KADOKAWAの社長の本を読んでたら、ネットコンテンツはマンネリ化していくと言っていた
坂崎文明
ネットコンテンツはワンパターンになっていく
コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと (NHK出版新書) 新書 2015/4/10
川上 量生 (著)
「コンテンツは現実の模倣である」という話から始まるKADOKAWA社長の川上 量生氏のジブリ修行本である。
ヒットコンテンツを創り続けるジブリの宮崎駿氏の話が中心だが、「小説家になろう」とか僕もファンである「中島梓の小説道場」(中島梓は作家、栗本薫の評論時のペンネーム。実は筒井康隆や平井和正など作家論作品評論でデビュー注目された)の話とか出てきて面白い。
基本、ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫氏にひっついて修行していて、ヒットコンテンツの秘密を探ろうという本だが、「小説家になろう」の例を挙げて、多様性を求めるはずの<ネットコンテンツはワンパターンになっていく>という話が出てくる。
読者、ユーザーというのは小説家が気にしてる細かい表現ではなく、「わかりやすいコンテンツ」を求める結果、コンテンツは次第にワンパターンになっていく傾向があるという。
僕も今回の文章で同じことの繰り返しばかり書いてる訳だが、タイトル、あらすじ、本文と同じことしか言ってない(笑)ちっとも話が進まない。
そんな、三回も四回も繰り返さなくてもいいだろうと思っていたのだが、それは違うらしいのだ。
「小説家になろう」のタイトルが似通ったものになるのはそういうことらしい。
つまり、面白い物語のパターン、ストーリーは限られているので、ネットで多くのコンテンツを集めて競争すると、読者にとって分かりやすい表現を追求していくと、同じものに落ち着いていって、ちょっとしたズレで勝負するしかなくなっていくようです。
これは主観的情報量と客観的情報量の違いなのだが、宮崎駿氏は好きなものを大きく描くそうで、これは一般的にはデフォルメと言われていますが、そうすると、「見ていて気持ちいい絵」になるそうです。
例えば、
この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる 作者 土日 月 ★2089 ファンタジー
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881165840
カクヨムでファンタジーランキングに上がってきて、たちまち書籍化されたこの作品ですが、まだ最初しか読んでないですが、「慎重すぎる勇者の性格とそれに翻弄される女神の物語」を軸に話が展開していきます。
たぶん、「どんどん勇者の性格の異常性が高まっていって病気レベルになる」という展開を予想していますが、タイトルからも想像がつきますが、そこがとにかく面白いという部分にスポットライトが当っています。
「読んでいて気持ちいい小説」なんだろうなと想像されます。
最初の女神と勇者のやりとりから嫌な予感(そこが面白いのだが)しかしない訳ですが、読者の期待感はその一点に集約されています。
会社から疲れて帰って来て、複雑な小説など読みたくないし、どっちかっていうと動画でもだらだら観たいと思うが、何か面白いネット小説でもないかな?と思って読むには最適な小説でもある。
「この小説はこのテイストでいくよ!」という導入が上手くいけば、その「快感、気持ちを繰り返し味わい」たくて、続きを読みたくなって、そこからが作者のストーリー展開とか、腕の見せ所なんだと思う。
ただ、そこの面白さは「慎重すぎる勇者の性格に翻弄される女神」という構造は変わらずに、新キャラ、敵などが絡んできてというパターンになっていくと思います。
僕が「弱虫ペダル」を何度も観てしまうのは、そういう「感情の中毒性」があるんじゃないかと思う。
僕は伝奇、歴史小説が好きなので、こういうテイストで歴史小説書けないかなと思ってます。
カクヨムSF部門の大賞の「横浜駅SF」などもノリというか、テイスト的にはJRのSUICAなど非常に日本人に馴染み深い、鉄道の話をテーマとして展開してるので、非常に分かりやすい導入部だと思います。
主観的情報量というのは「脳が認識できる情報量」で、客観的情報量がいかに正確、多くとも、そもそもそれは「脳にカットされる情報」なのであまり意味が無いということになります。
だけど、その余分な情報は「DVDなどの繰り返し消費されるコンテンツ」を楽しむためには必要な情報でもあり、押井守、庵野秀明氏などは、作品に意識的に過剰な情報を盛り込むような創作方法を取っています。
これはコンテンツの陳腐化を防ぐ方法でもあります。
作者にとって、作品の出来としてはそこは「こだわりたい部分」なんでしょうが、読者にとっては「どうでもいい部分」「脳的にはカットされる情報」になります。
ただ、マニアな読者にとってはそこが良かったりする。
古代史ファンの僕のような者にとっては、「ラスト・シャーマン」の古代の大阪湾の地図にちゃんと「河内湖」があって、今の大阪の市街がほとんど海の中だったという解説がツボだったりする。大阪城が建ってる上町台地は半島だったりします。
http://ncode.syosetu.com/n9389by/8/
吉備の穴海
http://www.geo-fujita.jp/okayama/anaumi.html
吉 備 王 国 史 1.古代吉備の大地(当時の海岸線と古墳の地図)
http://17.pro.tok2.com/~kmlife/it-town/minamishinogoze/rekisi/rekisisabu-a/kibikokusi/kibi-rekisi.htm
僕が住んでる岡山県の約6,000年~7,000年前の岡山平野は海でしたという地図をみた時の驚きは凄かったというか、岡山の大都会、岡山市と倉敷市が海中にあって、内陸の吉備津神社のある吉備の中山が船着場だったりするんです。
吉備津神社の回廊が妙に山に沿って長くて、これ船着場みたいと思ってたのだけど、事実だったようです。
http://www.kibitujinja.com/map/
駐車場はかつては船だまりで、その名残りの池もあったりします。
当時の古墳は海岸沿いに建てられてたのが、河川の堆積作用と干拓などで平野が出来てすっかり内陸部になってしまってます。
吉備津神社のある吉備津(「津」とは港という意味。当時は港だった)まで内陸に40~50キロ、自動車で1時間はかかる距離です。
南部は干拓ですが、そこまで全部、河の土砂で海が埋め立てられた訳ですね。
児島、高島、早島という地名が内陸部にあるのは、そこがかつては島だったという名残だったんですね。
という僕にとっては重要な「主観的情報」ですが、読者にとっては一部の方を除き、どうでもいい「客観的情報」をお送りしました。
川上 量生氏の会社ドワンゴは「ニコニコ動画」のヒットで有名だが、着メロがヒットしてた時代があり、その当時のヒット着メロは「音が割れてても、メロディは単純で大ボリューム」の方がいいという傾向があったそうです。
音大生などは「音が割れてない、細かい楽器がはいっている繊細な音楽」を創るそうですが、一般人は細かい楽器など聴き分けられないし、かえってうるさく感じるそうです。
結論をまとめると、「読者と感情的にシンクロする作品」の導入部をいかに作り上げるかが重要で、ストーリー、理屈はあとから複雑化してけばいいということになります。
それは読者の「脳が認識しやすい、わかりやすく、快感、共感をもたらす」一転突破の表現になっていくんだろうなと思います。
この物語で「読者がどういう気持ちになって欲しいか?」が鍵になるように思います。
「食欲」「性欲」などを刺激する隠された記号的隠し味も重要なようですが、AIの話も出てくるし、創作論として作者向けのおススメ本です。
KADOKAWAの社長の本を読んでたら、ネットコンテンツはマンネリ化していくと言っていた 坂崎文明 @s_f
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