閑話369・『干した魚に個性を求む』

エルフが恐怖に塗れた表情をして涙ながらに逃げ出すのは追い掛けるのが楽しくなって良い。


問題は顔を紅葉のように赤らめて崇拝して来る類の輩だ、敬意と愛情で―――なにそれ。


狩りで小さな動物に懐かれて殺せなくなると似ている、感性が豊かなエルフはすぐさまに干渉されて支配されて餌になる。


今回がそれだった、俺を崇める小さな女の子を食べた。


なんかやだ、抵抗してくれた方が?


「ん?」


『どうしたの?』


「けぷぅ」


『あら、お行儀が悪いよォ』


「けぷぷく」


『エルフ臭い吐息』


「そうか?しかし懐くエルフはいらねーな、食い難い、邪魔」


伸びをしながら沈む夕日を見詰める、黄昏は終わり夜が来る、あの世とこの世の合間が終わるのだ、何時もの様に。


エルフも同じだ、さっきまで生きててさっき死んだ。


夕暮れが夜になるのと同じ。


「でも、どうして食う奴を讃えるんだろう?」


『エルフはそーゆーものだからねェ』


キョウの言葉は何の答えにもなっていない、答えでは無く俺の言葉に『応えた』だけだ、そこに誠実さの欠片も無く―――エルフなんて餌なんだから悩むなって意思を感じる。


「それでも悩むぜ」


『どぉして』


「どうしてって」


ベッドの上で溜息を吐き出す、自分自身なのにどうしてこうも噛み合わないんだろう。


エルフに歯を突き刺すのはあんなにも簡単なのに。


どうして自分自身で。


エルフ嫌い?


「どうして、そんなに何も感じないんだ―――怖い」


『ふふん』


「キョウっ」


『餌が逃げようが崇めて来ようが餌は餌だよ、魚の干物を食べる時にその魚の性格を知りたい?』


「あ」


『変なキョウ』


おれが、へんなのか。


へん?

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