イベントショートストーリー

浦島礼子のおさかなパラダイス/藍藤 遊


 やっほー、あたし浦島うらしま礼子れいこ

 漁師を志して早十年、おさかなを獲っておさかなを焼いておさかなを食べる、どこにでもいるふつうの女の子!

 今日は美味しそうな亀さんがいじめられているのを止めて、そのお礼に竜宮城っていうところに招待されたんだけど、おさかなというおさかなが料理で出てきてもう最高!


 亀さん助けてよかったなー!

 村の子供たちがよってたかってタコ殴りだもん、亀なのに。

 それにしても――


「亀のタタキって美味しいのかなぁ」

「それを亀の私に言うのですか!?」

「亀さんはどんなタレを染みこませて欲しい?」

「斬新な死に方チョイス!」


 ――亀さんが喋るだなんて思ってもみなかったなぁ。

 櫂みたいな手で頭を抱える亀さんは、食べるのがちょっともったいないくらい面白い亀さんだ。

 たった一度だけ子供たちから守っただけなのに、こんな素敵なところに連れてきてくれたこともあって、流石に問答無用で捌くのはちょっとどうかなとあたしも思う。


 そう、ここは竜宮城の大広間。

 あたしは広間の中央に設けられた豪華な席に通して貰って、おさかなを食べながら可愛い女の子たちの舞を見せてもらいつつおさかなを食べることが出来ている。あとおさかなも食べている。おさかなおいしい。


「うふふ、楽しんでいただけているようで何よりですわ」

「あ、おさかな女王! 楽しんでます!」

「乙姫です」

「え、でもこんなにおさかな」

「乙姫です」


 この人はおさかな女王。

 竜宮城の頂点に立っている人で、凄く嫋やかで綺麗な人だ。憧れちゃうなあ、素敵だなあと思っても、現在進行形でおさかなばかり食べてるあたしじゃおさかな女王みたいにはなれないんだろうなって諦めもある。だっておさかな美味しいんだもの。


「それはそうと、礼子さま。ここのお料理はどうですか?」

「はい! とっても美味しいです! こんなに色んなおさかな料理、初めてで!」

「あらあら。それは良かったわ。わたしは乙姫です」

「え、あ、はい」


 頬に手を当てて微笑むおさ――乙姫さま。眼力が怖すぎて余計なことを言えない感じがすごい。きっとこの恐怖政治で竜宮城を束ねているに違いない。

 でも、亀さん使わなきゃ来られないようなお城、どうやって運営してるんだろう。

 そう、なんとこのお城は海の中にあるのだ!

 乙姫さまも亀さんもとっても良い人だし、おさかなは美味しいし、海の中だし、突然あたしの日常が変わっちゃってもう何だか分からないよね!


「よしよし、順調に食べていますね。これならば計画も上手くいくことでしょう」

「ですが乙姫さま。このままだと彼女の居ぬ間に地上に攻め込むどころか――」

「どころか、なんです?」

「――城中の魚がなくなりますだ」

「在庫管理ガバガバすぎね!?」

「乙姫さま、地が出ております! 地が!」

「はっ……。おほん。よく食べるのはいいことではありませんか。ええ」


 おさかなを食べるあたしの隣で、二人は難しい顔をして何か話している。

 なんだろ、やっぱりお城の経営って色々あるのかな。

 んーと。


「乙姫さま大変そうですねもぐもぐ」

「誰のせいだとっ、えー、あー、お腹は膨れましたか?」

「ぜんぜん! いくらでも食べられます!」

「その眩しい笑顔が! 眩しい笑顔が!」


 あれ? なんか間違えたかな。乙姫さまの頬が引きつってる。


「乙姫さま! このままではまずいことになりますぞ!?」

「亀、待つのです! ここで引いては!」

「しかしっ」

「あのー、乙姫さま? 亀さん?」

「はぁいなんでしょう!?」

 

