1話「祝人間卒業」

 んん...?

 突如として覚醒する意識。

 頭痛がひどく、酔ったような吐き気と倦怠感。

 俺は確か...轢かれて死んだ筈じゃ...?

 もしかして、ギリギリ生き残ったのか...?

 それならここは病院の中なのか?

 俺は頭痛を訴える脳で必死に考える。

 視界は真っ暗で、全身の感覚は無い。脚や腕は動かせる気がしない。

 少しずつ戻ってくる全身の感覚。と、同時に耳鳴りが始まる。

 かすかにひんやりとした冷たさを感じる背中。一瞬ベッドかと思ったが、違うようだ。

 少なくとも平面ではない。むしろゴツゴツしていて少し硬い。

 俺は起き上がろうとするが、なにしろ脚の感覚は全くない。

 まさか、切除されたのか?俺は有り得ない考えをして、少しパニックになる。

 落ち着け俺。俺は脳をフル回転して考える。

 だが情報収集手段が少なすぎた。

 視覚はない。聴覚もあるか怪しいところだ。

 脚と腕は無いことは受け入れた。だがしかし、なぜか動いているという感覚だけはある。

 つまり今現在俺は、人型ではない動く生物なにかなのだ。

 泣きたい。この歳で人間を辞めてたまるか。

 俺は体を動かしてみる。

 一歩歩く?たびに謎の浮遊感があるが、嫌というほどではない。


 10分程そこらへんを歩き回ったのだが、大して何もない。

 だが一つ、少し驚いたことがあった。

 ここに人間が来た事、だ。

 ギィ、という音が聞こえた後、走るような音が聞こえて、何故か俺は爆散した。

 おそらく何かで攻撃したのだろう。そして満足したのか去って行った。

 そして数分後、俺は一つにまとまって元に戻った。

 このことから二つのことが分かった。

 まず一つ目!ここに人間が来るということ。

 そして二つ目!俺はおそらく、おそらくだが、スライムである。

 確信はないのだが、歩いてるときの感覚といい、爆散してもとに戻ったりする...

 どう考えてもスライムですねありがとうございます!

 つまり俺は今、あの青くて頭のとがった液体状の生物なのだろうか。

 そうすると、俺って超弱いんじゃね!?

 まて、固定概念からの決めつけはよくない、俺は強い!(可能性がある。)

 俺は強いスライムは強い俺は強いスライムは強い・・・


 俺は5分程自分に言い聞かせた後、動揺する気持ちを抑えて、思考を開始する。

 ここはおそらく異世界である。

 まず俺は今スライムである、と。

 そして、ここに来る人間は俺に敵対してる、と。

 んでとどめに、俺は目が見えない、と。

 うん。詰んでる。最悪の状況である。

 視覚がない限り確かめる方法はないが、この推測は99%正しいだろう。

 だが俺はおそらく、死なないのだ。考える時間はたっぷりある。ゆっくりと考えるとしよう。


 考え始めてから、3時間程考えたのだが、

 この状況を打開する方法は見つかっていない。

 俺は目が見えないうえに一人である。

 情報収集手段がないのだ。

 そうそう。3時間の間に何人か人間が来たのだが、スルーするか爆散させるか

 どちらか一つを確実に行っていった。

 爆散させられても痛くもかゆくもないが、時間の無駄になるのでやめてほしい。

 くそ~。目が見えるからって調子に乗りやがって~!

 俺だって視覚があれば......


 《スキル:嫉妬之蛇レヴィアタンの行使要求を確認しました。

 人体への変化を開始しますか?》


 突如として俺の脳内に流れてくる機械音声。

 俺は冷静に発せられた言葉を危うく聞き逃すところだった。

 え?今なんて??

 俺は突如として挙げられた提案に、驚いてもう一度聞く。


 《スキル:嫉妬之蛇レヴィアタンの行使要求を確認しました。

 人体への変化を開始しますか?》


 俺は機械音声の正体なんて気にする暇もなく、聞き入ってしまう。

 どうやら、人間に戻れるようだ。ヤッター。

 だが信じられない気持ちが多いのである。

 ここでハイ、と答えても人間になれるかすら...


 《了承と受け取ります。人体の構築を行います。》


 またもや突如として脳内に鳴りひびく機械音声。

 おや?勝手に了承したことになってしまった。

 まぁ人間になれたらなれたで嬉しいぜひゃっほう!!なので、期待して待とう。


 《人体の構築に失敗しました。》


 失敗したんかい!

