閑話342・『ポカポカ理由』

コホコホ、軽く咳き込むだけで灰色狐が顔を蒼褪めさせて俺を抱き締める。


ちらり、横目で見た自慢の尻尾は元気無く狼狽えている、そんなにも焦るような事か、すんすん、獣臭いのは嘘、甘い柑橘系の匂い。


薄暗い空に漂う雲のような色合いの髪が俺の睫毛に触れる、くすぐったいぜ。


「ああぁぁ、可哀想に、儂の可愛いキョウ」


「か、可哀想なのか可愛いのかどっちだぜ」


「キョウ、キョウ」


「ねえ、聞いて?」


襟首より短い位置にきっちりと切り揃えられたサイドの髪、前髪も同じようにきっちりと切り揃えられていて几帳面さを強調している、ぽんぽん。


親子の立場が逆転してしまっているがすんすん鼻を鳴らす灰色狐を放置する事も出来ない、頭を軽く撫でてやりながら長い溜息、わかってる、何時もの熱だ。


若さからか漆器のような艶やかさがある灰色狐の褐色肌、触ると一切の抵抗が無くすり抜ける、綺麗な肌。


「すんすん」


「ほら、ちーん」


「ちーん」


「鳴くのは良いけど泣くのは勘弁な、辛いぜ」


「じゅる、きょう」


「もう一回ちーん」


「ちーん」


服装は東の方で着られている『東方服』(とうほうふく)だ、服の脇からスリットにかけて幾つか紐を結ぶ部分が存在している……そして脇に近い部分は斜めに紐が取り付けられていて特徴的だ。


幾つかの紐は解けていて柔肌が見えるのはコイツの怠惰さ故だろう、黒の布地に蝶々の刺繍が良く映える、着崩れの音が妙に生々しい。


我慢だぜ。


「すんすん」


「まったく、可愛い奴め」


「か、可愛い娘め」


「俺は男だぜ」


「ふふ、そうかの」


「そうだぜ」


抱き締める小狐の体温、ポカポカするぜ。


眠くなる。


「ポカポカする」


「ね、熱が」


「ちげーよ」


テメェのせいだぜ。

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