閑話303・『自分返却』

今まで沢山の者を壊して来た、沢山の物も壊して来た、物でも人でも心でも壊せるものは簡単に壊せた。


一番怖しやすいのは自分の心だ、何時も呆気無く砕ける、壊すのは楽しく無い、一番楽しく無いのに一番怖しやすい。


でも同じ心なのに理不尽だ、キョウは壊れない、何時だって俺の大事な人と思い出を保有している、理不尽だ、羨ましい?


わかんない。


「わかんない」


「―――――――――――」


キョウの背中にお尻を擦り付けながら顎に手を当てて思案する、汗が零れている、まあこの状態で数時間は経過している。


一言も文句を言わない半身に苦笑しながら思案するのだ、俺はどうして虐めているのだろう、嫉妬では無い様な気がするし、嫉妬のような。


あ、く、だれかのことも、覚えてるだろ?


俺は忘れたのに。


「どうしてお前だけ」


「あう」


「お前だけ、大事な人を……俺からそいつ等を奪ったのはお前じゃねーのか」


「ちがう、よ」


泣きそうな声のキョウ、男性の保護欲を刺激して同性に疎まれるような甘ったるい声、しかし俺には通用しない。


俺は私だから。


「おれからうばうきだろ」


「奪わない、あう」


「奪う、お前はそーゆー女だ」


「――――――――――」


「あく、返せ」


「あのこ、は、わたしじゃない、きょうのなかに」


「返せ、バカ」


お尻で何度も踏み付けると汗の量が増えて面白い、俺は何を返して欲しいんだろう?


何かを何時だって奪われてる、何時だって気付かずに奪われている。


誰に?


こいつに?


私に?


「返してよ―――お願いだから」


「違うんだよ、キョウ」


違わない、返せ。


お願い。

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