妹じゃだめなんだもん

次の日、なるは二週間ぶりにアルバイトに復帰した。

玲子に「お久しぶりね、なるちゃん。風邪でも引いちゃった?」と言われたが、なるは理由を明かせなかった。

海は「いない間に仕事溜めてたんだ」と言って、数時間分の会話が録音されたボイスレコーダーをなるに渡してきた。

「議事録取り、よろしくな」

「ひぇぇぇ」

なるはパソコンを用意しながら悲嘆の声を上げた。

「俺はちょっくら製粉所行ってくるわ。玲子、なるをよろしく」

海はそう言って急いでオフィスを出ていった。

そう言えば海はスーツだった。製粉所に行くときは「あそこはおカタい人が多いんでね」と、仕事を取ってきた後もスーツで行っているらしい。

なるは玲子に聞いた。

「海はこんなにちょくちょく製粉所に行って何をしてるんですか?」

システムエンジニアは外から雇ったと聞いた。システムを作ってないなら、何をしてるんだろう。

「管理よ。今回のシステムは大きいから、人を5人雇ってるの。その人たちがちゃんと仕事してるか、定期的にチェックしに行ってるの」

「そんなこともするんですかぁ」

玲子はふふっと笑って続けた。

「海、本当はそういう仕事好きじゃないのよ。システム作ってる方が向いてるっていつも言ってるわね。でも、仕事が彼を放っておかないのね。そして、そつなくこなしてしまう。海のそういう所、尊敬するわ」

玲子さん・・・

なるは玲子に自分が海の彼女になったことを伝えるタイミングを失ってしまった。



製粉所に着いた海は、所員に言って借りた会議室にメンバーを一人呼び進捗報告を受けた。

「スケジュールは順調だな。さすがはシュウ。任せて正解だったよ」

シュウと呼ばれた青年がけらけら笑う。

「ま~ね~。うちの奴等を雇ってくれたから多目に見るけど、次からはこんなつまんないシステムじゃなくて面白い仕事ちょーだい」

海は真面目な顔をして言う。

「お前は仕事自体はちゃんとやってくれるから多目に見てやってるが、そうやってシステムを選り好むなら次から仕事やらんぞ」

シュウはちぇーっという顔をした。

「ねぇカイ、それよりレイコは来ないの?」

「ここの管理は俺だ。玲子は来ない」

「なんでぇーぃ。俺、レイコに管理されたいなぁ~」

シュウはわざとらしくくねくねした。

海は少し考えた。

・・・スケジュールも順調だし、玲子に任せてみるか。俺も次の仕事取ってこなきゃいけないし、あと・・・

海はなるの顔を浮かべた。

「・・・カイ?」

「あ、いや・・・。まぁ、玲子に管理させてもいいが・・・」

「まじで!やった!言ってみるもんだな!」

シュウは立ち上がって喜んだ。

「ただ玲子は俺より経験が少ないから、ちゃんとフォローしてやってくれよ。お前は管理者泣かせのSEだから、そこが心配だ」

「だーいじょぶだって!」

シュウは胸を張った。

海は一抹の不安を抱えたまま、玲子に任せることにした。



「・・・と、いうわけで、製粉所の案件は今後は玲子に見てもらいたいんだ」

オフィスに戻った海は、玲子となるの前で経緯を話して玲子に指示した。横になるの知らない青年が立っている。

「Long time no see, Reiko!You're soooooo beautiful as ever!!」

青年は抱きつかんばかりに玲子のそばに近寄った。

「ありがとう。あなたも相変わらずお上手ね」

玲子は笑顔でかわす。

・・・え、英語??外人??には見えないけど・・・

青年は髪こそかなり明るい茶髪だったが、茶色い目のアジア顔だった。

海がなるに説明する。

「こいつはシュウこと瀬戸修一。シュウは帰国子女なんだ。フリーのエンジニアだったころに前の会社で雇ったのがきっかけで知り合ったビジネスパートナーだ。短納期でキツそうな案件の時によく頼んでて、今回はシュウが友達と会社を立ち上げたらしくて、シュウの会社に仕事をお願いしたんだ」

