閑話318・『道徳どう説く』

道徳を教え込む、キョウは『エルフライダー』になる以前は真っ当な価値観を持った人間だったが今や見る影もない。


この世界で生きて行く為に必須であると同時にそれに縛られ過ぎても『方向性』を見失う、指針として心の中に僅かでもあれば良い。


意識外で正邪と善悪の規範と成るものであり、個人の価値観に依存する事もあるが個々人の道徳観に共通性や一致はある、社会性とも関わる重要な精神性。


「どうとく」


「そうだよォ」


「………どう説く?」


「いやね、聞かれてもね、それを今から教えるんだよォ」


「ふーん」


ベッドの上で手足をジタバタさせて抵抗のポーズをするキョウ、自分の興味がある事以外にはこんな感じだ、笑顔で詰め寄ると軽く怯える。


左右の違う色合いの瞳が警戒で細まる、グロリアの言う事は素直に聞くのに困ったものだ、しかし道徳は今の内に教えとかないと……もう取り返しが……考えるな。


しかしどのように教えよう、習慣や慣習的規範が道徳の根本に存在する、文化によって大きく異なる価値感が差異を生む、しかし人間として『不利益』になる事に理由付けして正論にするのは何処の文化も同じだ。


共同体危害……集団や群れの規則を乱す行動は道徳的に禁じられるのは当たり前だ、殺人を筆頭に強盗や強かんなどは輪を乱し集団の内側から世界を崩壊させる、故にどのような文化でも不道徳視されている。


キョウを当て嵌めると殺人が一番の……しかしキョウは人間の群れに含まれるのと同時に人間を餌として認識している、排除されるべき生き物だが人間に含まれるべき存在でもある。


どうしたものか。


「えっと、悪い人間を食べるのはどうかな」


「んー」


「そしたら良い人間、うーん、凡庸からは好かれるよ」


「?つまる殺人者とか、人間の輪の外にいる奴を始末しつつお腹も膨らませて一石二鳥?」


「まあ、そだね」


一つの矢を用いて二羽の鷲を撃ち落とす意味合いなら一人の化け物が食欲を満たしつつ一人の悪者を殺す事になる、うん、何て表現すればよいのかな?


「そうすれば人間と仲良く出来るよォ」


「おぉお」


「どうだー」


「んー、悪い人間、美味しいかな」


「え」


「いや、悪い人間は美味しく無いと思う、良い人間の方が美味しそう、字面的に」


「た、確かに……悪い豚より良い豚のが美味しそうだもんねェ」


「うん」


「―――――――」


「じゃあ、この件は保留で」


保留にされた、チッ。

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