第43話
由梨花はリードギターを奏でる。俺のギターはその音に厚みをもたせて増幅する。
ドラムの安定したリズムにナオトのベースが腹の底に響く。
やわらかいキーボードは気ままにさまざまな音符を揺らす。
俺たちは、ロータリーで自分たちの音を奏でた。
まっすぐに続く大きな道路の脇のまだ細い幹から、初々しい緑の若葉が元気良く風に揺れている。
たった三人だった俺たちのバンドは、いつのまにか五人になっていた。
静かに自分を大切にする更紗のキーボードの音が、すき間無く俺たちを埋めてゆく。
サングラスと、やけに帽子が似合ってる幼なじみのツバサは、ぴんとはった集中モードでドラムを叩く。決してぶれないその音を信じて俺は、弦を弾く。
すべてを知ってるくせに知らないふりのナオトは、相変わらず兄貴を意識したベースの音。だけどきっといつか兄貴を越えて自分の音を見つけるだろう。
得たいのしれないピンク頭の由梨花は周りに愛想を振りまいているけど、いい音出してるし間違わないのは、ツバサと大きく違うとこだね。
気がつかないけど
ほら、ここに
ツバサがはえてる
ほら、見える?
信じなくてもいいけれど
ツバサ広げて行けるのさ。
誰も見ない景色さえ
俺らにゃ見えるさ
fly away
fly again
in my dream
俺たちのバンドの名前は『竜の翼』から『pink wings』になった。もちろん、由梨花が言い出したんだ。あまりにもベタだ、ってさんざんけなされてさすがにナオトも怒ったけど、本当に前のバンドとはまったく別のバンドには違いないからね。
ロータリーには、急行が着いたのかたくさんの人たちが現れては消えてゆく。
前回の路上ライブと大きく違うことがあった。みんなが何分間か俺らの曲を立ち止まって聴いてくれる。そうして、たまにある程度の人ごみができる。
まあ、前回の男ばかりのバンドと違って、今の俺たちには色があるからね。特にピンクのふわふわした頭をゆらせてウィンクしてる誰かさんは、やっぱ目立つでしょう。
それでも、曲が終わったときに『アルバムとか売ってないんですか?』なんて聞く人がいる。
なんだか、ものすごく進歩した気がした。
俺らの曲、もう一度聴いてみたいって思ってくれたってことじゃんか。なんだか胸が熱くなる。
ああ、俺らの音は、弾けて誰かの心に響いてるんだ。自分の音は羽ばたいて遠くのほうまで飛んで行けるんだ。そう思うと、身体中が熱くなってゆく。
通行止めになっているまっすぐにのびたこの大通り。
いつか、まっすぐにどこまでも進んでゆくことができるのかもしれない。
どこにつながってるのか、何に向かってるのか、まだわからないけど、たしかに目の前にこの道が続いてるんだ。
三人からスタートした俺たちは、歩道橋で更紗を拾って由梨花が加わって、今までよりさらに大きくなろうとして、進んでゆく。
俺たちが作る音を、周りに発信しながら。たくさんの人の心に響くことを願って。
だだっぴろいこの世界のどこまで届くかわからないけれど。
大空の景色さえ
俺らの手の中さ
fly away
fly again
in my dream
さあ、背中にはえた翼
大きく羽ばたかせて
飛ぼう、
高く大きく
大空の中へ
fly away
fly again
in my dream
俺らの音がはじけ飛んで、歩道橋を通り過ぎてゆく。そこに、更紗と同じ年頃の少女が真剣に俺らを見ている。笑みがこぼれて、さわやかな風が吹いてゆく。
音が空高く舞い上がる。遥かかなたまで。
~END~
ロータリーより愛を込めて sakurazaki @sakurazaki2
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