「つまんない仕事なんだよ~!レイコが来てくれたら俺がんばっちゃう!」

シュウは玲子にキスせんとばかりに近づく。

「つまらない仕事なんてないわよ。世のため人のために働くの。海を見習いなさい」

玲子はシュウからさっと顔を避けて言った。

「Oh~、レイコのカイLOVEも相変わらずだね」

シュウがひゅーっと口笛を吹く。

なるは心がズキッとした。

「おしゃべりはそこまで。こいつは里見なる。うちの唯一のアルバイトだ」

海がなるをシュウに紹介した。

なるは恐る恐る「よろしくお願いします・・・」と挨拶した。

シュウはなるはちらっと見てさらっと「Shorty」と言った後、玲子に話しかけている。

「シュウ!挨拶くらいしろよな」

海が言うと、シュウはちぇっと言う顔をしてなるに「よろしく」と言った。

・・・う、なんかこの人感じ悪い・・・

なるはシュウに警戒心を抱いた。

「ったく・・・」

海は呆れている。

「玲子、俺はこれからアポがあるんだ。ちょっと出てくるから、シュウから製粉所のシステムについて説明を受けてくれないか」

海が言うと、玲子は「わかったわ」と言ってシュウを隣の空席に座らせた。

「玲子、なるをよろしくな。・・・じゃ、なる、二時間もすれば帰ってくるから、待てるなら待ってろ」

海は去り際にそう言ってなるの頭をくしゃっと撫でた。

なるは途端にぼっとゆでダコになってしまい、思わず俯いた。

向かいからその光景を見ていたシュウは、二人の関係に疑問を抱いた。




海が外出した後、シュウは玲子と打ち合わせを行い、なるは向かいの自席でボイスレコーダーの書き起こしをしていた。

打ち合わせの途中で、玲子が「少し休憩させて、トイレ行ってくるわ」と言って席を外した時に、シュウはなるに話しかけてきた。

「ヘイ、Shorty」

なるはイヤホンをしてるので最初は気がつかなかったが、シュウがなるの前で手を振って気づかせた。

なるがイヤホンを取って「?」という顔をする。

「お前、カイの何なんだ?」

「・・・何でもないです」

玲子に伝えてない手前、なるは昨日の話をするのを躊躇った。

「カイが人を待たせるなんて、初めて見たぜ」

『初めて』という言葉に、なるは少し嬉しくなったが、気持ちを悟られまいと淡々と答えた。

「・・・一緒に住んでるんです、ルームシェアみたいな。私、夜道を痴漢に襲われたことがあって、海は多分心配してくれてるんだと思います」

「へぇー、ルームシェアね~」

シュウが納得しないような口調で言っている時に、玲子が戻ってきた。

「あら、なるちゃんとお話してたの?」

「ああ。この子カイの何なんだ?Girlfriend??」

・・・うわぁぁ、この人単刀直入すぎ・・・!

なるが俯いて返事に困ってると、玲子が微笑んで言った。

「なるちゃんは海の大切な人なのよ」

・・・え?玲子さん、なんで・・・

なるは俯いたまま驚いた。

「妹みたいで、守りたいって言ってたわ」

・・・妹みたい・・・海がそんなことを・・・

「I see!妹ね!」

シュウは納得したらしい。

なるは切なくなって俯いたまま何も言えなかった。



それから二時間、なるは黙々とキーボードを叩き続けた。

シュウは玲子をひたすらデートに誘っていた。

シュウがわざわざオフィスに来たのはそれが目的だったようだ。

「カイがオフィス戻ったら出掛けるって言うからレイコと二人っきりになれると思ったんだけど、そー上手くはいかないね~、ってことでレイコ、これからどっか行かない?」

シュウは明らかになるを邪魔者扱いしていた。

なるはイヤホンをしていて聞こえないながらも雰囲気で感じ取っていたが、実際そのことはなるにとってはどうでもよかった。

・・・わかってた。海が私を妹くらいにしか思ってないこと。だけど・・・

『・・・じゃあ、なってよ、彼女』

なるの頭に海の言葉が浮かぶ。

・・・彼女になったの?今の私って、海の何・・・?

