元気な生徒達
青髪、赤髪、緑髪、白髪に茶髪、さらには金髪といった個性的な激しい七色軍団を毎日見ていると目が疲れる今日この頃。
シェルヴァント・ウォードは主張的な子ども達の相手をしている。
相手と言っても……
「凍れ!ジ・コールド・エンド!」
「焼き爛れろ!岩溶壁滝!」
「切り裂け!スライック・ハリケーン!」
「……潰れて…ダネス・グラビドン」
「貫け閃光!スターライト・アタティクス!」
頭痛が痛い技名のオンパレードだが、これでも全部最上級の魔法である。
下手をすれば土地が一つなくなるレベルの魔法が迫っている中、真っ先に吹雪の方に向かう。
「イッシュ、魔力のブレが直ってないから威力が弱いぞー。
パーシー、魔法全体に魔力が行き整ってないから壁がすぐに崩れる。均等にさせろ。
コレルは威力は良いがその分切れ味がいまいちだぞ。
サス、その魔法は反動が大きいからあまり使うなよ。昨日教えた凝縮型を使え。
ライヴは眩しいだけで遅すぎだし数が少ない。最低でもあと3人増やせ」
空間をも凍らす吹雪の対処方:吹雪を亜空間に収集し、凍った亜空間を小石並みに凝縮して相手の額に当てる。
左右から迫る溶岩をまとっている岩の対処方:分身を作り、穴を掘って地面に移動して地面から溶岩壁の根元を攻撃し粉砕。
台風並のかまいたちの対処方:粉砕した溶岩壁を1つの大きな塊にし、台風の真上に放り投げ真下に落として相殺。
重力さえ飲み込む暗闇の対処方:反対側から迫る光速突進の光を利用し暗闇を相殺。
流星の速さの分身達の突進の対処方:影の見て本物を見極めてから直前で避け、脳天目掛けて拳骨。
「アブッ!?」
「チッ!!」
「えぇぇぇ!?」
「……あーあ」
「痛っっっったぁぁ!?」
「5人とも魔法の精度は上がってきているな。でもまだまだだ」
手に付いた埃をパンパンと叩き払いながら、5人を見下ろす。
「いつも言ってるだろ?俺を倒す勢いじゃなく、殺す勢いで来いって」
「先生が強すぎるんだよ……」
「なんで最上級魔法、しかも多方向から来るものが対応できるの……」
「経験の差ってやつだな」
「そんな言葉で解決出来ないレベルだと思うんだけど……」
「先生が魔王倒しに行けばいいと思うんだけど!?」
「おいおい、先生に魔王討伐に行かせるな…よっ!」
話しながら空間を無理矢理引き裂き、教室に続くワープホールを作り出す。
なんの雑作もない作業だが、はたから見たら上級者向けの魔法だ。
「先生……今度それ、教えて…」
「別に良いけどサス、お前の空間魔法まだ不安定だろ?」
「……これくらいなら」
サスの真横に等身大の空間の穴が出来上がる。
魔力はまだ不安定だが空間に穴を開けること自体、並の者では出来ない芸当だ。
「おっ、そこまで出来てれば上出来だ。放課後俺のところに来い。教えてやるよ」
「えぇ!サスばっかりズルい!私にも教えてよ!!」
「ライヴは補習があるだろ?それに合格するまで伝えた課題をやってなさい」
「ぶぅー!」
「はいはい、帰ったら昼休みだからしっかり体力を休ませて魔力を溜めておけよ。ちなみに今日の昼飯は食堂長の特製ビーフバーグ丼らしいぞ」
なんて世間話をしながらワープホールに入っていく生徒達。
駄々をこねるもの者をいればさっきの授業の復習をしながら入る者もいる。
だが、1番タチが悪いのは、
「パーシーさんや、さっきから殺意を俺に向けるな。負けたのがそんなに悔しいのか?」
1人だけ忠実に俺を殺しにかかってくる生徒のパーシー・ロフトル。
彼は元々孤児で生きていたが、俺が拾ってこの学校に入れさせた奴だ。
ちなみに、現在パーシーに喧嘩を売られて45戦中45勝0敗である。