 俺に声が出せるなら確実に叫んでいただろう。

 期待させておいて一気に冷めさせるのが上手過ぎる。

 おそらく真面目に人間にするつもりだったのだろう。だが失敗した、と。


 《代行措置として、視覚と味覚の構築を実行。成功しました。》


 え?

 とてつもなく重要なことをすんなりと言ってくる機械音声さん。

 なんて?視覚・・・の構築を成功?なんですと??

 えええぇぇーーー!?

 視覚があれば別に人体にこだわる必要は無いんですけどー!?

 結果として、この機械音声さんはとても優秀なのだろう。信頼してもいいかもしれない。


 視覚を得てから1分後、ようやく目が見えるようになった。 

 どうやらここは洞窟のようだ。だがただの洞窟ではなく、正方形のような形。

 端から端まで、ギリ見渡せるくらいの広さである。

 部屋には天井、壁、床関係なく青い鉱石が大量に生えている。

 青緑色に輝く鉱石は、価値の高さを物語っているように見える。

 これは間違いなく高価であると判断した俺は、発掘をしようとしたのだが、

 よく考えたら発掘する道具がないので、泣く泣く諦めた。

 だが、食べることはできた。

 何となく体で覆っていると、溶けて俺の体に吸収された。

 甘くて美味だった。


 んで、部屋の端にある鉄製のドア。

 見た感じとても風化してあるが、使えないというほどでは無いように見える。

 強固な見た目は、何かを封じるような雰囲気を漂わせている。

 いったい何を封じているというのだろうか、

 ここには俺しかいないというのに...


 さっきの機械音声さんのことだが、素朴な疑問がある。

 こちらから話しかけて反応してくれるのだろうか?

 試しに話しかけてみることにする。

 おーい?聞こえてるー?

 ・・・・・・

 こちらの問いかけには応じてくれないようだ。

 思い返せば、機械音声さんは何者なのだろうか。

 前世の死ぬ間際にも何か言っていたし...

 機械音声さんが話してくれると、俺からしても色々と便利なのだが、


 《なんなりとお聞きください。》


 急に反応してくる機械音声さん。

 きっかけは何かわからないのだが、こちらの問いかけにはたまに答えるようだ。

 だが、別に何か聞きたくて読んだわけではない。

 読んどいて、「さよならー」って言うのは失礼だし、適当に質問するか。

 俺の強さ、とかわかる?


 《強さ、を能力値ステータスと定義しお答えします。

 名前:なし

 二つ名:キルト=ヘイルミス  

 種族:スライムロード

 Lvレベル.32

 攻撃力:12

 守備力:64

 持久力:3014

 俊敏性:3144

 複合スキル

 ・怠惰成者ベルフェゴール【能力弱化・精神汚染・物理攻撃半無効化】

 ・嫉妬之蛇レヴィアタン【能力複製・混沌創造・空間操作】

 ・天知総才ヘルメス【全知全能・未来予知・過去想起】

 固定スキル

 ・痛覚軽減【肉体的苦痛の軽減】

 ・超加速【俊敏性の限界突破】

 ・スライムロード【同種族を召喚〔上限一体〕】》


 ほ、ほぅ。

 適当に聞いたつもりなのに、強さを能力値ステータスと結び付けて、

 詳細まで教えてくださった。

 だが、思わぬ幸運だ。自分がどのような能力を持つかが知ることが出来た。

 まず、攻撃力など。

 おい攻撃力、お前ふざけてんの?何?12って。攻撃する気ある?

 持久力様と俊敏性様を見習えやおらぁぁぁぁぁぁぁ!

 次にスキルだが、

 複合スキルと固定スキルの二種類がある。

 俺の勝手な理解では、おそらく複合スキルが一つで複数の効果を持つスキル、

 固定スキルは一つにつき一つの効果を持つスキルのことだろう。

 複合スキルは難しい言葉が多すぎるから無視するとして、

 スキル:超加速。が俺の俊敏性と持久力を上昇させているのかもしれない。

 そう考えると、スライムは元々平均ステータスが低かったのかもしれない。

 だが、攻撃力。お前はだめだ。

 んで、種族:スライムロード??

 俺はいつの間に王様になったのだろうか。

 なんとスキルにもスライムロードなるものが存在する。

 同種族を召喚??攻撃されるのは嫌だしやめておこう。


 よし。これだけ自身の能力がわかればやることは一つ!


 この部屋から、出ることだ!!

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