決意
伶奈が先にお風呂入るね、といい着替えを手に風呂場に行った。
拓真は一人になった。何もやることがなくなったのでなんとなくテレビをつけた。
画面に映ったのはあのいまいましい記憶を思い起こさせるものだった。
「最近、あのニュースで今話題です。
山形県村上市に浮遊している物体通称UFOのことです。
NANAからの情報では死者は1000にんを超えていて正確にはまだとの情報です。
軽傷者は2900人ほどです。
最近非常に稀にみる災害です。胸が痛んでしまう出来事です。
倒壊の情報はまだ入っていませんが、今後さらに被害は広がっていくと思われます」
テロップに異常災害と出ていた。
原因がわからないので法的には裁くことはできないと言った。
もうみることはできず、テレビを消した。
死者が1,000人を超えている。自分達はそこに含まれていなくてよかった。そう心の底からは思えなかった。
人が死ぬ。
突然悲しみが込み上げてくる。普段人前では見せない姿だった。涙をしたのはいつぶりだろう。
死んだ人への同情か何かわからなかった。
すると風呂場からすすり泣き声が聞こえた。
か細くて耳をすませないと聞こえないほど小さくそして孤独を思わせた。
当然だ。
父を亡くしたことを忘れることなんてできない。
できたとしても何かは残る。もやもやとしたものが。
形にしがたい、なにかが…
伶奈も今日は気丈に振舞っていたのかもしれない。
不安にさせたらいけないと思っていたのか。
武田さんも気を使っていたのかもしれない。ああ見えて結構優しいところもある。人は外見によらないな。
いつも優しく自分の仕事もあるのに1日付き合ってくれていた。
そのおかげで、一時は忘れることはできた。しかし結局は忘れることはできない。
自分達はこの現実を受け止めるしかない。もう、その道しか残っていないのか。そう自分に問いかけるも
答えはでない。
両親はいない。この世界に…
どこにも…
今は、武田さんがいるがいずれはいなくなる。そう思うと悲しくなる。
少ししか共にすごしていないが、存在は大きなものになりつつあるのか。そう思う。
伶奈は、ただひとり泣いていた。どうして、どうしてその言葉だけが頭に浮かぶ。
お父さん、どうしてなんで、どうして…
『死』それは遠いものだと思っていた。ニュースでみてもあまり何も思わなかった
それは多分『他人』だったから。線を引いてたからだろう。それは非情だろうか。そんなのは誰にもわからない。自分には関係ない。関わりのない人が亡くなっても悲しくはならない。誰だってそうだと思う。いちいち悲しんでいたら生きていけない。
ずっと悲しみに暮れていてはいけない。それだと前には進めない。何も始まらない。
湯船に浸かっていても、頭が回らなかった。一人で考えていた。今日。
自分の弱さを見せたくなかった。しっかりしないと。お兄ちゃんは誰よりも繊細な心をもっているから。
だから気丈に振る舞った。安心させるために、不安にさせないために。
でも無理だった。安心させるのは無理だった。所詮高校生といってもまだ子供だ。
大人にはなれない。このままの状態だと。
お父さんがいなくなったのは悲しいしつらい。多分乗り越えられるのは無理かもしれない。この事実からは逃げられない。でもそれでも生きていくしかない。あの父の涙を忘れられない。過去にばかりしがみついていても何も起きない。自分から行動を起こさなくては意味がない。そう思うことはできる。思うことだけは…
部屋の方から泣く声がした。お兄ちゃんだろうか。今は珍しい、とは思わない。そうなんだ。
それだけで少し落ち着いた。この気持ちは私だけじゃない。お兄ちゃんも同じ気持ちだった。同じ思いで生活しているんだ。そう思えただけで少し楽になった。
風呂場からあがって部屋に戻ってくると明かりがまだついていた。カーテンからふく風が静寂を訪れさせる。風の吹く音だけがこの部屋を支配していた。拓真の目をみると赤く充血していた。泣いたんだろう。そう悟った。窓からみえる景色はそこはかとなく、この雰囲気を無視しているかのようにあかるげだった。
「お兄ちゃん、頑張ろうね」
電気を消すと毛布に入った。
伶奈はなかなか寝付けず、寝返りをうっていた。拓真も起きているようだった。「大丈夫、がんばろ」と一言言い静かになった。
伶奈は急に寂しくなり拓真の胸に顔をうずめた。拓真は嫌がらず伶奈を抱きしめた。こちらに引き寄せるように。体温を感じる。腕に力が入っているのがわかる。
いつもはこんなことはしないのだが今はこうしていないと安心できない。
さっき自分で言ったのに情けない。でもどうしようもできない自分が悔しい。
大丈夫、大丈夫と、諭すように言い落ち着かせた。安心したのか伶奈は深い眠りに落ちて行った。
空の街 れもんじゅーす @remonjusu
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