 変に声が裏返ってるような気がしなくもないけど、乙姫さま大丈夫かな。

 あと亀さんが変なポーズで固まってる。

 なんだろうあれ、「捌いてください!」のポーズかな。


「えっと、何か大変そうですけど、あたしに出来ることがあればお手伝いしますよ!」

「い、いえいえ。礼子さまのお手を煩わせるようなことはありませんよ」

「あれ? そうですか? なんだか困ってないですか?」

「それはもう全然。竜宮城は何一つ困ったことなどありませんから」

「そうですか! あ、じゃあお代わりください!」

「ヴェ!?」


 ……ヴェ?


「お、おほん。ええ、それはもう幾らでも~」


 気のせいか、乙姫さまが凄い顔していたけれど。

 そのまま大広間から裏の厨房にまで乙姫さまは戻っていった。

 さっきまでウェイトレスさんに伝えるだけだったのに、なんでわざわざ厨房行ったんだろう。





「何か働いて貰えばよかったああああああああああああああ!!」

「お、乙姫さまどうしたんですか!?」

「このままでは……このままでは竜宮城の魚という魚が……!」






 

 ああああ……と何やら乙姫さまの叫び声が。

 心配だから行こうとしたんだけど、亀さんに引き留められてしまった。


「う、浦島さま」

「どうしたの亀さん」

「ああいや、わざわざお手伝いを申し出ていただけた理由があればお聞きしたいですだ」

「へ? そんなの決まってるよ! こんなにおいしいものを食べさせてもらってるんだし、何より――」

「な、なにより?」

「動けばもっといっぱいおさかなが食べられるじゃない!」

「八方ふさがり!?」


 もう手も足も出ませんですだ。と顔と手足を引っ込めてしまった亀さん。

 とりあえずひっくり返しておこう。


 と、そこに乙姫さまが戻ってきた。


「あー、えーっと礼子さま」

「どうしたんですか乙姫さま」

「おさかな以外に何か食べたいものとか、そういうのは」

「気にしないでください! あたし、おさかな食べられればそれで幸せなんです!」

「そ、そ~ぉですかぁ~……本当にどうしましょう……容易に引き込めると思ったのに……」


 亀さんがひっくり返されたことに気付いてじたばたしながらコマみたいにくるくる回っているのを横目に、薄く切られたお刺身をいただく。

 わー、このお醤油美味しい!


 ウェイトレスさんが持ってきたおさかなは本当に種類が豊富で、あたしが食べたことないおさかなもたくさんあって、美味しい楽しいすごくうれしい。

 それなのにおさかな以外も! なんて贅沢だよね!

 一番好きなものが食べられる、そんな幸せさえあればあたしは何だって出来ちゃうから!


「乙姫さま乙姫さま、このおさかなは何ですか!?」

「それはフグですわ」

「へー、美味しい美味しい! こっちは?」

「それは牡蠣ですわ」

「美味しい美味しい! こっちは!」

「それはアブラソコムツですわ」

「知らなーい! あ、ホタテもあるー!」


「すごい……乙姫さま、容赦なく食あたりを狙いに行っていますだ……」


 竜宮城って凄いなあ。こんなにおいしいおさかながいっぱいなんて。

 貝もこんなに種類があるんだー!


