閑話332・『ニキビたん』

「うーん、ニキビ出来た」


「ホントだ、つんつん」


「酷くなるから止めてェ」


前にも同じような事があったけど原因は明確だ、本来なら変化する事が無く永遠に神の傀儡として美しい体であるはずのシスターのそれ、キョウだけが例外だ。


悪食だ、悪食とは本来の意味であるならば民族的や風土的な通念をはみ出した行動に対して与えられた名前だ、しかしキョウは人間世界全てに反した行動をする。


エルフも食う、亜人も食う、人間も食う、魔族も食う、妖精も食う、そしてサソリも食う、全てを食らって自分にしてしまう、しかしそれらの栄養素がキョウに影響を与える。


そう、どいつもこいつも栄養でしか無いよ、どれだけ大層な名前があろうとねェ。


「頬っぺたに出来てて可愛い」


「ニキビやだなぁ」


「どうして?」


「うーん、グロリアと違うから?クロリアとも炎水とも違う、キョロとも」


「そりゃ他のシスターは変化に乏しいからねェ」


「みんなと同じが良い」


「だったら拾い食い止めなよ、つん」


ポチっ、何だかそんな効果音がしたと思うとキョウの姿が瞬間的に歪む、あ、あれ?


続いて何かが弾けるような音、気付けばキョウの姿は無く、何故か麒麟の姿に変化している、目線が下がるよォ。


「変化したぜ」


「え、ニキビじゃなくてボタンなのコレ」


「わかんないぜ」


麒麟の何処か几帳面さを感じさせる芯のある幼い声もキョウの口調だと何処か柔らかいものになる。


もごもご、何故か予想外の展開に照れて小さな口を不満足そうに動かしている、神獣のほっぺにニキビ、あ、消えないの。


シュール。


「ポチっ」


「あう」


ぽん、次は影不意の姿に変化する、何時も何処か栄養素の足りない太陽を知らないようなガラス細工の肌、そこにニキビ。


シュール。


「これ、ボタンだ」


「ニキビだぜ」


「ポチっ、ポチっ、ポチっ」


「あう」


ぽん、ぽん、ぽん――――――見事に三回変化。


「これ、ボタンだぜ」


「でしょ?」


涙目のキョウに私は微笑んだ。

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