共同生活1日目

捨て猫を拾うように、一人の少女を拾った拓海はずぶ濡れの少女を風呂場に押し込み、朝食の準備をする。



時刻は午前7時過ぎ。



明け方に目が覚め、煙草を吸いがてら近所の見回り。


いつもの日課で、何事もなく過ぎる筈だった。


今日は生憎の雨で、憂鬱な1日になるだろう。


そう思い、路地に視線を移した先に由姫がいた。



「あーー……、孝広にどう説明すっかなぁ〜」



犬猫を拾うのとはワケが違うのだと、説教されると覚悟して、作り終えた朝食をテーブルへ並べていく。



「…………美味しそう」



いつ風呂場から出たのか、指を咥えた由姫が側に立っていた。



「……髪濡れてる。

あと、出たら出たで一声かけてくれ」



由姫が持っていたタオルを奪い取り、髪の滴を拭く。



心臓の動悸が耳にこだまする中、微動だにせず気持ち良さそうに目を閉じる由姫を見て、小動物に懐かれた感が否めなかった。



その後朝食を食べ終わり



「本当は休んで話聞いてやりたいんだが、生憎人員不足でごめんな。

好きに寛いでて良いから、誰が来ても出ちゃ駄目だぞ」



頭を撫でて後ろ髪引かれる思いのまま、拓海は仕事の為由姫一人残し職場へと急ぐ。





残された由姫は一人考え事をしていた。


自分に降りかかった不幸。

何故そうなったのかを。



目を閉じて考えていた所為か、いつの間にか眠っていたようだ。

時計を見ると昼前になっていた。



「お腹空いたな」



生きる気力が無くても、お腹が空く事に苦笑を浮かべる。



部屋から出る訳にはいかず、悩んでいるとインターホンが鳴った。



「(誰が来ても出ちゃ駄目)って言ってたよね」



拓海の言葉を思い出し、部屋の隅で息を潜める。



「兄貴〜居ないのか?」



ガチャガチャと鍵を開ける音とともに、誰か入ってくる足音が聞こえる。



由姫は驚愕して、背後にあるクローゼットに隠れた。



「何で入ってくるの?

鍵……持ってた⁉︎」



小声で自問自答して、震える身体を抱きしめる。



「マジで居ないし……くそっ」



男は悪態をついて、ポケットから携帯電話を取り出す。



掛けた先は兄(拓海)。



男の動向をクローゼットから覗いていた由姫は、昔の事を思い出していた。



家の侵入者=強盗に殺されそうになった事。

直ぐに警備員が来て大事には至らなかったが、それから男の人を見ると身構えて過呼吸を起こしてしまうトラウマになった。



「怖い……怖いよ」



過呼吸を引き起こして、意識を手放し壁に寄り掛かるようにして倒れた。



「ん?」



カタンっと、物が落ちるような音に反応する。



「兄貴……クローゼットに何か隠してんの?エロ本?」



『は?何だいきなり』



弟からの着信と、自宅に上がりこんでいる事に驚きつつも、由姫の事に触れられないので何処かに出掛けたのかと、安堵と心配で頭がいっぱいだった。



「物が落ちたみたいな音がしたから、それか猫でも拾ってきたのか?」



『いや、猫は拾ってない』



「猫はって……じゃあ何を」



クローゼットの取っ手を横に引き、中を確かめて言葉を詰まらせる。



「帰ったら説明してもらうからな」



さっきまでと違う声色に察したのか



『はい……』



と、返事をする事しか出来なかった。

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日常の中にある闇 紫遠 @sion_aris

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