「何故……何故ろくに処理もしてないフグを食べて平気なのですかこの人……」

「分かりませぬが……それがあの"地上の最終兵器"浦島礼子の浦島礼子たる所以なのでは……」

「か、かくなるうえは玉手箱型トリカブトで――」

「玉手箱型!?」


 もっしゃもっしゃ。

 それにしても、あたしだけ食べちゃって悪いなあ。


「乙姫さまも食べます?」

「い、いいえ!? 結構ですわ! ――まさかこの子、全てわかったうえで」

「あれ、そうですか。美味しいのに」

「……くっ、あしらわれているのかしら……」


 ん? あれ? もうおさかな無い……。


「乙姫さま、あの、おさかなのお代わりありますか?」

「お代わり!? え、ええもちろん! 竜宮城はおさかなの天国ですもの!」

「何故意地を張るのですだ乙姫さ――」

「きっく」

「あーれー」


 乙姫さまに何かを言おうとした亀さんが背中の甲羅で滑りながら大広間中をホッケー宜しく転がり回っている。なにあれ楽しそう。ホッケーよりホッケ派だけど。


「竜宮城すごいですね! そんな素敵なところを治めてる乙姫さま、すごい!」

「うふふそれほどでもありませんわ! さあ礼子さまにもっとおさかなを!」


 ぱんぱん、と乙姫さまが手を叩く。


「……」

「……」


 ……。


「乙姫さま?」

「しょ、少々お待ち遊ばせ」

「あ、はい」


 優雅に一礼して乙姫さまが厨房の方へ向かっていく。

 ……さっきまでは乙姫さまが呼べばきたウェイトレスさんがまた来なくなっちゃったからね。倒れたりしちゃったのかな。大丈夫かな。






「おさかなはまだなのですか!?」

「それが、もう在庫が無くて」

「ファ!? 魔剤ンゴ!? ありえんありえんうせやろ!?」

「乙姫さま! 地が出てます地が!」

「はっ……お、おほん! 在庫がないってマ!?」

「だから地が出てます!! 竜宮エフラン大学に通ってた頃に戻ってます!」

「え、えーっと! はい、だいじょぶわたくしだいじょぶ! そんなことよりおさかなを!」

「だから無いんですってば!」

「すべて食べられてしまったというの!?」

「だからそうですって!」

「はぇ~~すっごい!!!!!!!!」

「乙姫さま!?」








 あ、乙姫さま戻ってきた。

 なんだか疲れてるように見えるけど、どうかしたのかな。


「あの、乙姫さま?」

「は、はぁいどういたしましたか?」

「あの、おさかなは……」

「あ、えっと、その、ですね」

「まさか、もう、無い、とか……?」

「い、いえいえここは天下の竜宮城! おさかななど窓の外を見ればいくらでもいる状況でおさかなが手に入らな――いねえ!? 外の海におさかな皆無!?」

「お、乙姫さま!?」


 なんかいま両眼玉が飛び出していたような気が。


「お、おさかなはまだまだたーんとあります! で、ですがその、今すこーし立て込んでいてですね? もう少し、もう少しお待ちいただくことになるというかですね?」

「あ、そうなんですか! 分かりました待ちます待ちます! こんな美味しいものなんですから!」


 待つ待つ! いくらでも待ちます!


 ……ぐー。


 あ、お腹鳴っちゃった。


「……マ? あれだけ食べといて、マ?」


 なんか物凄い形相した乙姫さまがうわ言みたいなものを呟いてる気がするんだけど。


「で、でも待ちます! 待ちますから!」

「なんでそんなお腹減ったの我慢するみたいな顔になっているのですか礼子さま……貴女さっきまで……」

「燃費が悪いもので」

「そういう次元じゃなくないですか!?」

「いやぁ」


 乙姫さまみたいな綺麗な人になるには、あたしは少し食い意地が張っちゃってるからなぁ。

 うう……。


「そ、そんな悲しそうな顔しないでくださいませ。そ、その、まだおさかな以外の食料でしたら」

「あるんですか!?」

「え、ええ!」


 す、すごい! おさかなだけでもあんなにいっぱいあったのに、おさかな以外もあるなんて!

 思わず食い気味に聞いたら乙姫さまは頷いて、ちょうどそこに亀さんが戻ってきた。

 背中で滑って。


「お、乙姫さま、どうですじゃ」


 ああ、なるほど。


「礼子さま」

「なんでしょう」


「……亀なら今すぐご用意できますが」

「あ、じゃあタタキで」

「乙姫さまああああああああああああああああ!?」

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