閑話350・『獣かわいや』

人間の形をしている以上は四足は不便なはずだがキョウはそれを感じさせない動きで生活している。


どんな高い場所もひょいと飛び乗る、下りる時も同様だ、手を猫の手にして顔を擦ったり伸びをして太陽の光を受けてウトウトしている。


元々小柄で運動神経も人間のソレを超越しているのでわからなくも無い、でもやっぱり一部の細胞が原因なのかなとも思う、動物組、でもコレでは猫だ。


猫の一部はいなかったように思う。


「んなー」


「…………この、この、この」


「んなあああああ」


お腹を見せて転がっていたので乱暴にお腹を撫でる、柔らかさの向こうに柔軟な筋肉がわかる、猫科の動物特有の引き締まった長い四肢を連想させるソレ、全てが効率的で機能美に溢れている。


キョウは嫌がっているのか喜んでいるのか微妙な表情で私の腕に猫パンチをかます―――――爪を綺麗に切ってはいるが純粋に痛い、痛いよォ。


「いたたたた」


「ふっふっふっ」


短い呼吸と素早い動作、私が痛がっているのが楽しいのか目を爛々と輝かせて一直線に私の腕を見詰めている、お尻に尻尾があったら左右に揺れてるだろう。


ひぃ、逃げ出そうとしても先回りにして追撃、こちらの動きがわかっているのか逃げ切ることは出来ずに押し倒される、肉食動物に襲われるのはこんな気持ち?


「ま、負けましたァ」


「なぁ」


「よしよし」


「♪」


「負けを認めると後はご機嫌か……わかりやすい娘」


「んな」


ぺしぺしぺし、頭を撫でてやるとお返しとばかりオデコを叩かれる、しかし先程と違って痛く無い。


見上げるとキョウの整った顔が視界に飛び込む、一切の無駄の無い神の造形による少女の顔、そこには美しさしか無い。


愛くるしい。


愛が苦しい。


愛苦しいよォ。


「ぺろぺろ」


「うひゃあ」


「?」


「……死ぬ、私はここで死ぬんだ」


幸せ過ぎて死ぬんだ。


役得……役得で死ぬ。


ああ。

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