閑話306・『自分返却2』

汗が零れ落ちるのを眺め続けてどれだけの時間が経過しただろう、『あしがいたいー』そうやって甘えて来たキョウは笑顔で『椅子になって♪』と言った。


すぐそこに椅子があるのにも関わらずだ、しかし命令は絶対で、調教は完遂されないと、私はキョウのものだから。


キョウはずっと思い出せない『思い出』を囁いている、誰と過ごしたかわからない日々。


希薄で消えかけの記憶。


「わかんない」


「―――――――――――」


私の背中にお尻を擦り付けながらキョウは呟く、部下子の記憶は完全にほぼ消えている、アクのそれを思い出そうとしているのだろう。


残念ながら無駄な行為だ、そして既に消えてしまった無駄な好意。


好きになっても恋しても意味が無い。


「どうしてお前だけ」


「あう」


「お前だけ、大事な人を……俺からそいつ等を奪ったのはお前じゃねーのか」


「ちがう、よ」


私は奪わない、奪うのではなく消える、エルフライダーの習性がキョウの大切な人を奪う、そうする事で永遠に生きられる。


ずっといるのは私だけ。


「おれからうばうきだろ」


「奪わない、あう」


「奪う、お前はそーゆー女だ」


「――――――――――」


「あく、返せ」


「あのこ、は、わたしじゃない、きょうのなかに」


「返せ、バカ」


お尻で何度も踏み付ける、柔らかい感触だが悪意に満ちた全力のソレ、汗がさらに零れ落ちる。



四肢が折れそうになる。


心は折れそうにならない。


愛してるから。


「返してよ―――お願いだから」


「違うんだよ、キョウ」


もうそいつらはキョウの栄養になったの。


後は糞尿になるだけ。

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