純情

薄野穂香

第1話 純情(1)

私は、まだこのふたもじのおもいを伝えられていない。私はなんて臆病なのだろうか。小さいころからずっと一緒だというのになんて臆病なのだろうか。虚しさといら立ちが私の心を支配し続けていた。


 私は今、近所で開催されている花火大会に私がずっと好きで、そしてずっと好きという思いを伝えられていない友人、海斗と一緒に見物に来ている。だがとても近所の花火大会のことは全国で有名なので、人が多すぎて、もう花火どころではない。

「すごく人が多いね…。」

 これでは告白どころではない。何のために海斗を誘ったのか全く分からなくなってしまう。……どうしたものか。

「……俺、いいところ知っているんだ。」

 突然、海斗がそんなことを呟いた。一体どこだというのだろうか。海斗は私の華奢な右手をその逞しい左手で掴み、そして海斗が人込みをかき分けてくれている。これじゃまるで……恋人じゃない。私は海斗の幼馴染でしかなくて、私が隣にいる資格なんてなくて、もちろん彼女としてなんだけど。でももし海斗に彼女がいたとして、この場を見たとしたら、どう思うだろうか。

 そうこうしているうちに、気づけば海斗の家の前にいた。海斗の家は、私の家の隣にある。でもここからじゃ花火なんて見えない。

「ここからじゃ花火、見れないよ?」

 私はそう不満げに呟く。すると海斗はいいからいいからと、家に上がるように右手で手招きをする。私は呼ばれるがまま玄関に向かい靴を脱ぎ、そして海斗の部屋に入る。家には、いつも笑顔で迎えてくれる海斗のお母さんはいない。この部屋にも何度も入ったことはある。でもここからじゃ花火を見物することはできない。それに海斗は部屋にたった一つしかない窓にカーテンを閉めると、私のところに来て、胡坐をかき、そして私を見る。その眼は私を見ているが、私ではなくどこか別の処を見ているような眼をしている。

「……海斗?」

 私は話しかけると、海斗は、ぼーとしているのか、何も反応が返ってこない。それどころか海斗が、私の顔から視線を逸らす。海斗は一体何を考えているのだろうか、海斗は一体何を思っているのか、私にはわからない。私はどうするべきなのだろうか。私はどうしてあげるべきなのだろうか。分からない……分からない。

「俺さ、ずっとナヨに伝えたいことがあったんだ、実はさ俺……」

「待って!」と私。私はなんて臆病なのだろうか。海斗が何かを告白しようとしているというのに、私って……バカ。

「……実は私もあるんだ。海斗に伝えたい事。」

 何を言っているんだろう私。この気持ち、ここで伝えたくないのになんでだろう、体が勝手に私の意思を無視して告白しようとしている。

「俺、ずっとお前のこと……好きだったんだ。」

 これは夢だろうか、これは幻覚だろうか。これは現実なんだろうか。

「……ナヨ、なんで泣いているんだ。」

 なぜだろう、涙が止まらない。うれしすぎて止まらない。今まで私の心に覆っていた雨雲が、今この瞬間、きれいな夏の大三角形と天の川が見える。

「……私もずっと海斗のことが好きだった。」

 その言葉をきいた海斗も喜びからだろうか、いつもと優しい笑顔なのに泣いている。


  ……


「やっと私たち」

「つながったね。」

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