②
****
――――数日後。
俺は神妙な面持ちで、残りの借金の額を計算していた。
「まいったな……」
そう。
結果、まだ半分ぐらい借金が残っている。
駄目だ。
駄目だ、駄目だ。
もっと一気に返せる方法を考えなければ。
このままじゃ、俺の思い出が全て無くなってしまう恐れがある。
いや、別に無くなってもいい。
だが、もっと高価で買い取ってくれる思い出を探さなければ、借金の利子も増えていく一方だ。
急げ。
急げ、急げ。
何か、何かないか、何か……
「あっ……」
その時、ピンとあることが閃いた。
そう。
世の中には、食べたくても食べられない人たちがたくさんいる。
例えば、病院では、口から食べ物を摂取できずに、胃に直接、栄養を流す患者さん達もいる。
その人たちは、きっと、『食べる』という思い出をいっぱい欲しているはずだ。
「そうだよ……これだよ……」
俺はこれからも食べることができる。
いくらでも、食べることができる。
思い出も体験した事実も、別に消えてもどうでもいい。
「これだ……」
これしかない。
これはきっと、高値で買い取ってもらえる。
ダダッ!――――
俺はすぐさま、例の銀行に向けて走り始めていた。
そして、その思い出を売った金で借金は完済した。
****
――――数日後。
あぁ。
まいったな。
まさか、こんなことになるなんてな。
俺は、涙で溢れかえる葬儀会場を眺めながら、小さなため息を吐き出した。
そう。
いまだに信じられないが、遥か空の彼方、天から自分の葬式を見つめる俺がそこにいた。
でも、そうか。
そりゃ、そうだよな。
その時の思い出も、その時、体験した事実も全て無かったことになるんだもんな。
そりゃ、こうなるよな。
『俺の体は全て、俺が食べた物でできている』
この結果は、当たり前のことだよな。
そう。
『食べる』という思い出を売った日から、すぐに変化は少しずつ起こり始めていた。
徐々に俺の体からは栄養分が抜け始め、最終的にはミイラのようになって死に至った。
あぁ。
まいったな。
どんな思い出も、その全てがあって、今の自分があるんだもんな。
そんな簡単で大事なことに気づかなかったよ。
「はぁ……」
こんなこと言うのは、わがままかもしれないが。
だれか、幽霊の思い出、買ってくれないかな。
せめて、成仏したいんだけどな。
【END】
思い出口座【短編】 ジェリージュンジュン @jh331
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