ちくわたん
@onakasukuna
第1話
冷蔵庫を開けたら、ちくわが光り輝いとっただにー。
ヤマサのちくわ。五本入りの一本が内側からぼんやりとさぁ。神々しくて素敵な間接照明のような感じじゃんね。
食べても大丈夫かねぇ。
光るちくわを口に入れるなんておかしいらぁ。でもそんときはえらかったで思考力が落ちとっただと思うに。
「ぎゃー!」
ちくわがしゃべった。
いや、よく見るとちくわん中にどちっちゃい女の子がおったじゃんね。それにしても可愛くないさけび声だらぁ。
「ちょっと待って! 間違えてます! 間・違・い!」
なに? ちくわは食べもんじゃん。しかも、ヤマサだに? こんな高級ちくわに入っとるのがいかんだでね?
ヤマサのちくわって、めったに食べられんご馳走じゃんね。その甲斐あってどうまいだに。皮は薄くて身はプリンッとしとって。料理して使ってもいいし、お酒のつまみ、ちくわの刺し身にしてもいいに。
女の子によると、竹取物語の竹の中に転送されるはずが、この豊橋のちくわん中にいたんだって。
じゃあ、あんたは本当はかぐや姫ってことかん? ちくわ娘にしか見えんけど。
「まあそのうち迎えが来るから、それまでよろしく。あと、おなか空きましたわ」
……冷蔵庫を開けたら、柿がひとりでに割れたんだにー! 怖っ!
次郎柿。ぱかっと割れた中に男の子がおった。
「あ、ども。自分桃太郎ッスけど」
「げっ、桃太郎!?」
ちくわ娘は男の子から隠れようとしとる。でもちくわ着てるからね、バレバレ。
「あーあ、かぐやちゃん。転送装置触っちゃ駄目じゃないッスか」
「だって物語世界に飽きちゃったんですもの! あなただってそうじゃありませんこと?」
「うーん、そうでもないッスけど。さっさと物語を進めて、元の世界に帰りますわぁ」
桃太郎、いや、この場合は柿太郎かね? それとも次郎柿だから柿次郎でもいいかもしれん。とにかく男の子は冷蔵庫から飛び出して急成長、立派な青年になった。柿渋の着物で調子こいとるけどかっこいいじゃん。
「そこの人。きびだんごはございますかな!」
ぶ、ブラックサンダーならあるに? チョコの中にクッキーの入っとるやつ。
「動物にチョコは良くないですわよ!」ちくわ姫が注意するのも聞かずに柿次郎はブラックサンダーを片手に飛び出していった。
それより、物語を進める、ってどういうことだん?
「私達が元の世界に戻るにはフラグの回収しなくてはいけないのですわ。彼はこちらの世界で仲間を集めて鬼退治をするおつもりではないでしょうか」
仲間といえば、動物……ってことは、のんほいパークかん!?
説明せんといかんら。のんほいパークは動物園植物園遊園地博物館がセットでおトクな場所の名前だに。
「でもこの現代日本に鬼なんて、いませんわよね」
鬼?だったらトヨッキーが危ないじゃん!
また説明せんといかんら。トヨッキーは赤鬼風のゆるキャラじゃんね。豊橋の「豊」と鬼祭りの「赤鬼」、そしてロボットが組み合わさっとるんだに。
それにあんたがわざと装置をいじくっただら? トヨッキーになんかあったら、ちみくるだけじゃ許さんで。
「わかってますわ! トヨッキーを守りましょう」
一方その頃柿次郎は、のんほいパークでゴマフアザラシとシロクマとコツメカワウソをスカウトしとったじゃんね。
でも、アジアゾウのマーラちゃんが阻止したらしいに。マーラちゃんは足骨折しとるのに頑張るらぁ。
ちくわ姫が転送装置をいじくったもんで、他にもエディブルフラワーからおやゆび姫、うずらの卵からみにくいアヒルの子が来とったにぃ。
その子らとちくわ姫は安久美神戸神明社(あくみかんべしんめいしゃ) に市電で行ったじゃんねぇ。そこは鬼祭りの神社だもんで。
そしたらトヨッキーはもう柿次郎に見つかって豊橋公園に逃げとっただって。ちくわ姫らは急いでそっちに向かったじゃんね。
今は公園になっとるだけど、吉田城があった場所でトヨッキーは追い詰められとっただに。
トヨッキー、ふよふよと身体を揺らして困っとるじゃん。
「赤鬼、成敗するッス!」柿次郎は刀に手を伸ばしとるに。
やめりん! 鬼祭りの鬼はいたずらするけど神様だに? ちゃんと祭りん時天狗がこらしめてくれとるし、あんたがやる必要ないじゃん。
「仲間を集められなかった時点でフラグは折れてますわよ!」
「元はと言えばかぐやちゃんの所為じゃないッスか!」
そう言うと、すらり、と白刃を抜いたに。
ちくわ姫はトヨッキーをかばったじゃんね。そのとき、空から光と呪文が聞こえて来ただに。
するとびっくり。刀がどでかい手筒花火に変わっとるじゃん!
柿次郎が呆けとるうちに、ちゃっと、みにくいアヒルの子とおやゆび姫が火ぃ着けたに。
「これはフラグ回収の転送装置になってますわ!」
「な、なんだってー!?」
ごうごうと火花が柱になって、空に届きそうだに。一瞬、謎の飛行物体が見えた気がするじゃんね。もしかして、天狗かのん?
「……じゃあ物語の世界に帰るッス」
どおん、と手筒の底が破れた時にはもう、物語の主人公たちはおらんくなっとった。
……なんだか急に静かになって寂しいにぃ……。
気がついたらトヨッキーが手筒を持って近づいてきとった。
手筒の中が、ぼんやり光っとる。素敵な間接照明みたい……、ってまさか!?
「私、こちらの世界でちくわ姫として物語を作ることにしますわ! これからよろちくわ!」
その子の笑顔は晴れ晴れとかがやいとったにぃ。「よろちくわ」ってなんだんほい、って言ったら、顔真っ赤になっとったよ。
ちくわたん @onakasukuna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます