まりにくく、生徒の募集レベルが低くなる。
しかし、教育レベルは高いうえ設備も完璧、なので著名人が入ってくるというわけだ。
著名人の人たちは、犯罪者に襲われないようにガードマンを付けていたり、車で登下校していたりする。
そんな危険区域に来たがる一般人は少ないが、僕みたいにここぐらいしか行けませんっていう人がこの高校に来る数少ない一般人なのだ。
どう考えたって魅音慈さんとか著名人の人達と比較されるの確定なのだが。
でもまぁここに入学してから三か月経つんだけれども学校辞めた人が五人、所在が分からなくなってしまった人が三人と普通の学校ではありえないくらい人が減っている。
この学校今年出来たばかりの学校らしく、上の学年はいない。
「あーぁ数学嫌だなぁ。」
少年は次の授業への愚痴をこぼした。
何事もなく授業が終わり、下校時刻となった。
ワイワイガヤガヤしている廊下に出るのは邪魔なのでしばらく教室内で待つことにした。
しばらくすると、怪しい感じにロッカーをゴソゴソしている女の子だけが残った。
何をしているのか気になったので話しかけてみた。
「何してるのー?」
「ッ!!」
その子はこっちに気づくと心底びっくりした顔を、そして警戒した表情をしていた。
そして内ポケットから何か出そうとして、転んだ。
「大丈夫!?」
「うぅ・・・」
思いっきりおでこを打ち付けていて痛そうだ。
けれども出血はしていないし保健室に行かなくても大丈夫なはず。
その子はしょんぼりして女の子座りをしている。
「何しようとしてたの?」
「・・・爆弾」
爆弾?爆弾ってあの爆発するやつ?
「それって爆発するの?」
「勿論」
「嘘だよね?!嘘だと言って?!」
「本当」
「えぇ!?どうしよう?!」
「因みにまだ起動してない。」
それは良かった・・・よしッ帰ろうッ!
「この計画を知ってしまった人を帰すわけにはいかない。」
デスヨネー・・・
「で、どうすれば帰してくれるの?」
「・・・さっきの言葉の意味分かってない?」
「?、計画を知っていても何か無理難題をクリアすれば帰してくれるんじゃないの?」
「・・・違うよ、殺す、又は消すって意味。」
「そうだったの!?」
じゃあ逃げるしかないじゃないか!
「じゃ、じゃあねッ!」
「待ちなさ、ひゃっ!」
ズテーン
また転んだみたいだけど今は自分の身のほうが重要。
「はぁ、はぁ。」
死に物狂いで学校から走って出てきた。
そういえばあの子生徒だったよね?
テロでも起こす気なのか?
ついさっきあんなことがあったので少々警戒気味になりつつ、駅まで向かう。
様々な国の建物が所狭しと並んでいる。
右を見れば宮殿のような石造りの建物があり、左を見れば高床の建物がある。
色々な国の建物が混じっているので街並みは混沌としている。
そんな街の一角にごく普通の日本国内ならばどこに行っても見かけるような駅がある。
それが更にこの町のカオス度を上げている。
駅の改札を通り電車をホームで待つ。
早すぎず遅すぎず、定刻ぴったりに電車はやって来て、定刻ぴったりに発車する。
そんな電車に乗り込み、揺られながら自宅最寄り駅を目指す。
巨大な灰色のビル群が車窓から見えてきた。
電車移動が大体三十分ほどかかるため車窓を眺めることが多い。
あっ、そういえば綾菜置いてきちゃった。
幼馴染みの綾菜は家が道を挟んで向かい側にあったので小さい頃からよく遊んでいた女の子である。
さっきの爆弾のせいですっかり幼馴染みと一緒に帰る事を忘れていたことに気づいた。
綾菜怒るとめっちゃ怖いんだよなぁ。
僕は謝罪の言葉を考える。
ヤバイ、語彙が無いせいで謝罪の言葉が思いつかない。
いつしか窓から見える景色はビル群から閑静な住宅街へと移り変わっていた。
勝手に置いて行って申し訳ございません?なんか違う気がする。
理由を説明しても馬鹿にされるだけだろうし。
そんなことを焦って考えていると、もうあと一駅しかない。
これは、死んだ。
もうストレートにごめんなさいって謝ろう。
許されるわけがないけど、言うのと言わないのじゃ違うだろうからね。
こういうのは誠意を示すのが大事なんだよ。(きっと)
遂に地獄への扉が開く。
何故なら、電車が最寄り駅で止まったからだ。
電車の扉が開いたので焦らず慎重になりすぎず普通に電車から出る。
ホームから改札に続く階段を下り、改札を抜けようとしたその時だった。
ピーーーーーーーッ
「えッ?」
何でこんな時に限ってICカードの残金が足りないの?
