閑話359・『くんかくんか星人』

どうしようもない衝動を抱えたままキョウの相手をする。


この子の全てを独り占めしたいと思う反面、他者に自慢したいとも思う。


私の最も綺麗な部分の集合体であるキョウ、しかし本人は呑気に太ももを掻きながら窓際で欠伸をしている。


「痒いぜ、蚊に刺された」


「色っぽさの欠片も無いよォ」


「あん?」


不機嫌そうに太ももを掻いたまま私を睨むキョウ、グロリアや私と同じ顔だけど何処か品が無い。


しかし所作は美しい、まるで産まれながらの王族のように―――――両親とも神だからまあわかるけどね。


卑しくも美しい生き物、窓辺で欠伸を噛み殺している。


「蚊にさされたー」


「聞いたよ」


「蚊に刺された!」


「声が五月蠅いっ」


「この場合は五月蚊なのか?ハエなのか蚊なのか」


「―――ハエだよ」


「ちぇ」


ととととととと、子供のような足取りでこちらに近付いて来るキョウ、そのままソファーの上にいる私に飛び込んでくる。


柔らかい感触と甘い香り、ミルクのような匂い、お日様の香り、複雑なそれを胸一杯に吸い込む。


こほっ、むせる。


「何してんだぜ?」


「き、キョウの香りを楽しもうと」


「キモッ」


「あははは、キモくて結構」


抱き締めたまま首元の匂いを嗅ぐ、キョウは顔を真っ赤にして嫌がる。


そそるだけ。


そそる。


「もっと嫌がれェ」


「ひいぃいいいい、か、嗅ぐんじゃないぜ」


「ん、汗の臭い、ちょい臭いよ」


「ひん」


キョウが泣いたので反省したよォ。

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