なるは頭がぐるぐるして書き起こしに集中出来なかった。

「ただいまー」

海がオフィスに帰ってきた。

「シュウ、まだいたのか。もう20時だぞ」

海が驚く。

「ちぇーっ!カイが帰ってくる前にレイコをデートに連れていこうとしたのに!」

「海、お疲れ様。私、そろそろ帰るわ」

玲子が苦笑しながら言う。

「ああ、ありがとな、玲子」

「え!レイコ、帰るの?!じゃ、これからデートしようよ!」

「今度ゆっくりお酒でも飲みましょう。今日は車だからだめよ」

玲子は車を持っているようだ。なるは知らなかったので少し驚いた。

「もー!レイコってばそうやっていつも断る!本気で飲む気あるのー?!」

玲子はふふっと笑った。

「お先に失礼します」

「おつかれー」海が答える。

「お、お疲れ様でした!」なるも答えた。

玲子がオフィスを去ると、シュウが「待ってよー!」と玲子を追ってオフィスを出ていった。

「・・・ったく。あいつは仕事はできるんだが仕事以外が面倒なんだよなー」

海がぼやきながらなるを見た。

なるが何だか元気がないようだ。

「・・・なる?」

なるは心配そうに自分を見つめる海に気づき、「う、ううん、何でもない。もう少し議事録起こししてもいい?」と言った。

今日は集中できなかったせいで全然進んでない。

なるは責任を感じていた。

「・・・あ、ああ、構わないが、明日大学だろ?大丈夫か?」

「大丈夫。レコーダーのキリの良いところまでやっちゃいたいの」

二人は隣り合って席に座り、仕事を始めた。



しばらくして、なるはふと横を見た。

海がスーツのままパソコンのディスプレイとにらめっこしている。

スーツ姿の海はだて眼鏡も相まってかなり知的に見える。

かっこいいな・・・。

少し見とれていた自分に気づき、顔を振って振り切ってから聞いた。

「スーツ、脱がないの?」

海がなるを見て返す。

「このスーツ、そろそろクリーニングに出そうと思って。今日は着て帰るよ」

「そう・・・」

なるは仕事に戻った。

でも一向にはかどらない。

なるはため息をついた。

「はぁ・・・」

海が気づいて言った。

「・・・シュウに言われたの、気にしてる?」

なるは驚いて海を見た。

「あんまし気にするなよ。あいつは玲子以外目に入らないんだよ」

あ。「shorty」のほうか・・・

なるは自分が『妹みたい』と思われていることにショックを受けていることを海が気づいたのかと思ったが、違うようだ。

「まぁ、俺もお前はチビっ子だと思ったし、見た目は仕方ないと思って・・・」

と言って、海は気まずそうに頭を掻いた。

チビっ子・・・かぁ・・・

「チビじゃ、だめだよね・・・」

なるは落ち込んだ。

「・・・え?」

海が不思議に思って聞いた。

「海の彼女に、なれない・・・」

やっぱり私じゃだめなんだ。海には玲子さんみたいな人じゃないと釣り合わないよ・・・

海は驚いた。

「おいおい、そんなこと気にしてたのか?」

「そんなことって・・・」

大事なことだもん・・・と思うと涙が出てきた。

「おいおいおい、何で泣くんだ・・・?」

俺何もしてないぞ、と海は驚いてあたふたした。

「か、帰ろう今日は、な?」

海は戸惑いながら言った。