まぁチャージすればいいか、と思って乗り越し精算機に向かう。
ICカードを入れて足りない分お金を入れようとする。
・・・しかし十円足りなかった。
そういえばお金全然ねぇー!
・・・仕方ないあ綾菜を呼んでお金借りるか。
って僕は何で綾菜を呼ぼうとしているんだ?
携帯なんか持ってないのに。
「・・・途乖、何してるの?」
「えっ?」
聞き覚えのある声が・・・
「どうしたの?まぁどうせ、定期のお金が足りなくてチャージしようとしたけど、その分のお金も無かったとかそんな感じじゃないの?」
ギクッ
流石、幼馴染なだけあるよ。
「仕方ないから私がお金貸してあげる。」
その小さくはない胸部を腕を組んで更に主張させつつ、彼女は言う。
「あ、ありがたき幸せ―!」
「な、なによそんなに畏まっちゃって。」
「い、いえなんでもございません。」
「今の途乖絶対おかしいよ?」
「ですから、なんでもございませんって。」
「あ、わかった。私に何か隠してるよね?」
ギクッ
「やっぱり?途乖って図星だと目を見開くからカマ掛けてもすぐわかっちゃうんだよね。」
そこまで追い詰められたら言うしかないじゃないか。
「わかったよ。綾菜を置いて行ったことは謝るさ。」
「・・・えっ?それだけの事?」
「怒ってない?」
「怒ってないよ?だってさっきまで友達と一緒だったもの。」
「・・・そうなんだ。」
「ほら、早く帰ろ?」
そうだった、ここはまだ駅の中だった。
「十円貸して?」
「ちょっと待っててね。」
綾菜は財布の中から十円玉を取り出す。
「はい。」
「サンキュー。」
乗り越し精算機に十円を入れてチャージ完了。
ICカードを取り出し改札を通る。
ピピッ
無事通れた。
「いやー、あのまま通れなくて綾菜がここに来なかったら,倒れてあそこで寝てたよ。」
「・・・そんなことしてたら駅員さんに怒られるよ?」
「そうならなかったし、もうどうでもいいや。」
「途乖ってさ、その場その場で投げ槍に行動するけど、そんな風に生きて行ったらいつか壁にぶつかるよ?」
「ぶつかったらぶつかったでその時どうにかするよ。」
所詮人生なんて、未来を予測できるわけじゃないし、その時その時を上手く切り抜けていくのが楽じゃないかな?
「・・・まったく、途乖は。」
「今なんか僕、変なこと言った?」
「やっぱり途乖は適当だよ。」
「そうかなぁ?ところでさ、今更だけど綾菜はなんで僕と一緒にあんな危険な学校に来たの?」
「もちろん途乖が学校で孤立しないため。」
なんで、僕がぼっちになるって決めつけてるのかな?
