親の仇のようにお約束を避けていく異世界モノ

いましん

お約束の展開とか、ホント読む価値無いよね

家で勉強してた時だった。疲れたので立ち上がって伸びをしていると、周りに魔法陣が現れて別世界へ飛ばされた。


そこで俺は考えた。もしかして、最近流行りの異世界なんちゃらじゃないかと。ってか十中八九そんなとこだろうと。じゃあ今後の展開を予め考えておこうと。


きっと女神かなんかがファンタジーの世界に呼び出して、勇者になれだのなんだの言いつけるんだろう。そして世界を救ってハッピーエンド。


うん。これが一般的なプロットだ。色々細かい違いはあっても、まぁ大して変わらないだろう。って遅いな。割と時間かけて考えてたけどまだ着かんのか。





飛ばされるのに10分以上かかるという由々しき事態だったものの、召喚とはこんなものなのかもしれない。とにかく着いた。


敢えて目を瞑っていた。まだ見ぬものへの期待を膨らませていたからだ。



「おぉ、やっと来てくれたか。」



……なんかおっさんの声が聞こえる。目を開けたくない。でも開けちゃえ。えい。


……タンクトップ。タンクトップを着たデブのおっさんがいる。正直キモい。特にこれといって説明することがないくらいキモいタンクトップのおっさんがいる。


実はちょっとムフフな妄想もしてたのだが、完全に裏切られた。既に自殺願望が芽生えてきている。



「よく来てくれた。青年よ。」



触れるの忘れてたけど、僕は普通の日本の学生だ。悔しいことに目の前のおっさんより説明することが少ない。普段着だし。タンクトップじゃないし。



「ここはどこか気になっているだろう。ここはな……」



そう。女神じゃなくてもいいんだ。ファンタジーの世界。せめて古代とか近未来とか。ヨーロッパとかでもいい。だいぶ譲歩したよ。ハードル下げまくったよ。さぁどこだ。



「中国です。」



……あ、あれだよね。上中下の中とか。そういう……



「中華人民共和国っていう方がより正確かな?」



くそったれ。近いわ。バンバン貿易してるわ。中国が嫌ってわけじゃないけど、せっかくならもっとさあー。



「さて、君を呼び出したワケなのだが。」



来た。これさえ良ければ我慢できる。普通なら世界を救えとかなんかそういうの。でも中国だしな。せめて中国くらい救わせてほしい。



「これを運んで貰いたいのだ。」



木箱。開けたら白い粉。


最悪だよ。最悪だよこれ。わざわざ召喚されて運び屋させられそうになってるよ俺。嫌だよそんなの。だって、犯罪じゃん。犯罪でしょ。



「運び先は、異世界だ。」



アッフゥ!ここで異世界来たよ。なんか変な声出たよ。いや思ってるだけなんだけど。って何だよ。俺、異世界に薬運びに行くのかよ。結局嫌だよ何なんだよ。



「その代わり、お前の願いを何でも叶えてやろう。」



おっさん何者なんだよ。すげーなおい。ちょっと心揺らぐじゃねぇか。俺タンクトップ着た太ったおっさんに心揺らがされてるよ。えげつなく悲しいよ。あとさっきは君だったのにお前になってるよね。んであれ。気付いてなかったけど、あいつ、カツラじゃね?カツラだよねあれ。



「カツラじゃない自毛だ。」



いや諦めろよカツラだろ。ってよく考えたら心読んできてるじゃねぇか。怖っ。このオッサン怖っ。んでそのセリフは集英社の香りを感じるからやめろ。



「じゃあよろしく頼む。今からワープさせるから。」



うおっ、急。恐るべき急さ。寝耳に熱湯レベルで突然。異世界・ストーリーは突然に。



「あと、向こうの世界は私みたいなタンクトップデブのおっさんしかいないから。」



え、ちょっ、悪夢でしかない。やめてそんな所。それとタンクトップデブのおっさんって、自覚してんのかよ。しかもあいつの一人称、私ってクソキモいじゃねえか。



「そうそう、向こうの世界に行ったら、君もTDOになってるから。」



TDOってなんだよ。あ、タンクトップデブのおっさんか。なるほど。ってだから嫌だよ。どういう原理なんだよ理不尽過ぎるよ。



「あとホモになるから。」



なんで性格まで変わるんだよ。しかも最悪だな。周りはタンクトップデブのおっさんで自分もタンクトップデブのおっさんでそれでホモでも誰も得しねーよ。腐女子だろうとそんなBLに需要はねーよ。



「私が悦ぶ。」



お前が喜ぶのかよ。色々ひでーな。背筋凍るわ。喜ぶの漢字が悦ぶなのがより一層キモいわ。



「いってらっしゃーい!」



おおおおおおい!拒否権んんんん!!!

うわああああああああああああ!!!!









目が覚めると、自分の部屋だった。



「夢か……」



まったく、酷い夢だった。顔でも洗うか。そう思い、1階のリビングに降りていくと、見知らぬ人が居た。恐ろしいことに、タンクトップを着た太ったおっさんだ。



「えっと……どなたですか?」


「実の母親に何言ってるの。」


「え、え、え、え、えええ、」



動揺した。頭が真っ白になる。視界の端にテレビを捉えたので、そうだと思いつき点けてみる。出演者は全員、タンクトップを着たデブのおっさんだった。



「TDO……」



俺は、あの悪夢を思い出していた。慌てて家から飛び出す。どうなってるんだ。



「あらあら、そんなに慌ててどこへ行くの?」



近所のTDO②が声を掛けてくるのを振り切って走る。



「せんせー、さよーなら!!」



幼稚園から、幼稚園児のTDO③~⑳が出てくる。なんだこの世界は。



市内の方へ行くと、大量のTDOがうじゃうじゃと歩いていた。スマホを弄るTDO。ビジネスバッグを持った、仕事中のTDO。手を繋ぐ、カップルらしきTDO。


気分が悪くなって、人通りの少ない路地裏へ行った。なぜ。なぜこんなことになってしまったのか。ふと辺りを見ると、ゴミ箱に手鏡が捨てられていた。




『君もTDOになってるから。』




女神役TDOの言葉を思い出す。恐る恐る鏡を見ると、そこに映っていたのは……



……おかっぱの可愛い女の子…………







「そこはTDOになってろよ!!!」


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