不思議な夢と生活

 



「ここは、どこ…」


 辺りを見回すと野原が広がっている。見る限り一面の野原。さっきまであったはずのテレビやベッドはどこにも見渡らない。

 限りなく続く野原だ。いろとりどりの花が太陽の陽を浴びてすくすくと育っている。

 まるで花たちがおはよう、と挨拶をしているみたいだ。


 拓真はいま夢の中にいるんだと理解して見渡す限りの野原を歩き続けた。

 こんなにも自分を維持していられるのは驚きだ。


 よくできた夢だと思いつつも不思議な感じがした。

 いつも夢を見るときはいきなり場面が変わったり、こんな風に歩けたりはできない。いつもは物事が勝手に進み自分は外から眺めている、そんな感じだ。なのに普通に歩けて、思考もできる。

 そう思っているとふと前方を見て足を止めた。


 何処までも続いていると思っていた野原は途中で途切れ、崖になっていた。

 ゴツゴツとした岩岩が並んでいた。

 そこまで駆け寄って見ると、信じられないものがあった。

 どうしてこんなものが…




 もしかするとここは…!





「拓真!」


 すると不意に背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

 後ろを振り向くと、そこにはいないはずの父と母の姿があった。


「どうしているの…父さん、母さん…」


 だが返事返ってこない。ただ笑みを浮かべている。あのままの姿だ。


 言葉に表すことはできない感情が流れ込んでくる。


 すると体が勝手に動いたのか、急いで両親の元へ駆け出す。


 あと一歩。手に触れたかと思ったが、二人の姿は煙のように消え、行ってしまった。


「待ってよー。父さん母さん置いていかないでー。」


 なんでいつもいってしまうんだ。もう両親はいないはずなのにどうして。


「どうしたの?お兄ちゃん」


 そこには妹の伶奈の姿があった。見たこともない冷たい目でこちらを見ている。

 そんな目で見ないでくれ。

 お兄ちゃん、と駆け込んでくるがまたしてもあと一歩のところで消えてしまった。




 唐突に眼が覚める。起き上がると伶奈の姿は何処にも見当たらない。

 一瞬焦ったが枕元にあるメモを見て安心した。


『食堂に来て!朝ご飯をたべさせてくれるって』


 今日も頑張ろうそう思い、食堂へ向かった。

 着くと武田さんとれ奈が楽しそうに喋っているのが見えた。伶奈もこっちを見つけたのか駆け寄ってくる。


「どうしたの、伶奈」


「あのね、ここで生活することになったの。武田さんが頼んでくれていて許可が降りたんだって。ヤッター」


「そうなんだ。よかった。ありがとうございます。何から何までお世話になって」


「いや、いいんだよ。当たり前のことさ。そうと決まればまずはここ、村上基地の案内をしないとね。普通の人ははいれないところも特別に見せてあげるよ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾」


 そういうと足早に歩いて行った。拓真は、嬉しくてたまらなかった。外に出てみると、航空機が並んでいた。大きい機体や小さい機体、沢山の機体がある。





 最初に案内されたのは、飛行場だった。


 だだっ広い敷地面積を誇る村上基地はたくさんの種類の航空機があることで有名だ。


 その中でも一際目立つ機体があった。


「あれはBー747だよ。内閣総理大臣などの偉い人たちを移動させ要人輸送を行う大型輸送機だよ。でもあれには乗れないね、大臣になれば乗れるかもしれないけど、今は無理かな( ̄(工) ̄)」


 たくまは自分も総理大臣になって乗りたいと思いつつ現実を見た。なれるはずないのに。そう思いながらも心の片隅においた。


「乗れるとしたら…」と少し辺りを見回して「あ!あった。あれはどうかな」

 と指差して言った。


「あれはDー435だよ、主に観光用として使われているんだよ。

 でもそれよりもまずは案内だからね。次の場所へいこう(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾」