「僕だって友達の一人や二人ぐらい、そのうちできるさ。」
「そのうちでしょ?一年以上孤立してるとみんなの輪から外れちゃうよ?」
「・・・話を戻すけど、綾菜の学力だったらもっと良いとこにも行けたんじゃないの?」
「学校なんてどこに行っても結局最後は自分の努力次第だからそれなら途乖と一緒の学校がいいなぁって思って。」
「へぇーやっぱり頭の言う人のことは違うなぁ。」
「途乖はさ、本気を出せば私なんかより全然凄いじゃない。例えば小学六年生の時とか。」
「あれはまぐれだよ。じゃ、じゃあねー!」
「あっ、逃げた。」
僕は綾菜の住む左豐家の正面にある自分の家に走って向かう。
全国規模のテストを途中まで頑張ってやってたんだけど、全然わからなくなって適当にマークシートを塗りつぶしたら満点取っちゃったってだけで本当にまぐれなんだよなぁ。
その日のために努力して来た人には申し訳ないけどね?
ガシャッ ガチャッ
・・・元から鍵開いてたんかい。
ガシャッ ガチャッ
「ただいまー。」
「おかえりー。」
妹の瀬恵が、出迎えてくれる。
「夜ご飯出来てる?」
「ううん、まだできてないよー?」
「じゃあお兄ちゃんが作ってあげるよ。」
「えぇー、お兄ちゃんが作るの美味しくないから、食べたくないー。」
「じゃあお姉ちゃんがくるまで待とっか。」
「うん!お兄ちゃんちょっと待ってて。」
ダッ
妹がどこかに走って行ってしまった。
「・・・そんなに僕が作るご飯美味しくないかなぁ?」
やんわりと言われるとそれはそれで傷つくけど、ストレートに言われたら言われたで辛いなぁ。
タッタッタッ
「お兄ちゃんこれ手伝ってー。」
戻ってきた妹が持っていたのは大量の宿題の山だった。
まぁ小学生レベルの問題だったらいくらあっても余裕でしょ。
・・・小学生の問題なの?コレ?
難しすぎない?
なんだよドローンって。
ステルス機の仕組みについてまとめろとか訳わかんないんだけど。
こんなの高校生でもやらないのになんで小学生がやってるの?
まぁ理由は知ってるんだけどね。
うちの妹は世界最高峰の頭脳と知恵を持つ。
「あぁーもう分かんない。」
「えぇー?お兄ちゃんそんなのもできないの?高校生なのに?」
「高校生がこんなのできてたまるか。」
僕が頭を抱えて文句を言っている間、妹はスラスラと問題を解いていく。
「なんでそんなに難しい問題解けるの?」
「これが格差なんだよ。」
兄と妹に格差与えすぎだろ神様。
これじゃあ天と地の差はあるよね。
「ただいまー。」
おっ、姉ちゃん帰ってきたか。
「何やってるの、途乖?」
「小学生(?)の宿題の手伝い。」
「ご飯食べたの?」
「僕が作ろうとしたら瀬恵がおいしくないから作るなって。それで、姉ちゃんを待た。」
「そうなの?じゃあパパッと作っちゃうね。」
「ほーい。」
うちの姉は大学生で大抵のことならそつなく何でもこなす。
そして妹は小学生なのにとてつもなく頭がいい。
けれど、間の僕は何も取り柄がないと言っちゃあなんだけれども本当に取り柄がないのである。
きっと、二人に長所取られちゃったんだろうな。
・・・こんな環境に居ると間違いなく僕はダメ人間になるなぁ。
まぁ今のところ逃げようがないんだけれどもね。
「途乖ー!瀬恵―!ご飯出来たよー!」
「はーい!」
「おーけー!」
我が家の食卓に並ぶのは美味しそうな野菜炒めと、味噌汁。
後、白ご飯も。
シンプルだけれどもそういうのが僕は好きなのだった。
「やっぱり莉仍姉ちゃんが作るご飯は美味しいね。」
「そりゃそうよなんてったって私が作ってるんだもの。」
実に傲慢だけれども事実に違いはなかった。
この人は僕の姉だけれども、世界最高峰の家事の使い手でもあるのだった。
でも、一見しても二見してもただの、大学生にしか見えない。
「あ、お風呂沸いてる?」
「まだ沸かしてないよ?」
「じゃあ沸かして?」
「ほーい。」
こんな感じで僕はおうちの中で一番立場が低く、良くパシられる。
・・・悲しいなぁ。
ふつうのお家で暮らしてみたい。
そんな些細なことが僕の夢だったりする。
「はふぅー。」
お風呂は癒されるなぁ。
一日の疲労をしっかりとれるのはいいよね。
お湯による浮遊感が好きなんだよね。
この家で唯一リラックスできる場所なのだった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おやすみなさい!」
「おやすみー。」
「おやすみ。」
タッタッタッ
瀬恵が自分の部屋に向かう後姿を見ながら一言。
「瀬恵ってさ世界最高峰の頭脳を持ってるからって変に威張ったりしないで年相応の態度をとるよね。」
「そりゃまぁ子供だしね。」
そんなもんかな?
