二カ月
Nとは単純な出会いでした。
大学で同じ講義を取っていたので、席が隣になった時、話すようなそんな単純な仲でした。
しかし、Nと私は二人とも違う学部に所属していましたから、友達などと一緒にいることが多く、席が隣になるのは一カ月に一度くらいでした。
そんなNのことを私は今でも覚えています。
はっきり言って、Nは変わった男でした。
初めてNに会った時、彼はとてもうれしそうな雰囲気を醸し出していました。私はその雰囲気が気になって仕方なくなりNに声をかけました。どうしてそんなに嬉しそうなのかと。
するとNはその嬉しそうな表情なまま、彼女が出来たのでうれしいんだ。と返してきました。そうして、続けざまにNは彼女のいいところを私に対して訴えてくるのです。私はNの言葉を軽く聞き流し、講義に集中しました。
次に会った時、彼はとても落ち込んでいました。私はまた気になって仕方なくなり、Nに理由を聞きました。Nは落ち込んだまま、彼女に振られたんだ。と言いました。私は恋愛に対して疎かったのですが、大学生の恋愛がとても軽いものと言うことだけは知っていました。ので、Nの別れは不思議なことではないのだろうと思いました。そして、Nはまた彼女の良かったところを半泣きになりながら私に話してくるのです。私はまた、講義に集中しました。
三回目にあったとき、Nは最初に会った時と同じような、喜びに包まれていました。そしてまた理由を聞くと、「彼女が出来た。」と言うのです。
Nは別れては付き合い、別れては付き合いのサイクルをいつまでも繰り返していました。
しかし、一度だけ、喜びが二カ月続いたことがありました。私はその時はとても驚き、「続いているのか。」と問いただしたのです。するとNは奇妙な返しをしてくるのです。
「過程を考えるのがとても楽しかったんだ。結果がどうであれ、過程をあれこれ試行錯誤するのが。しかし、今回だけは過程を考えるのが楽しくないんだ。けれど、結果を考えると、胸が高鳴り、胸が苦しくなる。分からなくなって、現状でいたいんだ。」
私にはNが何を言っているのかよくわかりませんでしたが、多分Nがのろけて恋の病にかかったのだろうと思い、それ以上は聞かずに講義に集中しました。
そして、次にNに会うといつもと同じように落ち込んでいました。そしてNの方から、彼女と別れた。今回は自分が振った。と言ってくるのです。Nはとても落ち着いてまた、彼女の良かったところを私に話してくるのです。
二十年後、Nが殺人罪で捕まった時、また彼のことを思い出したのです。ニュースの内容によるとNは精神異常者であり、大学にいたときから、二カ月に一回のペースで付き合っていた女を殺していたらしいのです。
私はそのニュースを見ながらコーヒーを片手にNがたった一人、殺さなかったであろう人の事を考えていました。そしてNの最初で最後の恋について思いふけっていました。
ちっぽけ モネルナ @Moneruna_Artist
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