第18話
かわいいマリーへ。
お手紙ありがとう。元気そうでよかったわ。私も、もちろん元気よ。マダムも年の割には元気で働いているし、こっちの心配はしないでね。
手紙が届くたびにうれしくて、何度も読み返しているわ。どんどん文字がキレイになっていくので、マリーもがんばっているんだなぁとうれしくなります。がんばっている女の子はね、とってもかわいいの。だからもっとがんばって、レギオンが困るくらいのかわいい女の子になりなさい。
村でもどうにかやっていけているみたいで、安心したわ。リュカ君だったかしら。お友達もできたみたいね? リュカ君は、つらい恋をしているのね。マリーにはわかったかしら? わかったんだとしたら、あなたも少し大人になったっていうことよ。
それにしても、マリーからの手紙には、レギオンのことばかりね。少し妬いちゃうわ。
胸がきゅうっとなるのも、苦しくなるのも、答えはひとつよ。私が教えてしまうのは簡単だけど、自分で考えることが大事。それに、マリーはたぶん分かっていないだけで気づいていると思うわ。よぉーく、考えてごらんなさい?
大事な人ができると、人はワガママになるんだと思うの。マリー、だからワガママなのは悪いことじゃないわ。それだけ、その人が大事ってことよ。
マリーのいうとおり、レギオンは少し自分のことを考えたほうがいいわね。でもマリーがレギオンのことを考えてあげるなら、バランスはとれるんじゃないかしら。レギオンはあの年だし、もう簡単に自分を変えることはできないもの。だから、マリーがレギオンのことを思って、大事にして、そしてレギオンがあなたを甘やかして。それで、ちょうどいいんじゃない? お互いを想い合っているって、とても素敵だわ。
マリーがマリーのことがわからないでいるように、レギオンだって同じかもしれないわ。自分の気持ちっていうのは、自分では見えないものだもの。いちばん近くにあるから、かえって見えにくいのかしらね。
ねぇマリー、ひとつだけ、覚えていてほしいの。
あなたは遠くへ行ってしまうけど、私たちはどんどん離れていくけれど、私はいつだってあなたを覚えているってこと。私はここから離れない。ずっとこの館にいるわ。何年たっても、ここにいる。
あなたがこの国に戻ってくることはないでしょうけど、でも、もし、なにかあった時に、マリーが帰ってこれるように。私は死ぬまでここにいる。必ずおかえりって言ってあげる。それを覚えていてね。あちこち旅して、もしかしたらあなたとレギオンが望む場所なんて見つからないかもしれない。でも、私がいるって思い出して。ひとつだけ、確かにあなたたちが帰ってこれる場所があるから。
だから――うまく書けないのだけど、焦らず、気負わず、探してね。たぶん、レギオンの故郷の人たちだって、私と同じように思っているんじゃないかしら。疲れたら、帰ってきてもいいよって、そう言ってくれる場所があるのとないのとじゃ、ある方がずっと心は楽になると思うの。
二人とも頑固でがんばり屋さんだから、心配なのよ。
あなたたちは、決してふたりきりじゃないのよ。私もいるし、マダムもいる。レギオンの故郷の人たちだっている。ふたりのことだから、ふたりががんばるのは当たり前だけど、ふたりだけでがんばり過ぎることはないんだからね。
かわいいかわいいマリーツィア。大好きよ。いつまでもあなたのしあわせを願っている。
どうかあなたたちの旅路の行き先に、幸福が待っていますように。
愛と感謝と祈りをこめて ラナ
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