 と言いながら歩いていった。たくまは乗りたそうだったが、渋々英治の後をついていった。








 外は暖かく春を感じさせる季節になっていた。しばらく歩くと、指紋認証付きの重厚な扉が見えてきた。


 この基地一帯、外部からの侵入者を防ぐためほとんどの機密内容がある部屋は指紋がないと入れない。

 部外者は受付に入る前に身体検査をし、その後パスをもらわない限り自由に動けないという徹底ぶりだ。


 数年前。まだ指紋認証を導入していない時期に侵入者が入り機密事項が盗まれた。その事件を無駄にしないため1億の費用を投じて導入した。


 それ以来侵入者はきても捕まるようになったということがあった。

 その他にもパスワード、声紋認証、身体検査を隊員もしなければ入れない。


 この扉はチタン合金でつくられており、強度もあり、耐熱、耐久に優れており生半可な攻撃は通らない。

 そんな扉を通り過ぎて行くと休憩所のような場所に出てきた。そこでいったん一休みしようとソファに座った。






「そういえば武田さんって自衛隊をやっていて今年で何年目なんですか」


 とかんがえていた質問をぶつけてみた。


「もう5年目だよ。今は空曹長という役職でまだ幹部じゃないんだよ。僕防衛大学出身なんだけどね。でも次は准空尉でその次は幹部だからはやくいきたいんだけどね。なかなかいけないんだよ。もう困っちゃう|( ̄3 ̄)|」


「へぇ、階級?みたいなものがあるんですね。どういうのがあるんですか?」


「えーと最初が2士で次は1士と年月とともに昇任していくんだよ。航空整備だと「士」というのは、機体の整備や燃料の補給といった基礎的な仕事をやる人だよ。「曹」というのは、より高度な技術と経験を要する整備の仕事をやる人たちのこと示すんだ。一番偉くなると将官という階級になるんだ」



「へぇ、じゃあ武田さんは航空機整備の仕事をしているんですか?」


「いや、僕はこう見えても『飛行』という職に就いているんだ。だから今は、輸送機や救難機などの操縦をしているんだよ(((o(*゜▽゜*)o)))」


 見た目で判断しては行けないと思った瞬間であった。


「そうなんですか!全然見えませんでした。なんかもっと地味な仕事の就いているのかと思いました」


「結構そう思われがちなんだよなぁ。飛行は結構危ない面もあるからさぁ。

 あ!あの人は。たった3年で一等空佐になった人だよ\\\\٩( 'ω' )و ////」


 とまだ幼さが残る顔立ちをした人を指さしながら言った。幼いが少しクールな感じがして好感が持てる。

 よく見てみるととても幹部には思えない優しそうな顔立ちだ。


「あの人は有馬一佐だよ。普通では3年で幹部なんて無理なんだよ。たった3年でなんて、自衛隊の幹部だなんて。 知らないない人なんていないんじゃないかなぁ、上が特例で昇任したらしい天才航空自衛隊員だよ。あの若さで幹部だなんて羨ましいよ。

 筆記テスト満点、実技テスト満点で入隊したらしいんだけど、入隊してすぐに出動命令が出されて有馬一佐がほとんど解決したらしいんだ」


 有馬一佐がこちらに気が付いたのか、お辞儀をしてくれた。


「武田曹長、おはようございます。それと高城拓真さん伶奈さんも困ったことがあったら言ってくださいね」


 と挨拶をしてくれた。有馬一佐は階級関係なく敬語でしかも美形なので女子隊員にモテる。


「私、将来自衛隊に入りたいな」


 と、唐突に言うので


「ま、なれるんじゃないの。頑張れば」


 とそっけなく返した。


「じゃあ次は僕の部屋をみせてあげよう。ついてきて」


 と立ち上がり3人で英治の部屋に向かった。

 指紋認証付きの扉を開けて中を見てみると布団や家具が整頓されており拓真たちが思っていたより清潔だった。


 布団がきちんと畳まれており床にはゴミひとつなかった。なにかあったときのため、常に動けるようにしとかなきゃいけないらしい。それは基本中の基本だそうだ。

 ここは一人部屋で陽が窓から差しこんでくる。


「うわぁ、凄いきれいにされてますね。私の部屋なんか床一面に物が散乱していて。 

 なんか一人だともったいないくらい広いですね」


「空曹長になると一人部屋になるんだよ。『士』だと6人で一部屋使って『曹』だと3人で一部屋使うんだよ。最初のころは狭かったけど今では一人だしね。物足りなさが感じられるよ」