「うるせえ!俺は絶対に勇者になんかならねぇからな!」
「お前は本当に変わらないな。確かに在学中に俺に傷一つでも付けたら退学して良いと言ったが、果たしていつになるのやら?」
「今に見てろ!絶対に殺してやる!」
「はいはい、卒業までには俺を殺してくれよ」
「てめ!襟をつかむな!」
悪ガキをワープホールに放り投げ、生徒が全員入った事を確認し俺も入る。
こんな感じで俺の担当の体育の授業は終える。
───── ◆
少ない学生達が各自昼休みを堪能している頃、俺は職員室で先程の授業での生徒達の評価をしていた。
「イッシュは氷魔法以外を打つ際に若干時間がかかる為、隙が生まれやすい。次の課題では氷魔法以外の魔法を復習させる。
パーシーは炎、土魔法に特化しすぎて他の魔法を使わない傾向がある為、次の授業では得意魔法以外の魔法での戦い方を指導。
コレルは魔法自体は特に問題無し。しかし剣術を使う割には体力が無い為、外周200周をさせる。
サスは個人の特訓の成果も出てきているようで苦手だった雷族属性の最大級魔法を習得。プラスで空間魔法も習得。もうちょっと元気を出させる。
ライブは勢い任せで魔法を使う癖がまだ完璧に直っておらず、慎重に使わせるよう強めに指導する。っと」
「見た目に反して真面目にやっているなシェル」
「ぁん?」
毎日の日課の生徒の指導日記を書き終えた頃に試験の日に俺に召喚獣を倒されたロベルト・ジェーダが声をかけてきた。
「なんだ?昼でも食いに行くか?」
「そのつもりで声をかけた。食堂長には事前に昼食を取っておいてくれと頼んでおいてある」
「お!気が効くなロル先生!なんなら今すぐ行くか」
「あぁホールを出さなくてもいいよ。君は授業終わりだから魔力が少ないだろうし」
「大丈夫大丈夫。さっきの授業で魔法は2回しか使ってないし…よっと」
日記を机にしまい、ウキウキな子供のようにテンションを上げて再びワープホールを作る。
「……聞き間違いかな?魔法を何回しか使ってないと?」
「は?だから2回って言ったじゃん。んなことより早く行かないと食う時間減るぞ」
「相変わらず強すぎるんだよ、君は」
「避け続けてたら魔法なんて使わねぇだろ」
俺の言葉に溜め息で返事をするロルは呆れながら裂け目に入って行った。
間違ったこと言ったか?
───── ◆
食堂に着くと数少ない生徒達が楽しく食事をしていた。
「僕のプリン取るなよ!」
「……僕の、ジュース…」
「ちょっと!!何すんのよ!?」
訂正しよう。俺の生徒達が他のクラスの生徒達に絡まれていた。
「へん!Cクラスが偉そうに!」
「悔しかったらAクラスの実力になりな!」
赤色のローブをまとってる生徒はふんぞり返りながら言う。
この学園はABCと3クラスあり、生徒の実力でクラスが変わる。
Aクラスは世間一般の冒険者を遥かに上回り卒業後すぐに勇者として活躍出来る程の実力がある子供達がいる。
BクラスはAクラス程ではないがそれでも個々で国1つは守れる程の実力がある。
それに比べ、Cクラスは1番下。つまり最下層のクラスなのだ。
「なーにしてんだお前らー」
「やべっ!先生だ!」
「逃げろ!」
俺達を見たAクラスの子供達は慌てて逃げる。
「まったく…私の生徒は……」
その光景を見たロルは眉間に指を添える。
Aクラスの担当はロルなのだ。
「大丈夫か?」
いじめっ子がいなくなったと同時に俺は生徒達に声をかける。
「大丈夫です。パーシー君が暴れそうになってましたけど」
「そのパーシー君は?」
「……あそこ」
サスが指を指す方向に目を向けると、離れて昼食をとっていたのだろうパーシーが影に縛り付けられていた。
魔法の属性から見て、サスの魔法であろう。
