閑話553・『どろむしゃ』

度し難い、そう、キョウは湖畔の街で私を探している。


何時もなら駆け寄って抱き締めるが今回はそうもいかない。


彼女は狂っている、トチ狂っている、そして愛すべき存在。


「何処?」


「何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処」


「ここ?」


「此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処」


「何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処此処」


「そこ?」


「其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処其処」


「うえええ」


「ああああん」


「いない」


声は街に響き渡る、頭痛が激しくなる、まるで全てを引きずり込む闇の底、底には何も無い。


彼女の声は愛くるしくも人を苦しませる。


愛が苦しい。


「何処ぉ」


「何処だろう」


「俺の私」


「私の俺がここにいるのです」


「寂しいのです」


「抱かせてください」


「抱かせてやろうか」


「どっちでもいいぞ」


「ねえ」


「聞こえてる?」


「ねえねえねえねえ」


「あ」


「――――――――――見付けた」


「あれ?違う」


………影武者用の泥人形を見間違えた?


それはそれでショックだよォ。

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