閑話325・『熊リア2』

お腹を掻きながらキョウの芸をベッドの上で見る。


まあ、何とも言えない人間の尊厳を失ったようなポーズ、白磁の肌を赤く染めてご苦労様だ。


しかし。


「うん、キョウの芸も飽きたな」


「んなぁ!?」


「……嬉ション」


「それは芸じゃなくて躾の行き届いていない犬の生理的なものだよね」


「躾の行き届いていないキョウ」


「あん?」


「な、何でもねーぜ」


冗談のつもりが鋭い瞳で睨みつけられる、なにこの子怖いんだけどォ。


俺の横に腰掛けながら忙しく服の乱れを整える、顔を覗き込まれる、綺麗すぎる顔が無表情なのは怖い。


自分の顔でも。


「グロリアも躾ければ良いじゃん」


「お前、無理だろう」


「え」


「犬や馬の目を見てみろ、躾けれる動物だってわかる、知性でも無く感性でも無く……人と共存出来る生き物だって」


「う、うん」


「熊の目を見てみろ、あの人間を何とも思ってない共存不可能の目」


「う、うん」


「グロリアと同じだろ?」


「た、確かに」


共存不可能のガラス玉のような瞳、犬や馬のようなものとは違う、根本的にわかりあえない絶対的な差。


熊を家畜には出来無い、例え飼う事が出来ても家畜には成り下がらない、グロリアと同じ瞳だ、強者であり捕食者の瞳。


無理だぜェ。


「本人には伝えたのォ?」


「伝えたぜ……喜んでた」


「え」


「……グロリアはクマたん見たいで可愛いって」


「言い方っ、オブラートっっ」


「……本音はクマみたいに他の生き物を餌としか見てねぇぜ」


「それを言いなさい」


「死にたくねーぜ」


グロリアに『クマたん見たいで可愛い』って言ったらうへへって笑ったんだぜ?


言えるかよ。

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