「よく止めたなサス。偉いぞ」
「……えっへん」
「私も我慢したんだよ?褒めてよ!」
「はいはい、ライブもよく頑張りました」
荒くライブの頭を撫でると、嬉しそうな顔になる。
「ほら、さっさと飯食え。午後からは校外体育だぞ」
「「「「はーい」」」」
声を揃えて4人はパーシーを引きずって食堂から出て行った。
そのタイミングで俺達は昼食をとる。
「すまない。うちの生徒達が」
「気にすんな。絡まれたあいつらが悪い」
申し訳なさそうにこちらを見るロルだが、あいつらにも絡まれる原因があるのだ。
理由は知らないが。
「実力がある事を良い事に性格が歪んでしまってるからな…あれじゃあ世に出せないよ」
「道徳の授業を中心にやらせた方が良いんじゃないか?」
「やってるつもりだけど、上手くいかなくてね」
「代わりに俺がやろうか?」
「前に臨時で頼んだ時、気絶した子がいたが?」
「生意気な態度だったからお灸を据えただけだ」
言う事を聞かない奴と授業の妨害をする奴を中心的に徹底的に社会の厳しさを叩き込んだだけだ。
気絶する方が悪い。
「校外体育はどこまで行くんだ?」
「抜き打ちテストも兼ねてとりあえずヤニマ砂漠」
ロルの質問に答えると、目の前で勢い良く立ち上がる。
「ヤニマ砂漠だって!?危険すぎる!」
「大丈夫だって」
「あそこは魔物の群れが目撃されてるんだぞ!?」
最近、巷で魔物の群れが頻繁に目撃されていた。
その1つにこれから向かうヤニマ砂漠が上がっているのだ。
「あいつらは自ら志願して勇者になろうとしてんだ。だったら生ぬるい授業なんかより実戦を経験させた方が良いだろ」
「子供なんだぞ!?」
「これが俺の教育方針だ。剣を持ったことの無い勇者は勇者じゃない」
冷たく言い放ち、俺は食べ終わった食器を持って立ち上がる。
「……なんで君は…」
「それ以上言うな」
ロルの言葉を最後まで言わせまいと、俺は言葉を被せる。
「俺は俺のやり方で勇者を育てる。もう、同じ惨劇は繰り返させない」
────── ◆
「さて、午後の校外体育を始めます」
場所は変わり、見渡す限り砂、砂、砂のヤニマ砂漠。
雨が年に2回しか降らないこの地では植物が生える事は無く、生物は他の生物を食らうしか生きながらえない為肉食生物が多い。
「暑いー…」
「氷いる?」
「出来れば森が良かった…」
「…………」
「先生!セス君が暑さでダウンしてます!」
遠出用の鞄を背負った5人は初めての砂漠の猛威にテンションが下がっていた。
約1名は言葉すら発していない。
「ぉっほんっ、授業の説明をする。これからランダムでチームを結成する。目的地に着いたらさっき渡した紙に課題が書いてある。課題をクリアしたら自動で戻れるようになってるから失くすなよ。そんで目に入った魔物を倒せ。以上」
説明を終えると、イッシュが手を挙げてこちらを見ていた。
「はいっ」
「はい、イッシュちゃん」
「ここにはどんな魔物がいるんですか?」
「良い質問だ。俺も知らん」
答えると、イッシュは驚きすぎてポカーンと口を開ける。
「とりあえず、片っ端から倒せ。無理しないように倒せ」
「無茶苦茶だ!」
「…………」
「先生!セス君が暑すぎて気持ち悪いって言ってます!」
なんか遠足みたいな空気になってきてないか?
「ほーら、さっさと行ってこーい」
5人の足下に転送用の魔法陣を展開する。
これ以上文句を言わせないよう素早く転送させた。
「さーて、何体倒せるかな?」
本職は勇者教育です。 一二三つ @hitohusa_mittu
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