閑話295・『おふぃんふぃん』

澱みの無い笑顔で澱んだ単語が聞こえた、キョウはとても楽しそうに笑う。


「キョウ、ちんちん」


犬の躾なのだから当たり前だ、赤面するような言葉だが純粋な意味合いは違う。


実は語源は『男性生殖器』を指すのでは無く『鎮座』から来ている、犬のお尻が地面に触れている様から……まあ、それをしなくてもだ。


つまり両腕を前に差し出して足を広げて―――全てを曝け出せば良い、お手の次にポピュラーだ、おかしな事では無い、おかしな事では。


「ん?どうしたァ」


「き、キョウ」


「ちんちんしろ、おらぁ」


癇癪持ち、エルフライダーとしての生物の特性、感情の起伏は激しく己の一方的な都合で相手をなじる、なぶる、そして躾ける、恐ろしい生き物。


薄暗い部屋で強要された一芸はすぐさまやるには抵抗が大きく、意識が一瞬だけ何処かに飛んでしまう、キョウは私の髪を掴んで引き寄せる、鼻の頭がぶつかる。


躾ける方と躾けられる側、同じ顔なのに。


「い、痛いよ」


「あ、ご、ごめん」


すぐに何時ものキョウに戻る、他者が見れば異様な切り替わりだろう、しかしキョウは無自覚だ、悪いと思ったから謝った、苛立ったから髪を掴んで暴行した。


どちらも同じだ。


「い、痛かったか?」


「髪の毛抜けちゃう」


「そう、だぜ、でも」


「そうだね、ちゃんと芸が出来無い私が悪いよねェ」


泣きそうな顔になるキョウ、指の隙間には金糸と銀糸が入り混じった髪が数本見える、咄嗟の事だったから力が入ったのだろう、その意図を読み取って上げれなかった私が悪い。


「おちんちん出来無いの?」


「え、あ」


「犬でも出来るのに、俺の一番大切なキョウはそんな事も出来無いの?」


「あ」


「犬以下だっけ」


無表情、では無い。


何処か悲しそうで、何処か呆れていて、何かを捨てる時の表情。


あ。


あ。


あ?


「でき、ます」

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