本職は勇者教育です。
一二三つ
朝のHR
『君なんてクビだ!』
『上等だゴルァ!こんなところ辞めてやらぁ!』
上司との喧嘩で辞職し数年経った今でもあの時の思い出がたまに悪夢として俺を苦しめている。
仕事を辞めて引きこもりにでもなろうかと考えたが、生憎と俺を養ってくれる心の優しい恋人も肉親もいない。
働くしかなかった。
仕事を辞めた俺は次の仕事を探そうと求人を血眼のように眺めては面接に行き、落とされるの毎日を送っていた。
『前職を辞めた理由はなんですか?』
『この空いた期間は何をされていたんですか?』
『なんで両目黒いの?』
就職氷河期なんて絶対零度期間は遥か昔に過ぎ去ってはいたものの、就職というのは実に難しいものだ。
そしてついに貯金が底をつき、もう自給自足のサバイバルしても良くね?と考え森に向かおうとしていた時、空から1枚のとある求人票が降ってきた。
《急募》あなたの手で勇者を育ててみませんか?
・魔物討伐歴がある方大歓迎!
・魔法もしくは剣術の心得をお持ちの方大歓迎!
・どんな困難にも耐え切れる強い心をお持ちの方優遇しますよ!
給料:月収1500万ファブル〜
寮完備(風呂・食事付き)
関係者から一言:
昨今、魔族の活発化によりお世辞でも平和とは言い難い世界になってきております。
我こそは!と言わんばかりに勇者を希望する者はいるものの、皆剣は愚か魔物にも会ったことのない者ばかり。
そこで!あなたが勇者を教育し、世界を救わせてみませんか?
世界を救った勇者はもちろん、その勇者の教育に携わった職員にも国から報酬が手に入ります。
ここは是非、あなたの眠れる才能を引き出してみたいと思いませんか?
「・・・・・酷っ」
これを書いたやつ絶対頭悪いだろと思いクシャクシャに丸めて捨てた。
さて、まずは武器に使えそうな大木でも探すかと目線を森に向けた時、俺は何かを思い出し、丸めて捨てた求人票を拾い、内容を再確認した。
「きゅうぼあなたのてでゆうしゃをそだててみませんかまものとうば・・・・・あった!」
俺はとある単語を見てニヤリと口角を上げた。
───── ◆
時は翌日の正午。
場所は王都の中央にある教育機関。
本日は採用試験当日であり、今は実技試験が始まったばかりである。
午前は魔力測定と筆記試験、昼飯を挟んで午後は実技試験となっている。
ちなみに、筆記は鉛筆を転がしていた。
「試験番号5番、6番の方どうぞー」
「はい」
「うっし!」
今回の実技試験の内容は一対一の決闘形式のようで、身体能力、剣技、魔術の質と技術を見極める試験だ。
勝敗は関係が無いらしく、あくまで己の力を最大に発揮するために決闘形式にしたとかなんとか。
「試験番号5番、ロベルト・ジェーダです。よろしくお願いします」
「試験番号6番!シェルヴァント・ウォード!しゃっす!」
互いに剣を構え、剣先をキンッと当てると審判兼試験官の人が「試験、開始!」と叫ぶ。
決闘が始まるがすぐにロベルトは俺との距離を空け、上着の胸ポケットから小さな紙を1枚取り出す。
「戦うぞ!コニー!」
「召喚師!?しかも無詠唱かよ!」
取り出した紙を真上に投げ、紙から大きな魔法陣が展開される。
その陣から現れたのは綺麗で穢れの無い白い毛と額から伸びる一本の角が特徴の幻獣『ユニコーン』である。
「召喚師と当たるとか、ツいてねぇー!」
「・・・・・・・・・」
「やべ、戦わないと」
試験官がこちらを睨んでいるので、逃げ回るのを止めてパカラっパカラっと背後から近づくユニコーンの方を向く。
「貫け!コニー」
「かかって来いや!」
角に電気を帯電させ、俺の胸にめがけて角が迫─────────
───── ◆
「痛てて・・・目にゴミが・・・」
「・・・しょ、勝者、シェルヴァント・ウォード!」
「・・・な、何が起きたんだ・・・?」
ユニコーンの角は根元から折れ、白い毛並みは地面の汚い土で汚れて倒れている。
それとは逆に砂埃が目に入ったくらいでほぼ無傷で立っている俺。
簡単に言えば、ユニコーンを倒した。
「あぁ〜電気で肩のコリが取れた気がする〜」
「き、君!今のは一体──」
「いやーお疲れさんした!さすが幻獣クラスともなると倒すのも一苦労っすね!お疲れさんした!!」
話がめんどくさい方向に向かっているのでその場からさっさと退散する。
「ま、待ってくれ!せめて話だけでも!」
「ロベルトさん、シェルヴァントさん。実技試験お疲れ様でした。本日の試験は以上になりますのでお荷物をまとめてご帰宅ください」
間に入って俺を助けてくれた試験官が俺には勇者に見えた。
助けてくれてありがとう。
「ほら、帰れだとよ。さっさと帰ろうぜ」
「しかし、さっきの魔法は──」
「はい、解散って言ったらかいさーん」
半ば強引に話を終わらせ、ダッシュでその場から離れる。
合否は大体1週間くらいで決まるだろうからその間山にこもって自給自足でもしてるかな。
───── ◆
~1週間後〜
試験から丁度1週間が経った朝。
洞窟で俺は合否発表の手紙を読んで絶句した。
『合格』
「マジかよ」
それは、俺の運命を変えた1通の手紙であった。
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