「じゃあ僕も寝るからおやすみー。」
「おやすみ。」
僕はお家の中で一番地位が低いので、自分の部屋は無い。
なので、一階のリビングに布団を敷いて寝るのだ。
「ふぅ、いつもの事とはいえ、二階から毎日布団を運ぶのは辛いなぁ。」
もしかしてだけど体が痛いのってこの行動のせいなんじゃない?
多分そうだ、そうに違いない。
でも、この生活を変えることは出来ないんだよな。
変えようとした日にはあの二人が黙ってないからね。
妹のほうはご自慢の知識量を生かして僕を黙らせるだけではなく、マインドコントロールして来るし、姉は姉で僕に食事を作ってくれなくなるどころか、お家に入れてくれなくなるんだよね。
両親は小学校を卒業した後に夫婦で温泉旅行に行ってくるって言ったきり帰ってこない。
なので僕は妹と姉の思うがままに操られているのだった。
でも僕は気にしていない、っていうのも妹の暗示のせいかもしれないけど。
考えれば考えるほどこの家異常だな。
リビングの端っこのほうに布団を敷くと、さっさと寝ることにした。
朝の陽光が顔に指していることに気づいた僕はぼやけた視界のまま洗面所へと向かう。
冷たい水で顔を洗うとだんだん視界が鮮明になる。
とりあえず妹と姉を起こしに行く。
まずは朝食を作ってもらうために、姉の部屋のドアをノックする。
コンコンッ
「姉ちゃんー朝だよー。」
「ん、わかった・・・。」
今ので起きたのか怪しいけれど、部屋に入るわけにはいかない。
何故なら姉は寝相が悪く、いろいろなところが見えちゃってるからだ。
次は妹だがこっちは低血圧で朝に弱いため、早めに起こさなければいけない。
世界最高峰の頭脳が朝に弱いなんてね。
コンコンッ
「瀬恵、朝だぞ。」
「ふぁーい、わかったー。」
そして僕も着替えとかいろいろあるので一階に戻る。
学校の制服って動きにくいよね。
腕の動きとかかなり制限されるし。
どうしてなんだか。
「どうしたの途乖?」
「いいや何でもないよ。」
「ふぅん。」
綾菜と一緒に電車で学校に向かう途中。
車内には僕と綾菜とあと一人女の子のみがいる。
閑静な住宅街にぽつぽつと雑居ビルが入り乱れる。
そんな光景をぼーっと眺めながら僕はこんなことを思う。
どうして僕は正面の女の子にじーっと見つめられてるの?
しかも手を注視してるよ?
そんなに僕の手って珍しいかな?
そう思って僕も手を見てみる。
なんと、ボクの手には手錠がかかっていた。
「何で!?」
「こらっ、途乖、電車で叫ばないの。」
「あのそれ僕の手首見てから言ってよ。」
「ん、手錠がついてるけど・・・えぇ!何で!?」
「そんなの僕にわかるわけないじゃん。」
「あ、・・・一週間に一回ぐらいは行ってあげるからね。」
「僕刑務所に行かないからね?っていうかそもそも警察の人いないし。」
「じゃあなんで途乖は手錠付けてるのよ。」
「わからないよ!」
はぁ、どうしたらいいんだか?
ん、そういえばなんで僕が気づいていなかったのに正面の人気づいたんだろう?
普通気づかないよね?
