閑話345・『咳き込み回路2』

キョウが咳き込んでいる、とてもとてもしんどそうだ、代わって上げたい。


役立たずの狐は周囲でウロウロと様子を窺う事しか出来無い、暗殺なら簡単に出来るのに看病は出来無い。


狂った人生を歩んで来た代償。


「こほ」


読んでいた絵本からキョウが顔を上げる、潤んだ瞳、やや充血したソレ、煩わしそうに目尻の涙を袖で拭う。


視線が絡む、儂は震えながらゆっくりと近付く、あああああ。


「ぁぁぁ」


「な、なんっすか」


口調の乱れたキョウに近付く、どうしてだろうか、動揺しているのじゃ――――儂はそれ以上に動揺している。


しかしキョウは溜息を吐き出して儂を抱え上げる、力無く垂れ下がる尾が見える。


ああ、儂がキョウの苦しみを―――願う。


「こほっ」


「あぁああ、キョウ、儂が代わってやれれば」


「え、何を?」


「咳き込む事をじゃ」


「……そんなに大した事じゃねぇぜ」


お腹に腕を絡ませてキョウが掠れた声で呟く。


儂の体から全てを奪ってキョウの栄養にして欲しい。


僅かなりにも喉の潤いになれば。


生きている価値を感じられる。


「こほっ」


「可哀想に、可哀想に」


「けほっ」


「―――――――」


愛らしいキョウの声が苦しみで歪む。


愛らしいのに狂おしい程に切なくなる。


疼きが――。


「けほっけほっ」


「あああああ」


「うるさいな、黙って懐炉になってろ―――なおるから、心配するな」


「う、うん」


儂は灰色狐をやめる。


儂は懐炉。

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