「うん・・・」

結局はかどらなかった議事録の申し訳なさも重なって、なるは自分の不甲斐なさに悲しくなった。



帰り道。

スーツ姿の海と並ぶと、さらに劣等感を感じた。

何も話さないなるに、気まずくなった海が言った。

「きょ、今日さ、飯どうする?家にあるの?」

「・・・」

なるが急にわーと泣き出した。

「え、えええ?!」

海が驚く。

「・・・私、海の家政婦じゃないもんー」

なるはわーと泣きながら言った。

「あわわわ、そんなつもりじゃ・・・ごめんな、飯、別に作らなくていいから」

海は困惑して思わず頭をよしよしと撫でた。

・・・あぁ、海が私をあやしてる・・・

なるの中で『妹みたい』が甦った。

「・・・海の彼女になりたい」

なるがそう言うと、海は驚いて言う。

「え?なったんじゃないの?」

なるが海を見て言う。

「恋人みたいなことしたい」

海は目を見張った。

なるが海を見つめる。真剣な瞳だ。

海がなるの頭に手を置いたまま、二人は立ち止まって見つめ合った。

「なる・・・」

海はなるを見つめている。なるも目を離さない。

二人はしばし見つめ合った。

海はなるの頭に置いていた手を、なるの頬に寄せた。海の顔が近づく。

なるは思わずびくっとした。

海はふっと微笑んで、なるの頬に寄せた手でなるの涙を拭いた。

「じゃあ、デートしよう」

海が微笑んだまま言った。

「・・・?」

なるがきょとんとする。

「週末、俺休みとるから、空けておけよ」

海がにーっと笑った。

なるは「わ、わかった・・・」と言って俯いた。

「とりあえず帰ろう!飯、買って帰るか?」

「・・・ううん、作る」

「無理しなくていいんだぜ?」

「・・・さっきはごめん。いいの、作るの好きだから」

なるが言うと、海がほっとした顔をする。

「それなら、いいけどな」

二人はまた歩き出した。



二人がなるの自宅に着き食事をとった後、なるは自室に戻って、ベッドに寝転びながら考えていた。

・・・あれは、キスしそうな雰囲気、だったのかなぁ・・・

そう思った途端に、なるの顔がぴゅーと瞬間沸騰した。

思わず顔を手で覆う。なる以外誰もいない部屋だが。

・・・べ、別にキスしたくてあんなこと言ったわけじゃなくて・・・!思わず言っちゃっただけで・・・!

なるは自分に弁解した。

・・・でも、惜しかったかな。

なるは残念がった自分にまた恥ずかしくなって「きゃー」と小声で言いながら布団に潜った。

「なるー風呂でたぞー!入れー」

階下から海の声がした。

「はーい!ちょっと待って!」

なるはゆでダコを抑えるのに必死だった。




週末空けるためにちょっと忙しくするが、我慢して待っててくれな、と海は言って、次の日から数日また家に帰らない日々が続いた。

なるもアルバイトに入ったが、午後は海はほとんど外出しており、話すこともできなかった。

なるが外にいると心配だからと海が言うので、なるは大人しく夜は家にいたが、本当はオフィスに行きたかった。

今頃オフィスに戻った海と、玲子さんが二人で仕事してるんだ・・・

なるは夜になると毎日そう考えてしまい、ヤキモチを焼いてしまっていた。

・・・でも『週末のデート』のためだ、我慢我慢!