何だか怪しいなぁ。
取りあえず、横で慌ててる綾菜をほっといて、正面の人を見つめる。
正面の人は僕の視線に気づいたのかこちらを見てくる。
そして、
バッグからスマートフォンを取り出した。
何をする気なんだろう?
カメラのシャッターの音が聞こえた。
写真撮られたー!
SNSに上げる気なのかな?
ちょっとそれはやめてほしいなぁ。
なので、僕は立ち上がる。
「あのー、さっき僕の写真撮りました?」
「あー、うん撮ったけど?」
「その写真どうするの?」
「友達に送った後、ネットにアップする。」
「完全処刑コース!?」
「いやー、アップされたくなかったら、私の言うことを聞くこと。いい?」
これがいわゆる脅しってやつかな?
「僕からお金を搾取しようとしてるの?」
「勿論、そのつもりだけど?」
・・・この子もついてないね、こんな金欠の僕からお金を搾取しようとしてるなんて。
「残念ながら、僕は全然お金持ってないよ?」
「はっ?・・・その手には引っかからないわよ?」
「いや本当だって、昨日なんか危うく駅から出られなくなるところだったし。」
「・・・ププッ、それマジ?」
「そうだよ、だからさっきの写真消して?」
「えーっ、どうしようかなー?」
うぅ、さっさと消してくれ。
「早くしてくれない?」
と言って、僕は彼女に詰め寄る。
しかし、手が固定されているため、うまく歩けず、転ぶ。
・・・その女の子に向かって。
「わわっ!」
「ひゃ、ひゃあ!」
僕の顔面は思いっきり彼女の胸部にぶつかる。
大きいという訳ではないがそこそこあるのか、いい感じにクッションになってくれた。
視界が彼女の服で埋まって見えない中、僕は後ろの綾菜が立ち上がる音が聞こえた。
そして、歩いてくると、ボクの横っ腹を思いっきり蹴り飛ばした。
「ぐはぁ、ゲホッゲホッ。」
何とか、女の子の胸部から離れること出来た。
その代わりに僕はおなかを蹴られた。
「と、途乖!何してるの!?」
なんか綾菜さん僕を蹴っておいて更にお怒りみたいなんですけど、何で?
「きゃ、きゃあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
女の子今更悲鳴上げてるし。
取りあえず、どうにかして立ち上がろうとする。
座席に腕をのせ、体重をかけて立ち上がる。
「・・・これってどうやって収集つけたらいいの?」
「途―乖―?」
綾菜さん、顔は笑ってるのに目が笑ってないっすよ?
「わ、わかったわ!手、手錠の鍵外すから。」
この手錠掛けたのやっぱりこの子だったんだ。
「・・・」
遂に綾菜さん何も喋らなくなっちゃったよ。
そして、
ガシィッ
僕の顔面をがっしりと掴みました。
その横で女の子があたふたしながら、懸命に僕の手錠に鍵を差し込もうとしている。
けれども全然うまく入らない。
手伝おうとしても、綾菜さんが掌で僕の視界をふさいでいるせいでうまくできない。
「あのー綾菜?何で僕の顔面を掴んでいるの?」
「それはねー途乖がこの子に対して酷いことをしたからお仕置きをしてるの。」
「はぁ、さいですか。」
そろそろこめかみが痛くなってきた。
「そろそろ放してくれない?」
「だーめー。」
はい、しばらくこのままらしい。
「そろそろ鍵、解錠できそう?」
「・・・はっ!ま、まだです!」
こちらもしばらくこのままのようだ。
この光景傍から見るとアブナイことをしているようにしか見えないよね?
早く終わんないかなぁ、コレ。
「鍵、出来た?」
「あ、後少しです!」
なんで、ただ鍵を差し込むだけのものにこの子は手間取ってるんだか。
っていうか、綾菜さんの爪が皮膚に食い込んできてかなり痛いです。
「綾菜、もうちょっと手緩められない?爪が食い込んでかなり痛いから。」
「だーめ。」
うぅ、僕どうなっちゃうの?
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