 と

 昔を懐かしんでいるようだった。


「あ!あれって武田さんの私服ですか」


 と壁にかけてあった服を指しながら言った。


「そうだよ、あれははじめての給料をもらった時に買った服なんだけど、普通こういうときって両親に何かプレゼントすると思うんだけどもう亡くなったから…」


目線をあの服にそらした。

 なんか空気が重くなってしまった。


「ごめんね、こんな暗い話しちゃって」


「いえ、大丈夫です。何か病気ですか」


「癌だよ。やすらかに逝ったよ。その時は悲しかったよ。こんなにも人は簡単に死んでしまうかって…

 でも今はもう乗り越えたよ。ずっとくよくよしてちゃ何も始まらないから」


 棚に仏壇がおいてあったので許可をとり拝んだ。


「そんなことよりもまだお茶を出してなかったね。今出すから」


「いえ、ありがとうございます」


 お茶をコップに注ぎ二人の前に置いた。


「あ、そういえば拓真君たちって今何年生?」


「僕は高2で伶奈は高1です。どっちも陸上部にはいっていました」


「へぇ、陸上に入ってるんだ。僕はバスケに入ってたんだ。リングにシュートしてボールが入って『君才能あるね』って言われて入ってたんだけどそれ誰にもいっててなんか騙された気分だったよ」


 と、笑いながら言った。

 部員捕獲のためだろうか。たまにそういう話は聞いたことがある。なんかのドラマでやってたっけ?


 3人はお茶をすすりまた話を続けた。

 英治は自分の過去の思いで話をしたり拓真のクリスマスの話をしていった。














 気がつくと陽がかたむき夕方になっていた。窓から西日が差し込み部屋を茜色に染める。優しい夕日が見える。いつも同じにみえる。少しは違うのだろうか。だいぶ話し込んだようだ。お腹が減った。


「もうこんな時間になっちゃったな。食堂で夕食を食べにいこう」


 部屋を出て食堂にむかった。途中あの有馬一佐とすれちがったが、仲間と談笑していた。






 中に入ると隊員たちで賑わっていた。


 食堂は幹部と曹士で分かれておりいまいるのは曹士のほうだ。今の時代自分が食べたいと思ったものを口に出せばそれを自動で作ってくれる機械が開発されており既に販売されている。



 ということは毎日自分の好きなものが食べられるということだ。しかし栄養もしっかり摂らなければいけないので、野菜もその料理にあった料理が出される。たくまはカレーを注文しれなはオムライス、英治はカツ丼を注文した。料理は約3分後にでき上がり野菜もセットでついてきた。3人で一緒に「いただきます」をし食べた。


 家よりは少し劣るがそれでも十分美味だ。あのお母さんの味を思い出してしまう。いわゆるホームシックというやつだろうか。


 過去の味だとしてもまた食べたいと思ってしまうのは子供だろうか。でもそれは、断じて否である。人間、愛情のこもったものは好きになるものである。でも今はできない。あの料理を再現するのは多分もう無理だろう。


 気がついたことがひとつだけある。

 男性隊員のほとんどがカツ丼を食べていた。


「どうして皆さんカツ丼を食べているんですか?」


 と拓真が英治に尋ねた。


「あーそれはスタミナがつくからだよ。いつも結構体力を使うから食べておかないと体が持たないからさ」


 そんなにも使うのか。この時初めて自衛隊の苦労?みたいなものを感じた。


 食べ終わると英治と別れ自分達の部屋へとむかった。

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