なるは自分を奮い立たせて週末が来るのを待った。



そしてなるの念願の週末がやってきた。

なるは待ちきれなくて早起きをしてしまい、リビングのソファで寝ている海のために早めに朝食を用意した。

物音に気づいて海が目を覚ます。

「・・・ん・・、早いな、なる」

「おはよう海!朝食もう少しでできるよ!」

なるが笑顔で言った。

海はそんななるを見て、ふっと微笑んだ。


二人は朝食を取りながら、デートの計画を立てた。

「お前、どっか行きたいとこある?」

「うーん・・・」

なるは海とデートができることで舞い上がっていて、場所まで思い付かなかった。

「・・・わかんない」

「わかんないのかよ」

海はぷっと笑った。

「・・・じゃあ、ありがちですが、映画でも見に行きますか」

「うん!」

なるは笑顔で返事をした。



二人は駅前のショッピングセンターの中にある映画館で映画を観ることにした。

「なる、どれ観る?」

タイムスケジュールを観ると、ディズニーの長編アニメが一番早く始まりそうだ。

「じゃ、このディズニーのやつ」

「お前、お子ちゃまだな~。これにしようぜ」

海はその30分後に始まるサスペンス映画を指した。

「お子ちゃまじゃないもん!一番早く始まるから選んだだけだもん!」

なるが凄い剣幕で返してきたので、海はたじろいだ。

「お、おい・・・冗談だって」

「じゃそっちの映画観る!」

なるはぷりぷりしてチケット売り場へ向かった。

「えええ。お、おう・・・」

海は慌ててなるに付いていった。



サスペンス映画はなるには難しかった。

伏線がありすぎて驚きの結末に驚くこともできなかった。

なるが脳に疲労感を感じてへろへろになって映画館を出たときに、海が言った。

「面白かったな!まさか主人公があそこで死ぬとは思わなかったぜ」

海は満足そうな笑顔をしている。

「そ、そう・・・?予想ついたけどねっ」

なるは強がって言った。

「まじで?やるなーお前」

海が感心する。

なるは罪悪感を感じた。

・・・玲子さんだったら、一緒に映画の感想、言えちゃうのかな・・・

なるは少し落ち込んだが、それに気づかない海が、「じゃ、飯食おーぜ!」と言って、なるをレストランに連れていった。



レストランでメニューを選んでいると、海がなるに言ってきた。

「お前はこれじゃないの?」

海が指したのはお子さまパフェだった。

「・・・違うもん!」

海がイヒヒと笑う。

「・・・本当に、違うんだから・・・」

なるは、急にポロポロ涙を溢した。

海はかなり驚いた。そばにいるウェイトレスも驚く。

「ええっ、あの、と、とりあえずドリンクバーで、あとで頼みますんで」

海は慌てて言ってウェイトレスを引き上げさせ、なるに言った。

「ど、どーしたんだよ?冗談だってば、そんな泣くほどのことじゃ・・・」

なるはひくひく言っている。

海はわけがわからず、途方に暮れていた。


それから海はドリンクバーのドリンクを五杯は飲んでしまった。

「おーい、なるさーん、お腹すいたよー」

なるはひくひく言ったままだ。でも何も言わない。

・・・こういうのが子供なんだ。海困ってる。わかってるのに・・・

そう思うとまた涙が出てきて、海がそのたびにあたふたした。

「・・・・ごめんね・・・・」

なるはやっと言葉を発したが、さらに泣けてきて収拾がつかなくなってしまった。

「おおお、まぁまぁ、泣きたきゃ泣いてもいいから、とりあえず落ち着け、な?な?」

海がどうどうという手をしてなるを宥めたが

なるは落ち着く気配がない。

海は見かねて言った。

「・・・一旦、帰るか。家の方が話したいこと、話せるだろ?」

なるはひくひくしながら海を見た。

海は優しく微笑んでいた。

「何か俺に話したいことあるんだろ?」

海・・・

なるはこくんと頷いた。



二人は家に帰って、リビングのソファに座った。

「まぁ今日は俺一日オフだから、お前が落ち着くまでのんびりするさ」

海はそう言ってソファに横になって雑誌を読み始めた。

なるはひくひくしながら言った。

「・・・玲子さんが・・」

海はなるをちらっと見た。

「・・・海が私のこと、『妹みたい』って言ってたって・・・」

海は戸惑いながら「あ、あぁ・・・」と言った。

「あれか・・・」

・・・やっぱり本当に海、言ってたんだ・・・

万に一つ嘘だといいなと思ってた気持ちが打ち砕かれて、なるはわーんと大泣きし始めた。

「おおおいおい、そんなこと・・・」

「そんなことじゃないもんーー」

なるは泣きながら言う。

「妹じゃだめなんだもんーーー」

なるはわーんと泣き続ける。

「でも、でも、こうやって泣いてたら、ずっと海に子供扱いされて、妹のままなんだぁぁーー」

なるはおいおい泣いた。

「そりゃ、言ったけどさ・・・」

寝そべりながらなるを見ていた海が起き上がり、なるの隣に座り直して言った。

「8歳も違うのに、最初から同じようには見ないだろ。それじゃロリコンだろうが」

なるは『ロリコン』という言葉に反応して少し泣き止んだ。

海は横に座るなるを見て続ける。

「お前と俺は小学校も被らないんだぜ。落ち着いて考えてみろよ」

なるは言われてみれば・・・と思った。

「お前の8歳下は小学生だぜ、どう思うさ?」

う・・・

的確すぎてなるは何も言えなかった。

「だから、これから始めないかって言ってるんだよ」

なるははっとした顔をして海を見た。

「それに、俺だってお前にオッサン呼ばわりされて、傷ついてるんだぞ。お互い様じゃないか」

海はなるをじろっと見た。

なるは「うっ」と言う。

海が前を見てふっと微笑む。

「お前はまだ若い。俺じゃ物足りなくなる日が来るかもしれないぜ。オッサンなのは事実だからな」

なるは驚いた。

海がそんな風に思ってたなんて。

「そんなことない!」

なるの勢いに驚いた海がなるを見た。

「海が好きなの!オッサンみたいなところも、全部!」

「なる・・・」

海はなるの頬に手を触れ、涙を拭いた。

なるはドキドキしたが、海はすぐ手を離し、ソファの背もたれに寄りかかってうわーっと言った。

「俺もついにロリコンの仲間入りかーぁ」

なるはぷっと笑った。

「なるー!飯だ飯!俺は腹が減ったんだ!」

なるは「はーい」と言ってキッチンに向かった。

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